12月3日(日) 思想と運動
「ボク、実は後…一か月しか生きられないんだ」
「余命…一か月なの」
「昨日から一か月だから…残り今日を入れて三十日…」
あの後、僕はすぐに銭湯から出て、未来を連れて家に帰った。家は電気も通ってないので既に真っ暗だ。ちなみに真奈は『未来ちゃんを宜しく』という旨の置手紙を残して帰っていた。多分、彼女の父親に呼び戻されたのだろう。あそこは厳しいからな…
「さ、もう早く寝よう…」
「…うん」
僕はボロボロの布団に潜り込んだ。冬は嫌いだ。夜は早いし、それに寒い。布団に入っても一つも温かくない。寧ろ、心が寂しくなってくる。こんな時、支えがあれば…父が…真奈が…
突然、何かが僕の布団に潜り込んできた。温かい。凄く、温かかった。小さくて頼りない細い体だけど、温かかった。そうだ、考えるのはやめだ。僕が未来の支えになるんだ。たとえ、どんな境遇だろうと…今度は僕が親になる番だ。そう、未来の寝顔を見て決めたのだ。
●●●
目覚めた。今日は日曜日か…アナログ時計は五時を指していた。眠れなかった。変な夢を見たり、妙な温もりを感じたり…日曜日なのだからもっと寝てもいいが、もう目が冴えてしまった。未来は隣でスヤスヤと寝ている。普段は少し不愛想だが、こうしていると可愛らしい。
布団から出る。やはり、寒い。とりあえず毛布を大量に羽織り、眼鏡を掛けた。そしてランタンも点ける。冬は朝が遅いのでまだ暗いのだ。真奈が来るのは九時くらいなのでそれまで暇だ。そういえば晩飯を食べていないのに気付いた。真奈が帰ってしまったし、すぐに寝てしまったし…腹の虫も鳴っている。コンビニで弁当でも買おう。ついでに、未来の分も。
近くのコンビニでおにぎり三つとパン二つを買ってきた。弁当は高いので止めた。帰ってきた時に未来は起きていた。ちなみに未来は布団に包まっている。時計はまだ六時だ。
「まだ寝ててもいいのに」
「…眠くない」
「…まあ軽く十一時間寝たからな」
僕は毛布を被ってちゃぶ台にレジ袋を無造作に置く。おにぎりが一個零れる。
「あっ、おにぎり」
「何だ、おにぎりが好きなのか?」
未来はパァッと顔を明るくする。服でも喜ばなかったのに食べ物で喜ぶのか…未来にパンをあげるつもりだったのだが、おにぎりを渡す。未来は脇目も振らずにおにぎりに齧り付く。ていうか、一発でおにぎりの袋の開け方分かったのか…凄いな。
「美味い?」
「うん」
未来は一瞬でおにぎりを一個食い尽くす。今度は二つ目だ。僕もパンを食べ始める。正直、真奈の作るご飯の方が美味いが贅沢は言ってられない。
僕が一つ食べ終えた頃には未来は全てのおにぎりを食べていた。意外と大食いなのかも知れない。なら明日はもっと沢山おにぎりを用意すればいいだろうか…これから未来を養っていく以上、未来の事は理解しておかないといけない。こういう日常生活の間にもよくチェックしておかないと。何だか、本当に父親になったみたいだな…
●●●
午前九時になって、真奈がやって来た。今日は特に何も持ってきていないらしい。僕が既に朝飯を食べたか否かが分かるなんて凄いな…一体どんな超能力を使っているんだ。
「おはよう、キョウ。ゆうべはお楽しみでしたね」
「おいやめろ!人をロリコンみたいに言うなよ!しかもドラクエみたいに!」
「あれ、キョウってゲーム知ってるの?」
「昔やっただけだよ…後、もう一度言うが僕は未来に何もしていないっ!」
「はいはい分かってるって。キョウはそんな事する人じゃないって知ってるよ」
真奈は笑いながらそう言って、ちゃぶ台の元に座る。それに合わせて僕と未来も座る。しかし何故だろう。心なしか真奈が来た瞬間、未来の表情が暗くなった気がする。
「そうだ、昨日キョウが買ったおもちゃで遊ばない?」
