『異世界・転生・転移』のテンプレ議論はするだけ無駄!
________ もくじ ________
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| ▶︎いせかいは なぜ てんぷれ? |
| らいとのべるの れきし |
| をたくは くろうした |
| なろうの めでぃあか けいけんち |
| けつろん |
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日々入れ替わりの激しい、ジャンル別ランキング。
その枠内でとっ散らかった、一部の考察エッセイ達を読み終えて抱いた私の感想は、「随分と詮無い話をしてるなぁ」だった。
正直な話、今まで他人のエッセイに食指が動く事はこれっぽっちも無かったのだけど、自分が似た様なエッセイ(と呼べるかどうか構成も怪しい雑記の様なもの)をつらつらと書き連ね始めた事がきっかけで、単純ながら意識し始める様になった。
例えば一つ、『複数のアカウントによる不正ポイント』であったり、『レビュー・ブックマーク登録数が作品に与える影響』とか、『主人公のTS(性転換)って意味あんのかよ?』だの、『悪役令嬢が悪役にならない矛盾点』等々。
探してみれば、そんなエッセイならではの感性豊かな言葉達が、同じ小さな文箱の中でひっそりと積み重なっている。それはそれは奇妙なアンバランスさで。
……まぁ、体裁を取り繕って並べたが正直に言うと、敢えて狙って筆述したのだとしても過激で恐れ知らずな方が多いなぁ、と感じる作品達の事だ。(普通アンチ怖いよね?)
あちこちに転がっているそんな異彩放つ、かと思えば堅実な印象を与える数々の随筆の中でも、極端なまでに論理的に解釈されているテーマがあった。タイトルから薄々お気付きかも知れないが、所謂『ジャンル(設定)』について、である。
突き詰めると、『なろうはなぜ異世界ジャンルばかりなのか?』、『転移・転生が近年のテンプレである理由』、『主人公がチートで無双しかしない件』と言った、一見シンプルではあるものの、しかし書き手目線に立った際、単調なジャンルと断言するには些か難しい特徴的な内容の事だ。ある意味ご都合主義な展開を練るには適している題材とも言えるけれど、長編でも短編でも『完結が絶対』の前提で話を進めるので、ここでは扱い辛いジャンルに位置付けておく。
ついてはそれに対して論じられていた肝心の、異世界・転生・転移類がテンプレに成り得る理由の考察について答えよう。
バラエティに富む少々ごちゃっとしていた(ブーメラン)複数の意見を纏めると、大半が「読者が『感情移入<自己投影』型だから」だった。
要するに、主人公がオタクやニートな設定に次いで、読者が辛い現実から逃避するためとか、ストレス社会故に主人公最強設定の爽快感を求めている、と言えば分かりやすいかな?
まるで映像の中に飛び込んだ様な錯覚を覚える、創作でしか味わえない華々しい『人生逆転劇』と言えば聞こえはいいが、その本質は『努力を放棄した主人公』或いは『比較的簡単に苦労が実を結ぶ』等々、現実ではこうはいかないだろうと唸る位、甘っちょろい世界が描かれたものだ。
例えば、「転生してた。早くも五歳。魔法使えたみたい。よし、試しに……ファイヤーボール!」とか、「おい、スキル獲得と発動の前兆どこいった?」みたいな、緻密な行動過程が一切無いものに有りがちだと思う。
無論、テンポ良く物語が進みながら主人公が無双する話は、読者の強い願望を作品内で擬似的に叶えているのだから需要はあると言えよう。(自分も一部好んで読んでるしね!)
先述した特徴を含め、『主人公が下剋上するには一旦リセット(転生)させるのが手っ取り早い』とか、『読者が現実で抱く劣等感から目を背けるため』の様な、色とりどりの見解を目に通した時、「成る程〜、確かに!」と納得すると同時に、それだけが決して大きな主因ではないと考えられた。
と言うのも、『異世界・転生・転移』の設定そのものが、現代の産物ではないからだ。
勿体振るなよ?
まあまあ、一先ず皆が分かる様に説明するので待って欲しい。(全年齢指定モットーなのよ!)
