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巨神迷宮譚  作者: みざり
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我が技の冴えは衰えること無し

やっつけ仕事だから誤字脱字があるやもしれません

「ほぉ、じゃあキイロはカウシルークの出なのか」

「ええ、と言っても都市の方のではありませんけど」


 ドワーフのおっさんことエシャナダさんとギルドへの道のりを歩いています。

 場所を変えようと言った自分の言葉にエシャナダさんはそれならギルドの訓練場なら広くて問題ないだろうと言い、ギルドに取って返すことになりました。……今度は宿屋について聞くのを忘れないようにしましょう。

 しかし、エシャナダさんと歩くと面白いように人が避けていきます。その様子は神話にある海を割った偉大なる魔術師を彷彿とさせます。ちょっこと偉くなった気分です。

 他愛もない世間話をしているうちにギルドに到着しました。


「んじゃ、手続きしてくるからよ。ちょっと待っとけ」

「はい、了解です」


 ふむ、エシャナダさんの口振りから察するに大して待つこともないでしょうからジッとしておこうと思いましたが何やらギルド内がざわついているような気がします。どうやら登録しに来たときよりも人が増えた様子。

 少し耳をそばだててみます。


「おい、あれってギルド専属鍛冶師のエシャナダさんだよな」

「ああ、あの人が外に出てんの初めて見たぜ」

「なんせギルド専属だからな。俺の武器も打ってくれねぇかな」

「無理だろ。第一お前の腕だと宝の持ち腐れだ」

「ンだとコラァ!?」


 喧嘩が始まってしまいましたね。

 にしても、エシャナダさん。ただものではないと思っていましたがギルド専属鍛冶師とは……。イーアさんもとんでもない人を紹介してくれたものです。

 ギルド専属鍛冶師は各ギルドにつき一人しか就けない特殊な地位で、まぁ、いわゆる名誉職にあたるのですがギルドに認められるというのはかなりスゴイことなのです。戦いをその生業とする人間のまとめが一人しか認めない存在なのですから当然ですけれど。


「それにしても一緒に来た彼は誰なのかしら?」

「さぁ、見たことのない顔よね」


 おや? 何やら雲行きが……。


「あ、俺知ってる。あいつ、さっきギルドに登録しに来てた奴だ」

「なんで、そんな新人がエシャナダさんといるのよ?」

「知るかよ。聞いて来れば良いじゃん。本人いるんだからさ」

「それもそうだな」


 エシャナダさん早く帰ってきて!

 別に人見知りするわけではありませんが面倒なのはごめんです。

 願い空しくエシャナダさんは戻ってきませんでした。


「ちょっと良いだろうか?」

「はい、なんでしょう」


 声を掛けてきたのは若い男性でした。

 といっても自分よりいくらかは上なのは確かでしょうが。


「自分は『聖者の外套』C級のクランツという」

「F級のキイロと言います」

「君は何故エシャナダさんといたんだ? こういってはなんだが君みたいな新人が」

「はぁ、まぁ成り行きとしかいえませんね」

「おぉい、キイロ!」


 何やら言いたげな様子のクランツさんでしたが、エシャナダさんの呼び声に何も言うことはありませんでした。


「すみません、呼ばれているので」

「いや、こちらこそ余計なことを聞いた」

「エシャナダさん、今行きます!」


 喧嘩を売られたりと面倒なことにならなかっただけマシですかね?

 そう思いつつ、ギルドの奥の方にいるエシャナダさんとところに向かいます。


「おう、あいつは?」

「C級のクランツさんだそうですよ。自分とエシャナダさんが一緒にいたのが気になったみたいです」

「そうか、これでも専属鍛冶師だからな。顔はわりと売れてるんだ」


 いや、“わりと”なんてものじゃないだろうにとは思っても口には出さない。

 その変わり、エシャナダさんの隣に視線を向ける。


「そちらの御仁は?」


 エシャナダさんの隣には大柄な男が立っていました。身長は大体190といったところでしょうか?

 かなり鍛えているらしく服の上からでもその筋肉の付き具合が分かります。それも見掛け倒しでなく実践的なもので、かなりの強者だと気配だけで伝わります。故郷にもここまでの強者はなかなかいません。もしかしたら、うちの爺様と良い勝負ができるのではないでしょうか?

 この人を見れただけでわざわざ最北端から出てきた甲斐がありましたね。


「おう、きれいにスルーされるもんだからてっきり気づいてないのかと思ったぜ」

「お前のように目立つ奴に気づかんわけだろうが」

「違ぇねぇ!」


 どうやらこの男性、エシャナダさんと同じような性格らしいです。


「キイロ、こいつはこんなんだが一応このギルドマスターをしとる、ヘヴンスだ」

「おう、よろしくな。探索者ギルド、ギルドマスター、ヘヴンス・フラクトリーだ。呼び方はヘヴンスでもギルマスでも適当に呼べ」


 エシャナダさんなんという人を紹介してくるんですか!?