「ああ、そうだな。折角色々買ったんだし…」
真奈が手をパンッと鳴らして提案するので僕も賛同し、近くに置いてあった買い物袋を引き寄せてちゃぶ台に乗せる。中には昨日買った、アイロンビーズ、ルービックキューブ、ビー玉転がし(上からビー玉を転がす所謂ビー玉の為のジェットコースター)、トランプ、UNO、将棋、ジェンガ、そしてぬいぐるみ。ちなみにぬいぐるみは熊である。とりあえず熊を未来にあげるとするか。
「なあ未来、これいるか?」
未来にぬいぐるみを渡す。未来は暫くぬいぐるみを訝しげな視線で見つめていたが、やがて僕からぬいぐるみを受け取った。
「キョ…キョウ、ありがとう」
未来は顔を赤らめて言う。ぬいぐるみを大事そうに胸に抱き寄せている未来の姿はまさに小さな女の子っぽくて可愛らしい。昨日の銭湯の時の大人っぽい印象とは全然違うな…というか、それよりも妙な違和感が僕を襲う。
「あれ、未来って僕の事キョウって言ってたっけ…?」
「ふえっ!?そ、それは…」
未来は俯いてブツブツ言っているが、よく聞こえない。というか何だかぬいぐるみに話しかけているような気がするが大丈夫かこれ…何か妙な趣味に目覚めたんじゃないですかねぇ…
「別にいいんじゃない?なんて呼ばれようと。それとも、もしかして…」
「もしかして何だよ…」
真奈は顎に手を当てて考えるような仕草をする。何か嫌な予感がするぞ…
「『お兄ちゃん』とか呼ばれたかったの?」
「!?」
とんでもなく的外れな事を言われて吹き出しそうになる。もしかして真奈、昔僕が言った妹欲しい宣言の事を言っているのだろうか。そんな昔の事を覚えているなんて…おそろしい子!
「…お、お兄ちゃん…」
「未来も何言ってるんだよ!?」
いや待てしかし、血の繋がっていない幼女に『お兄ちゃん』と呼ばれるのはなかなか趣がある…!なかなか癖になる響きだ。妹のいない僕には良い刺激だ!
「で、出来ればもう一回言ってくれないかな?」
「えっ!?お、お兄ちゃん…」
「も、もう一回!」
「お兄ちゃん…!」
「更にもう一回!」
「お兄ちゃん!」
「最後にもひとつ?」
「お兄ちゃぁん!」
「おまけにもっかい!」
「鬼いちゃんっ」
なんか最後だけイントネーションが違っていたぞ。少しやりすぎたか…真奈も若干引いているように見える。元はと言えば真奈が言ってきたんだろうに…
「じゃ、じゃあ次は『ご主人様』とか…」
「キョウ…不審者か犯罪者の目ぇしてる…」
流石にこれ以上悪ノリすると色々失いそうなので止めておく。未来も涙目になってしまっているし…悪い事したな。
「うん、じゃあキョウでいいよ。なんかそれが一番しっくり来るからな」
「じゃあ…キョウくんって呼んでいい?」
未来がぬいぐるみから目を離し、僕に上目使いで訊いてくる。僕はその姿に不覚にも見蕩れてしまった。出来ればお兄ちゃんと呼んでほしいが…そんな欲求は脳内から放り出して、
「ああ、勿論だ」
と、返事した。
「さて、キョウの呼び方も決まった事だし遊ぼうよ」
そう言って真奈が買い物袋を漁り出す。しかし…キョウくん…キョウ、くん…いい…響きです。
ちなみに真奈が取り出したのはジェンガだった。皆知ってるお馴染みのゲームだ。塔のように積み上げた細長いブロックを引いたり押したりして取り出し、再び積み上げていく。塔を崩してしまった人の負けだ。非常に単純だが奥が深く、人数が集まれば白熱の戦いになるし、一人でも地味に面白いという万能なゲームだ。真奈とは昔に何度かやった事はあるのだが、一度も勝てた事は無い。今回こそ真奈に勝ってやる…
「未来ちゃんはやり方知ってる?」
真奈が努めて優しそうに未来に問う。一方の未来は無愛想に頷くだけだった。しかし昨日から、どう見ても未来は真奈の事を避けている。一体何故だ?
