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ゴキブリになった僕  作者: 秋和翔
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プロローグ

ゴキブリのことなんて一切知りません。リサーチもしてません。すべて僕のイメージのゴキブリで書いていきます。

「ダメ・・・・。死んじゃ嫌だよ。だから・・・死なないで。頑張って」輪郭がぼんやりとした彼女が叫んでいる。しかし彼女の姿はますますぼんやりとし、叫び声も遠くなり、意識が薄くなる。そうして僕は薄れる意識のなかで自分のこれまでを振り返った。たいした学歴も功績もなかったが、それなり幸せだった。それに最後に僕の瞳に映っているものが、彼女だとは予想もしていなかった。いや最近は死ぬことなんて考えていなかった。死は急に訪れるものなんだなと改めて感じた。

目を覚ますと周りが真っ白な空間にいた。少しすると目の前に一人の男がいた。全く気がつかなった。そしてその男が口を開いた。

「君は亡くなってしまった。だが君にはチャンスが与えられた」チャンスとはなんだと僕は聞く。彼は僕の瞳をじっくりと見つめた。僕はつい目を逸らしてしまう。

「簡単にいうと生き返りのチャンスだ。君は現世で・・・・善い行いをしたというわけではない。普通の人だ。だが私達は愛というものを確かめたいと思っている。そこで君と君の彼女が選ばれたわけだ」僕が顔を綻ばせると男は険しい顔で続けた。

「もちろん、すぐに生き返れるわけではない。まず君と彼女との愛を確認する。そのために君にはゴキブリになってもらう」僕はゴキブリになるという急な話の飛躍に驚く。そんな僕を無視して男は話を続けていた。

「どうする。君はゴキブリになるかならないか」僕はもちろん答えた。迷うことなど何もなかった。

「はい。僕はゴキブリになります」

 そして目の前が明るくなって何も見えなくなる。


 目の前に広がったのは、見たことあるようなないような景色だ。しばらくして気が付いた。僕がいるところは彼女の家だった。いつも見る景色と違ったのは見ている目線が違うからだ。いつもは人の目線だったが、今日からはゴキブリだ。僕は改めて男に言われたこと思い出していた。

「君がゴキブリになってすることが出来れば、もう一度人間の君として生き返ることが出来る。では君がすることはただひとつ。それは彼女にゴキブリの姿の君に気づいてもらうことだ。姿が変わっても君と分かる。それが愛の証明だ」

 僕はそれが不可能だと思いながらも、それにすがるしかなかった。

 僕はゆっくりと彼女の家を見回った。なにもかもが大きい。一通り見回ったら何もすることがなくなった。時計をみる。もう8時だ。彼女はまだ家にはいない。僕が事故に会ってから何日経ったのだろうか。僕は時計を見ながら彼女をまつ。10分。20分。30分ほど経ったころ玄関の扉が開く音がした。

 家に帰ってきた彼女はそのまま布団に倒れこみ、泣いていた。僕は彼女にかける言葉どころか、寄り添うことすら今はできない。

 彼女はしばらく泣いたあと、頬を濡らしたまま眠った。そんな彼女をしばらく見たあと、物陰に隠れて僕も眠った。ゴキブリも眠れるんだな。

 目が覚めて時計を見ると、14時をまわっていた。彼女はまだ眠っている。少しすると彼女は起きてきた。顔はまだ暗い。彼女は携帯電話を取りだし、どこかに電話をかける。少し間があって彼女の口が動き出す。小さなか弱い声を絞り出す。

 彼女が電話をかけている先はどうやら会社のようだった。僕たちに起こった出来事の概要を伝える。僕の知らない情報もいくつかあった。僕は近くの総合病院に入院していること。意識が戻らないこと。そしてこのまま意識を取り戻さない可能性のほうが高いこと。彼女は会社に2,3日の休暇を頼んでいるようだった。

 しかし会社はそれを認めなかったらしい。彼女は何回も電話越しの相手に頭を下げていた。しかしもういいですの一言を言って電話を切ってしまった。彼女はまた布団に倒れこんだ。

「家族じゃなきゃ大切な人がこんなにも大変なときに寄り添えない。私の会社ってホントにクズだ」そう言って鼻をすすった。しかしまた電話をまた手にして、どこかに電話をかける。

 今度は僕の会社らしい。さっきと同じように僕たちに起こったことを伝えている。 そして最後に僕の病室の番号を伝え電話を切った。

 彼女はテレビをつけた。テレビでは天気予報を伝えていた。彼女はテレビをぼうっと見つめていた。

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