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ゴキブリになった僕  作者: 秋和翔
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姿を見せても

 僕はついに彼女の前に姿を見せることにした。この決心をするのにゴキブリになってかた2週間もかかってしまった。自分でも時間が少しかかりすぎたなと思う。でも彼女や友達のような僕を想ってくれたり心配してくれるような人がいなければもっと時間がかかったと思う。まぁ彼女がいなければゴキブリに転生すらしていていないのだけど。

 彼女がバイトから帰ってきて夕方。僕は意を決してタンス横から姿を出した。そのまま彼女の目の前にゆっくりと進む。

 彼女との距離が約70cmで彼女が僕に気付いた。彼女は僕に対して今までに見せたことのないような表情を見せた。嫌悪と侮蔑と殺意の混じった顔。あんな顔を向けられたのは人生で初めてだった。彼女は近くにあった雑誌を丸め、僕に対して振りかざす。僕はこれをよけ、すぐさま物陰に隠れる。彼女の顔はまだ変わらない。雑誌を持ったまま臨戦態勢だ。僕はさらに奥に身を潜めた。

 僕はひどく落ち込んだ。彼女のあそこまでの変貌ぶりに。ゴキブリになった僕を分からなくてもそれは仕方ない。そう思っていたけど、まさか殺されそうになるとは思っていなかった。あんなに愛し合った人に殺されそうになるなんて。あんな顔を見ることになるなんて。

 僕は気づいた。ゴキブリである自分を彼女に気付かせることなどほとんど不可能なんじゃないかと。っていうか不可能だ。言葉はおろか身ぶり手ぶりで意志を伝えることすらかなわないのだ。どうやって僕が僕であることを伝えろっていうんだ。


 次の日彼女は朝から病院に向かった。3時間ほどして彼女の手にはビニール袋が握られていた。彼女は机にビニール袋を置くと商品を出した。"Gジェット"。スプレー式のゴキブリ駆除商品だ。完全に僕を殺しに来ている。対策が早い。彼女はさっそく何回か試しに使っている。その顔はまさしく西部のガンマン・・・ほどの勇ましさはなかったが、殺意は確実にあった。これではしばらく彼女の前に姿を見せることは出来そうにない。彼女は試し終わると少し満足した様子を見せた。いつも見ていた穏やかな表情。それがもう僕に向けられることはないのかもしれないと思うと胸が痛む。

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