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ゴキブリになった僕  作者: 秋和翔
2/13

思い出

 次の日、彼女はスーツを着て出かけて行った。僕が事故に合って意識を失ったままでいるのに。事故からまだ二日しか経っていない。

 僕は会社が休むなと言ったんだから仕方ないと自分に言い聞かせながらも、やはり少し寂しかった。

 僕は彼女との思い出を振り返っていた。

 彼女とは高校で知り合った。告白は彼女からだった。僕は誰かに告白されるのが初めてだった。自分を好きと言葉にしてくれる者はこれまでいなかった。別に彼女を好きだったわけではなかったが、付き合うことにした。

 最初は彼女に対して好意よりは厚意という感じだった。なんとなく付き合っていた。それがいつしか自分の心も惹かれるようになった。そうしていつの間にか大学を卒業をしても付き合っていた。喧嘩は少ないほうだった。今思うと互いに気を遣っていたんだと思う。

 就職して、結婚を意識をし始めていたころだった。不意に終わりが訪れた。幸せなときは不幸せになることなど想像すらしない。不幸せなときは幸せを求めてもがくのに。

 そんなこと考えていたら、家の扉が開いて彼女が帰ってきた。まだ出かけてから2時間も経っていない。彼女はスーツを脱ぎ、部屋着に着替える。僕がプレゼントしたものだ。

「仕事やめちゃった。彼は怒るかな。怒られてもいいから・・・早く目を覚ましてほしい」彼女は小さくつぶやいた。

 彼女は仕事について何度か僕に相談していた。その度に僕は頑張れ。とりあえず1日1日づつ頑張ればいいんだよと励ました。逃げ道を用意するより、進む道を用意をすることが正しいと思っていた。でもそれは少し間違っていたかもしれないと、1度死んでゴキブリになってから気づいた。彼女がここまで追い込まれているのに気が付いていなかった。

 彼女は僕との思い出を喋り始めた。自分自身にこれまでの思い出は確かにあると、まだ自分の中には彼がいると言い聞かせるように。僕が忘れてしまっていることも多かった。他愛もないこともあった。そのどれもが今の僕たちにはもう起こらないかもしれないことだ。1つ1つに重みが、意味があるように感じた。

 初めてのデート。プラレタリウムにいったこと。初めてのキス。旅行。ごくたまにした喧嘩。今の僕たちには喧嘩すら感慨深い思い出となる。僕がこんなことになる前のことが急に意味を持ちだすそんな感じだ。

 彼女は思い出すほどにつらそうだった。でも僕はなにもすることが出来なかった。

 彼女は立ち上がって棚を開けた。彼女が取り出したのは箱だった。それを椅子に座って中身を取り出す。中身は手紙のようだった。僕が彼女にあてた手紙だ。

 喧嘩したとき、記念日にプレゼント一緒に渡したときのもの。その一通一通にゆっくりと目を通す。彼女は泣きながらそれを読んでいた。僕の面影を必死に探して孤独を埋めようとしていた。


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