「へぇ、昔やった事あるの?」
未来は面倒臭そうにまた頷く。しかし一体誰とやったんだろう。家族?友達?
「じゃ、早速やろうか」
そんな無愛想な未来にも動じず、真奈は明るく対応する。内心どう思っているかは分からないが、相手に無視されるのは愉快なものでは無いだろう。僕はそんなものには慣れてしまったが、真奈みたいな誰にでも人気な人にとっては…
僕がそんな事を考えている間に、ジェンガのタワーがちゃぶ台の真ん中に建てられていた。じゃんけんで順番は真奈→未来→僕と決まった。このゲームで順番は言う程関係無い(と思う)ので最後でも別に構わない。
「じゃ、最初は私ねー」
真奈はブロックを押し出して上に置く。次いで、未来も。更に僕も。タワーの一部にぽっかりと穴が開く。そのままずっとローテーションしていく。タワーにはどんどん穴が開いていき、そしてタワーはどんどん高くなっていく。まるで僕みたいだな…心にぽっかりと穴が開いたまま大きくなってしまった。ああ…勝手にジェンガなんかに自己投影して陰鬱になってしまった…
暫く無言の戦いが続く。真奈も最初は自分の番でも他人の番でもいちいち「おー」とか「わー」とか反応していたが、未来も僕も喋らないので真奈も黙ってしまった。そうして真剣な戦いは続く。タワーはどんどん高くなり、次第にスカスカになっていったタワーは触れる度にぐらついて今にも倒れそうだ。さっきまでは余裕だったが徐々に緊張感が漂ってくる。
「くそ…次はどこを抜けばいい…」
良い感じの場所も微動だにしなかったりして、抜ける場所はかなり制限されている。とりあえず意を決して動くブロックを抜く。タワーが大きく揺れるが、何とか倒れずに済んだ。次の真奈も何とか倒さずに抜く。さて、次は未来だが…未来の額には汗が浮かんでいる。瞳も真剣なものになっている。しかし、五、六歳にしてはよく頑張っていると思う。だが、そろそろそれも終わりだろう…
「えいっ」
未来は小さく声を上げて、あるブロックを押す。それはさっきまで微動だにしなかったブロックだったのだが、普通にあっさり抜けてしまった。タワーも割と無茶な抜き方をしたものの倒れなかった。これは一気にピンチだな…
「キョウ、どうする?もう絶体絶命だね」
意地悪そうに、悪戯に成功した子供のように、真奈は笑った。それはどこか懐かしい笑顔だった。だが、そんな事を考える場合では無い。今はこれを倒さないように…くそ、どこも抜けない。こうなったらさっきの未来みたいにごり押しで…それっ
ドンガラガッシャーン!