順を追って説明すると、実は『古事記』、『日本書紀』等の神話時代から、異世界なるものが登場している。のみならず、誰もが知る『シンデレラ』も然り、グリム童話で登場する悪役がほとんど女性である事を踏まえると、現在増えつつある悪役令嬢ものこそ、その派生形である。
先ず、八十年代でそうした非現実的な内容を創作に用いる作品が増え始めた。
幾つか類似作品は存在するものの、知る人ぞ知る『アリスシリーズ』、『異次元騎士カズマ』、『女神転生』、『ロードス島戦記』、『妖精作戦』は、現在の異世界設定をライトノベルと言う形で先駆けた特に有名な作品だ。(文章や構成力はともかく)
更に九十年代になると、それまで『ジュヴナイル』或いは『ヤングアダルト』と呼ばれていたものが『ライトノベル』と命名される。
そのきっかけである、天才美少女魔道士(自称)を中心に読者を魅了した『スレイヤーズ』を皮切りに、『魔術師オーフェン』、『フォーチュンクエスト』、『風の大陸』、『十二国記』を含めた剣と魔法の世界に加え、転移や召喚系の作品がどっと溢れ出たと言われている。
他にも、あの『日帰りクエスト』や『ふしぎ遊戯』を見れば、『芯の強い女主人公』の風潮が根付く足掛かりとなっている事が分かるだろう。
簡単に一例を示したけれど、言うまでもなくライトノベル以外にも当時、ファンタジーと言う概念を世に知らしめたものが存在する。今も絶大な人気を誇る『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』と言った、巷で言われるゲームの事だ。(流石にこの辺は小中高生でも分かるハズ……!)
尚、詳細に説明しておきながら何だが念のため一つ否定しておくと、私がここで主張したい事は、ライトノベルの起源についてではない。
バブル崩壊直前である、九十年代の出版業界における繁栄は畢竟するに、ファンタジー流行衰退の一途を辿る事になった。にも拘らず、二千年代でいきなり『流行が再燃する』と言う部分に重きを置いた、全く相異なるものだ。
それはさておき、では、世代が飽きを感じ始めた頃、加えて景気に影を落とした経済状況でありながら、ファンタジージャンルを看板にしていたライトノベルが勢いを盛り返す糸口は何だったのだろう?
それは、今で言う『日常・学園系』を主軸として、『日常×非日常』或いは『学園×異能バトル』の様に、題材を新たに『上書き』した作品達が台頭すると共に、『萌え』や『オタク』等の、若者言葉が広く用いられる様になった影響が大きい。後者は同時期、秋葉原や池袋等の地域活性化によって齎された効果が絶大だったし、その一例として、インターネットやメイド喫茶の普及が挙げられる。
ところで少し話が逸れるが、八十年代に低年齢の女児が被害に遭った痛ましい事件について、ご存知の方はどれ位いるのだろう?
オタクと言う存在に社会が関心を向ける事になった発端なのだが、なろうユーザーの平均年齢が若い世代である事を考えると、寧ろ初耳の方が多いかも知れない。仔細に話したいところではあるものの、長文になってしまうので簡潔に概要を述べようと思う。
要点を掻い摘んで言えば、犯人は対象の女児を誘拐し、猟奇殺人を犯した。
後々警察の捜査によって、加害者は幼女が登場する漫画やアニメを好んでいた事が明らかになるのだけど、当然ながら報道で事件の概要が知れ渡り、瞬く間に世間に『オタク=危険思考の持ち主』と言う認識を与えたのだ。
そこで俗に言う『ロリコン/ロリータ・コンプレックス(露語:Лоликон )』と呼ばれる単語が社会に浸透する程一般化した事が、今でも蔑視されている所以である。(※ロリコン=侮蔑語なので注意)
一部ではメディアの作為的報道等に物議を醸したが、遺族や当時の事件を知る方は、少なからず今も尚、良くない印象を抱いているだろう。この事件の顛末に関しては割愛するので、各自調べて情報を得て欲しい。
話を戻すと、かつてはそんな価値観が大衆に広まり、様々な方面で業界諸共余波を受けていた。事件から数年を経ても、いつの間にか人々に定着した偏見や差別行為は後を絶たない。どの時代にも共通する事で、現実社会やネットでもしょっちゅうネタとして笑いを誘っている行いや発言自体が、偏見を助長させていたりするのだから。体に負った大きな怪我の様に、時と共に必ず完治したとしても、その後遺症や傷跡は残ってしまうものだ。
けれど、そんな世論の逆風を怒涛の如く払拭した最たるものが、お馴染みの『電車男』だった。(詳細は2ちゃんで)
予想以上に大きな反響を呼んだ事から、やや作品に因んだ『オタク』の印象に変化したものの、多少とは言え緩和されたのは事実だと思う。
他にも、黒髪カチューシャがチャームポイントの奇想天外な少女の物語や、一癖も二癖もあるマフィア、殺し屋、盗賊、錬金術師達が不老不死の酒を求めて馬鹿騒ぎする群像劇等々……代表作品がアニメ化して人気を博した事で新たなレーベルが続々と創刊し、景気が回復軌道に乗った影響も大きい。並行して漫画やゲーム業界も弾みがついて行った。
まぁ、そもそもライトノベル自体、人々に認識され始めたのは比較的最近の話なのだけど、一先ずライトノベルに関する歴史はある程度お分かり頂けただろう。
要するに、ちょうど二十一世紀に差し掛かる頃に、一般的な『RPG寄りファンタジー』から『美少女萌え』、『現代学園』ものを舞台としたジャンルに移り変わった。
結果、紆余曲折を経て日常に『非日常』要素を取り入れた作品が大ヒットする、転換期を迎えたのだ。
さて、いよいよ本題に入ろう。
『異世界・転生・転移』のジャンルが何故、近年のテンプレであるとされ、且つ読者にウケているのか?
