研修後取り残される
「じゃぁ、私は哲子にケータイの使い方を教えてそのまま帰るから」そう言うと先輩はさっさとアジトを出て行ってしまった。
私も荷物をまとめて後を追おうとすると。
「気をつけなさい。あなた殺されるかも知れない」
「えっ」
「哲子早く―っ」
「はーい」みかかさんの一言が非常に気になったが、私は急いで先輩の後を追う。
「どうしたの?」
「えっと、どうなんでしょう」
「?ま、いいか」ほっ。
「それじゃ~行くよー」
私は入学初日から学校をフケて変なアジトに連れ込まれたと思ったら、その一員となって当日研修まで受けている。本当に今日は私の人生にとって大変な日になりそう。
先輩に連れられて、学校の横を通り抜けてそのまま木場方面に歩いて行くと、川というか運河のようなものの上に掛かる橋、木場公園の入り口の一つにやって来た。
「ここでいいや」周りには餌付けされた複数の野良猫が暇そうにしている。
「さぁ、ケータイ出して」
「私はポケットからさっき支給されたばかりのケータイを取り出す」
「なんてことはない、使い方は普通のケータイと同じ。例えばあそこに居るネコを写真に撮ると」
「カシャ」
「わっネコが消えましたね」
「そう、このケータイに取り込むことが出来るので〜す」
「今回はリリースするね」そう言って先輩が写真を削除すると、川辺でさっきのネコが元通りだ。
「敵の場合は写メるでしょそれをアジトに持っていって処理します。そうすることで敵をやっつけるのよ」
「なんか凄いですね。でも、私にもできそうかも」
「ふふふ」
「あれれ?難しいんですか?これって」
「敵さんは動いている訳よ。それに、手ブレするようだと捕まえられないねぇ」そうなのか、周りが暗いと難しいかもしれない。
「他にも敵をやっつける方法があるよ。こっちはいくるみちゃんが得意なんだけど」そう言うと先輩はケータイのアンテナを引っ張った。するとアンテナの先の部分が金平糖みたいな形に変形した上膨らんだ。
「それって重くないんですか」促された私もケータイのアンテナを引っ張る。持てないほどではないが適度な重さが加わった。
「これをね、こうして」先輩がケータイアンテナをバネにして金平糖チックに膨らんだ部分をボヨンボヨン踊らせて、転がっていた空き缶めがけて攻撃。すると、ドシンと地面に跡を残す勢いで空き缶をペシャンコにしたではありませんか。
「すご〜い」素直に感心した。
「これには習熟が必要。あと運動神経も。哲子は運動神経自身ある?」
「あ〜あんまり自信がないですね」
「そっかー。写メの方が食いつきが良かったもんね。まずはそっちを抑えて、慣れてきたらアンテナで行こう」
「わかりました」
「さて、今日はこんな所か。あ、君は運がいい」
「?」先輩が顔を近づけてきて小声でそんなことを言う。
「哲子、向こうの歩道のところをちらっと見てご覧」
「なんか影が動いたような」
「あれが敵よ」なるほど、敵ですか。
「待ち伏せして狩るわよ」そう言って先輩は信号機のない横断歩道を渡ってガードレールの影に隠れた。そして、私においでおいでする。私も後に続きそのガードレールに身を隠した。
「ケータイのカメラには望遠機能とかあまり無いからある程度近づかないと。幸いこっちに近づいてくる。カメラを準備して!私が合図を送るからシャッタを押すこと」
「はい」
ケータイのカメラを起動して構えたところですぐに合図があった。
「カシャ」私がシャッターを切ると、歩道をうごめく黒い影が消えた。
「ナイス哲子」先輩が私の方を叩いてウィンクしながらそう言った。
「あはっ、私やりましたよ」
「上出来よ」
「このままアジトで処分するんですよね」
「ごめん、哲子私用事があるんだ」そう言えばさっき直帰するって言ってたような。
「ケータイそのままで今日は帰ってまた明日、ね?」
きっと、私は凄い困った顔をしていたんだろう。
「あ〜確かに気が気じゃないかも。でも、せっかく捕まえたのリリースするってのも、ねぇ?哲子、一人でアジトに戻れる?」
「大丈夫だと思います」
「それじゃぁ、一人でアジトに行って貰えるかしら」
「わかりました」
「ごめん哲子、この埋め合わせは必ずする。じゃぁ、頑張ってね〜」そう言って先輩はダッシュで立ち去ってしまった。
私は閉じたケータイをおっかなびっくり両手で抑えながら一人でアジトまで戻るのであった。