倒れた。未来でも成功したのに僕が成功しないなんて…なんかショックだ。ただ、ここまでジェンガで続いた事は無いし、親とやった時よりも圧倒的に白熱した。負けたけれど、満足だ。久しぶりに『楽しい』という感情を抱いた気がする。ここ数年、負の感情ぐらいしか抱かなかったからな…
「あ~あ、倒しちゃった」
真奈は呆れたように言う。未来もちゃっかり口元を綻ばせて小さくガッツポーズをしている。相変わらず感情の起伏が小さいな…やはりどうしても気になってしまう。このぐらいの年の子はもっと喜怒哀楽が激しい筈だ。僕が…未来に感情を取り戻してあげないといけないのだろうか。
「さ、次はこれだ!」
真奈は元気よく袋からおもちゃを取り出した。トランプだった。トランプなら何人とでも遊べるし、様々な遊びの種類があるから非常に有能だ。そう、僕とは違って…何でさっきからおもちゃ相手に自分を貶めているんだろう。
「トランプで何するんだ?定番な所でババ抜きとか?」
というか僕自身、ババ抜きぐらいしかやり方を知らないだけなのだが。後、ソリティアと神経衰弱も分かるのだが、どれも三人でやるには向かないだろう。ルールを知っている理由は単純。暇潰しに一人でやっていたからだ。正直、神経衰弱は一人でやっても面白く無かったが。
「なら未来ちゃんが知ってる遊びだね」
「ボクは…トランプの遊びなら大体知ってるよ」
未来は真奈の質問に初めてちゃんと返事をした。心なしか顔が綻んでいるように見える。遊ぶのが楽しくなってきたのだろうか。それなら良かった…のだが。
「ああ…僕、ババ抜き以外知らないんだけど…」
「…じゃあババ抜きだね」
何だか悪い事をしたような気がするが、これは僕が悪いんじゃない。社会が悪いのだ…
で、真奈はジョーカーを一個抜いてトランプをシャッフルし、三人に配る。で、被っている札を取り除く。僕はジョーカーを持っていないので、真奈か未来のどちらかが持ってる筈だが…今、未来の顔が若干歪んだ気がする。持ってるとしたら未来だな…
「それじゃあ始めようか。順番はジェンガの時の逆だね」
「って事は僕からだね」
つまりは僕→未来→真奈という事だ。ババ抜きに関しては先手必勝(多分)。既に僕は沢山札を捨てて、残り三枚しか無い。他の皆より圧倒的に少ないのでこれは有利だ。とりあえず未来からジョーカーを引き抜かないようにせねばなるまい。相手の札は五枚。どうっすかな…
「…なぁ、未来。ジョーカー、持ってるか?」
未来はビビったように体を震わせた後、慌てたようにフルフルと首を横に振った。こりゃあ持ってるな…未来の反応さえ見ていれば勝てそうだ。
「…よし、これだ!」
と、一番端の札に触れる。だが、取らない。未来の反応を確かめるのだ。未来はほっと溜息を吐く。これは、ジョーカーだな。僕はさっと、その隣の札を奪い取った。数は自分の持っている物と合わなかったが、ジョーカーじゃないだけ良かった。一方の未来は露骨に残念そうな顔をしていた。
その後も、ババ抜きはつつがなく続いた。ジョーカーこそ引き当てなかったが、数が合わずに札はどんどん溜まっていく。一方の未来はほとんど数は変わらず、真奈は最初こそ一番札の数が多かったが、数は順調に減っていった。
しかしまあ…何故か微妙に盛り上がらない。相変わらず真奈が健気に盛り上げてはいるが、未来は表情こそ豊かになっているが、はしゃいだりはしない。そして僕に関しては…楽しみ方を知らなかった。昔は素直に楽しい時は楽しめた。だが、ここ数年でそんなもの忘れてしまっていた。
「やったー!上がりー!」
真奈はいつの間にか全ての札を捨てて終わっていた。先手必勝とは何だったのか。その後は二人の戦いとなり、なんかこのまま未来に勝ってしまうのも申し訳無くなってきたので、わざとジョーカーを取り…僕は負けた。結局、僕は厄介な物を引き当てて、社会の負け組になってしまうんだなぁ…
