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ゴキブリになった僕  作者: 秋和翔
7/13

男と彼女

 謝罪

 僕の認識では、明記していなくとも主人公の人体を植物状態として扱っています。しかし植物状態とは端的にいうと昏睡状態や意思疎通などができない状態が"3ヶ月以上"続くことだそうです。これまで3ヶ月経っていないのに、そうした風に扱った描写がありましたらすみません。さらに植物人間とは差別的であるとして使用を避ける傾向にあるそうですね。僕はそんな意識はなかったのですが、もし使用をして不快な気持ちをした人がいましたらすみません。まぁ読んでいる人が少ないのが幸いですね。

 誤字脱字もこの際謝っておきます。気付いても直すのが面倒なので致しません。すみません。

 ちなみに植物状態のことを遷延性意識障害というそうです。


 なんだかんだで僕がゴキブリになってから4ヶ月も経ってしまった。もちろんこの間に彼女に姿を見せたが、殺されかけただけである。策を頭で練っても形には全くならない。ちなみに僕は粘土が苦手だ。

 そろそろ最後に姿を見せてから1ヶ月が経つので、早く彼女に何かしらの接触を試みなければいけない。数うちゃあたる方式でいければいいのだが、僕の命がかかっているのでそういうわけにもいかない。

 今日は彼女と僕の写真立ての前で待機しようと壁を登る。壁には何回か登ったのでスムーズに写真立てのところまでたどり着く。壁を登るのはコツさえつかめれば簡単だ。人生のほとんどのことはコツさえつかめればなんとかなることが多い気がする。

 写真の自分の前に僕は立つ。この写真は水族館でのものだ。大きな水槽の前で写真を撮ってもらった。写真が嫌いな僕が彼女と撮った数少ない写真の1つだ。今、僕は運命の大海で泳げずにもがいている。いや僕が大海と思っているだけで、少し大きな水槽に過ぎないのかもしれない。

 

 そんな感傷にひたっていると玄関が開く音がした。僕は写真の自分を覆い隠すようにお尻を上にして、写真立てにもたれかかる。

 声がする。どうぞ中に入ってと。どうやら今日は1人ではないようだ。僕がこんな姿になってから彼女の家に誰かが訪れるのは僕の親を除けば初めてのことだ。誰だろうと緊張する。

 お邪魔しますと聞こえた声は男。そして僕はこの声に聞き覚えがあった。懐かしい声、優しい声。リビングに彼女の後ろについて入ってきた男を見てやはりと思わずにはいらない。大学時代のサークルの仲間だ。相変わらずのイケメンである。

 僕は咄嗟に写真立ての後ろに姿を隠し、様子を窺う。

「今日は彼のお見舞いありがとね。お茶かコーヒーどっちがいい」

「いや遅くなってごめん。ほんとはもっと早くに来たかったんだけど忙しくて。お茶でいいよ」このイケメン君は僕のお見舞いに来てくれたのか。僕は感激して触覚を震わした。ちなみにこのイケメン君は他人の淹れたコーヒーは飲まない。自分のこだわりがあるようだった。卒業してもそれは変わらないようだ。

「やっぱりコーヒーは自分の淹れたのしか飲まないんだ。変わらないね。はい、お茶どーぞ」どうやら彼女もしっかり覚えていたらしい。彼女の顔は最近見たなかで一番ほぐれた表情だ。僕もつい触覚が動いてしまった。

「最近はコーヒーじゃなくてお酒ばっかりだよ。豆とか買ったり色々するのがめんどくさくなっちゃって。お茶どーも」

 彼女達はまるで大学生に戻ったかのように談笑する。僕も加わりたいなと思いながら話を聞いていた。しかし話は僕の望まない方向にここから展開する。

「いつまであいつのこと待ってるつもりなの」とイケメン君が急に真剣な顔をして彼女に聞く。僕は何を聞いているんだと言いたくなるが、ぐっとこらえる。彼女達からしたら変な鳴き声が聞こえるだけだ。それに彼女がどのくらい待ってくれるのは僕も気になるとこである。

 彼女はイケメン君の真意を探るようにじっと顔を見つめてから口を開いた。

「それは私にも分からないよ。だけど今は彼が目を覚めるまで待つつもりだよ」

 そういった彼女の声は僕の両親と話したときより力強かった。それを嬉しいと思う僕もいたが、儚いと思う僕もいた。

「いつ目覚めるかも分からない男を待つなんて、人生を無駄にするようなことはするなよ。あいつはいい男だったけど、そこまですることはないだろ。話して思ったけど、あいつを待つのは愛なのか。俺には罪悪感から待っているようにしか感じられない。あいつが今の状態になっているのに責任を感じることはない。あいつと別れることは、あいつを裏切ることじゃないんだ。それに目が覚めたとしても、あいつが今までどうりの生活ができるとは思えない。それに耐えれなくて別れるようになるくらいなら、今別れたほうがお互いに傷が浅くて済むんじゃないか」

 イケメン君の真意が分からない。彼女を心配してなのか、俺のことを考えてくれているのか。確かに目が覚めて別れられるよりは、知らない間に関係が消えているほうが。いや、今の僕にしたら知らない間に関係が消えることはない。それにどっちの方が傷が浅いなんて想像できない。実際にそうならないと分からない。 

「私は何を言われても彼のことを待つって決めたの。もう決めたの。愛とか罪悪感とかはよく分からないけどどんな彼でも一緒にいれるのならいたい。今はこの気持ちに素直にいたいの」

「そんなこと言うなら、寂しそうな顔を見せるな。今にも泣きだしそうな目をするな。俺はそんな顔をみたくない」

「そんなの・・・仕方ないじゃない。今でも彼が私を見ながら意識を失っていった光景が頭から離れないの。大切な人が目の前で・・・。あれが彼との最後の思い出なるって思ったら・・・。そんなのは嫌。嫌なの」

 彼女はそう言いながら涙を流した。夕刻の太陽は彼女の涙を赤く染めた。彼女は紅涙を拭うと、大きく息を吐いた。

 そんな彼女を僕は優しく抱きしめたかった。だけど彼女を抱きしめたのはイケメン君だった。抱きしめられたら彼女は川が氾濫したかのように、ダムが決壊したかのように咽び泣いた。

 僕は他の男の胸で泣く彼女をただ見ているだけだった。情けない。その気持ちが心の底から溢れる。今の僕には空涙すら流れなかった。

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