即ちそれは今現在、「異世界・転生・転移流行の真っ只中だから」である。
つまり、既に日常現代学園ものから異世界・転生系統への転換期を過ぎており、或いは未だ、そのイメチェンの途中なのだ。
昭和の傾向を見ての通り、一世を風靡した大元の作品がほとんどのジャンルに存在した。
一つの作品が新しい方向性で爆発的な人気を集めた時、先駆者を筆頭に大抵『既存のジャンルに一工夫凝らした作品』が次々と生み出されて行くもので、時代を問わず、それは現代にも当て嵌まる。
それに伴い、現在進行形で「また異世界転生ものかよ……」と嘆く方がいるけど、私は「まだまだ全然。これからもっと増える」と確信している。
なぜかって? 納得できる論理的説明求む?
……と、冗談は抜きにして、もしかしたら理由を知りたい人がいるかも知れないので、念のため手短に述べよう。抽象的な表現になってしまうが、その答えはこうだ。
「なろう発の作品が、初めてアニメ化した時期ってたった三年前なの、覚えてる?」
「最近アニメ化した作品、めっちゃ大成功したよね。あれも、異世界ものじゃん?」
私達なろうユーザーにしてみれば「お腹いっぱ〜い。ちょっと飽きたし次はあっちの寿司屋に行こう!」な気分だけど、普段そうしたライトノベルを読まない大衆目線となるとまた話は変わって来る。職業柄分かるのだけど、やはり映像化によって大半の人間が「え!? 新メニュー出てる! おいしそう!」の反応を見せるのだ。
だからこそ、先の話題作で『異世界・転生・転移』要素がふんだんに備わった異世界作品が認識され始めた今、これからどんどん、それはもう流行に乗り遅れまいとばかりに書籍化、時には映像化して流行を加速させるだろう。
異世界ジャンルに限らず、それとは全く別の、または似て非なる『俺TUEEE』、『剣と魔法』、『美少女ハーレム』、『VRMMO』、『悪役令嬢』であっても、全て同じ事が言えると思う。
沸騰した湯が放っておけば次第に冷めて水に戻る様に、『小説家になろう』と言う鍋に放り込まれた『ジャンル』達は、それこそ未だ尚「そろそろ沸くかな?」の、一歩手前の状態なのだ。スープがぐつぐつと煮え滾る頃にはピークを迎え、しかし肝心の火が消えれば何れ鎮静化るのは、最早明らかである。
前置きで説明した通り、そうしたきっかけ一つで明暗を繰り返して来た過去の傾向を見れば、今この瞬間も異世界ジャンルが多く排出され続ける理由の大部分が、『以前のテンプレを上書きした、近代的な異世界ものが流行してるから』と言う、非常に簡単な答えに帰結する。
そして、今直ぐでは無くともいつかは必ず、飽きられる日が来る。
次に新風を吹き込むジャンルがどんな系統なのか、ある程度の予測は出来るけど、それは勿論、未来の話なので分からない。
よって、私はこう結論付けたい。
「『異世界・転生・転移』のテンプレ議論はするだけ無駄!」と、ね。