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連鎖
どろどろの路上生活者の絶望に
差し出された一本の水とはなにか
絶望は闇に親しく
夜明けの光で揮発する
それは花粉の飛散するように
PM2.5の街を席巻するように
あるありふれた朝の絶望が
彼をして彼女をして
終末に向かわせる
彼らは例外なく空腹だ
魂は渇ききっている
逆光の少女が
差し出したのは
330mlのミネラルウォーター
その透明は
ひび割れた唇を潤し
強張った舌を速やかにほぐして
空洞となった消化器を目覚めさせる
つま先まで実感が満れば
魂の暗渠より
陽炎のように立ち上るものは……
食欲!
生きる今の頂点への衝動!
何物にも奪われることのないおまえ自身!
始まり!
曇り空を覆う死に対峙する爆発!
身の内で水蒸気は炎となる
絶えざる連鎖よ
人間はやはり水から始まるのだ