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その後は、適当に真奈と話したり、真奈が未来に話しかけようとして拒絶されたり、適当に未来がビー玉転がしをしたり、コンビニ弁当を食べたりして時間は適当に過ぎていった。結局、今日はただ遊んだだけで何か特別な事が起きたりなんて事はしなかった。まあ、当然だ。そう毎日毎日特別な事があってたまるか。平日は毎日キツイんだから休日ぐらいゆっくりさせてくれよな…
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夕方(とは言っても既に結構暗いが)になったので、真奈は帰る事になった。未来を部屋の中で待たせて、僕は一階まで真奈を送った。
「今日は楽しかったよ。ありがと」
「別にお礼言われる事してないよ。逆にこっちがお礼を言いたいよ。ありがとう」
僕は素直にお礼を言いたかった。盛り上がり方は少し微妙だったとはいえ、それでも楽しかった。小学生並みの感想でしか無いけど、とりあえず楽しかった。だから逆に…僕は明日が憂鬱で仕方が無いのだ。
「でも…ちょっと残念かな。未来ちゃん、なんか、さ…」
真奈はさっきまでの笑顔から一転、苦笑いして俯く。表面上では平気そうに装っていたが、やっぱり気にしてはいたのだろう。真奈は同性にも異性にも人気だ。いつか、近所の小さな子供と仲良く遊んでいたのも見かけた。でも、未来だけは懐かない。何故かは分からない。だから、真奈も困惑しているのだろう。そして、普段誰とも仲良く出来ないような僕に…そこそこ懐いている。これが、分からない。未来の思想はまだ理解出来なさそうだ。これから時間をかけて理解していくしかない。だが、時間は…有限だ。
「未来は…もっと時間をかければ大丈夫だと思うよ。多分、な…」
「そ、そうかな。あはは…そうだね、時間をかければ大丈夫、かな…」
真奈は頭を指で掻いて笑う。何だかいたたまれない気持ちになってきた。真奈に言えばいいだろうか…未来には時間が無い事を。後は約一か月しか時間が無い。だから…
「ん?キョウ?」
「…何でも無いよ」
顔に不安の色が浮かんでいたのだろうか。真奈はこういう所に敏感だからな。気を付けないと…真奈は暫くキョウの顔を訝しげに見つめていたが、やがて回れ右をして、首だけをこちらに向けて笑った。
「じゃ、また明日ね」
「うん…また明日」
真奈はそれだけ言うと、暗闇の中を歩いていった。その光景は、どこか儚げだった。真奈にはこれ以上迷惑をかけたくない。僕の事で精一杯だろうに、未来のそんな事実を知ったら…
●●●
真奈を送った後、部屋に戻る。未来は寝転んでぬいぐるみと戯れていた。僕が何となく未来の隣に座ると、未来は途端に明るい顔になった。幼くて、あどけない顔。さっきまでは見せなかった顔だ。どうして未来は僕にだけそんな顔をするんだ…?もしかして…嫉妬?幼女なのにおませさんなんだからぁ。
なんて冗談を言っている場合では無い。僕は…訊かなくちゃならない。人の生命に関わる事だ。僕は未来を救わなくちゃならないんだ。僕みたいな社会の底辺がこんな事をするなんておこがましい事かも知れない。でも、真奈に心を開かない今…僕しかそれは出来ない。
「なあ…未来。ちょっと訊きたい事があるんだけど…」
「な、何?キョウくん」
未来は少し緊張したように答える。しかし、幼女にキョウくんと呼ばれるのはなかなか良いものだな…
「その…寿命の話なんだが…」
途端に未来の顔が暗くなる。やはり、寿命の事は訊かれて嬉しいものでは無いだろう。どう考えてもさっきまでの顔は楽しい話を期待していたからな…
「未来のそれは…病気なのか?」
未来は黙って首を横に振る。病気じゃないのに余命があるなんてどういう事だろう。
「じゃあ一体…何なんだ?どうして…余命の事を知っている?」
「…それは…分からないよ…いつの間にか分かってたんだ」
未来は申し訳無さそうな顔で、消え入りそうな顔で呟く。これはもしかすると…親が娘の余命を知り、恐ろしくなって捨ててしまった…なんて事じゃないだろうな。だとしたら…僕は少々厄介な事に巻き込まれているんじゃなかろうか…なんて事を今更理解してしまった。
「僕に、彼女を救う事は出来るのだろうか」
僕は天井に向かって呟いた。