 Fランク探索者にギルマスを紹介するって……。 


「北部辺境の民、サイロが息子、キイロといいます」

「ほぉ、カウシルークの出とは聞いていたがその名乗りってことはもっと北だな」


 エシャナダさんも目上といえば目上ではあるもののお互いにそこまで上下関係を有するような肩書は名乗らなかったけれど、流石に目上も目上、自分の所属する組織のトップが相手ではきちんと名乗らねばなりません。


「カウシルークより北? そんな場所、聞いたこともないぞ」

「そりゃそうだろうな、あそこの連中は滅多に表に出てこない。だがエシャナダだって名前ぐらいは知っているはずだぞ」

「カウシルークの北だと……? おい、待て、まさか」

「そのまさかさ。北も北、王国最北端、王国が誇る六大魔境の一つ【零獄アクバラ】」


 燃え盛る炎すら凍り付くと名高く、余りの冷たさに人よりも強靭な肉体を持つ魔物さえも適応できなかったと言われる俺の故郷。

 まぁ、お察しの通り俺みたいなのがいますから別にそこに住まう生物がいないわけじゃありません。ただ足を踏み入れて帰ってこれた人間がいなかっただけでしょう。現に自分は幾度となく氷漬けになってしまった人間の成れの果てをみてきましたから。

 それに一応【アクバラ】の環境に適応できた俺たちや魔物たちでさえ一歩でも限界を見誤れば死は免れないような場所ですから、それ以外の人間が耐えられるものではありません。


「驚いた。話にゃ人は愚か生き物の一匹すら存在しえない死の氷原と聞いていたんだがな」

「ま、当然だな。俺だって人づてに聞いた話だしな。あとキイロも堅っ苦しいのはなしで良い」

「そう言うのだったらそうさせてもらいます」

「おう、そうしとけ」


 故郷については別に隠す気があるわけでもありませんから問題ないのですが、あれこれと聞かれるのは煩わしいものです。早々に終わってありがたい限りです。


「で、ギルドの訓練場の使用は許可は出しておいたし、専属鍛冶師様たってのお願いだからな。人払いも済ませておいた。魔境の住人なんてものが出てきたんだから正解だったな。あと一応、信頼してないわけじゃないんだがなんかあったときのために俺が立ち会うがな」

「それくらいは理解しとるわい。キイロも問題ないだろ?」

「ええ、人に見られて困るようなものでもありませんから」

「まぁ、いいけどよ。ここらじゃ力は隠すようにしとけ。大きい力は面倒なことも引き寄せやすいからな」


 ギルマスの言葉には実感がこもっていた。ギルドマスターになるための条件に所属ギルドにおいてのS級到達があるのは有名な話で、この人も自分の力で何らかの苦労もあったのだと思う。

 自分の力はそう大したものではないと思うのだが、ここは素直に頷いておく。


「さてここがギルドの訓練場だ。普段は無料で開放してるから使いたいときは自由に使うといい」


 訓練場の中心に立つ。足元は土ではあるがちゃんと整地されているようでしっかりと感触が返ってくる。

 エシャナダさんから渡された長剣を引き抜く。


「じゃあ、始めます」

「おう」


 剣は奇を衒わず中段に構える。

 普段から意識して抑えていた力の制御をゆっくりと手放していく。

 身体からなるべく無駄な力を抜くようにする。

 正直に言えば、手にした剣はどうしたって全力で振るには軽すぎるから力み過ぎれば身体ごと振られることになる。

 だから、一般的な叩き斬るのではなく、刀を振るうように空間を薄く削ぐように引き斬るようにする。

 あとはいい感じに振れるベストな集中状態まで持っていく。


 まず最初に音が消える。

 次に視界から色が抜け落ちる。

 最後の最後に手から剣の重みが消える。


 ―――疾ッ


 小さく、鋭く空気を切り裂く音が聞こえた。


「うん、いい感じ」


 故郷の爺様のように音まで切り裂くようにはいかないけれどそれでもベストな結果であろうことは間違いない。


「たとえ故郷を遠く離れようとも我が技の冴えは衰えること無し、ってね」


 ―――カラン


 遅れて根元から折れてしまった剣身が地面に落ちる。


「エシャナダさんは良いって言ってくれるけれど申し訳ないよね」




 

 ◇ Side_Eshanada




「おい、ヘヴンス。ありゃどういうことだ」


 ギルド専属鍛冶師というだけあってエシャナダは色んな探索者や冒険者の戦いを目にしてきたし、その実力に見合った武器も打ってきた。そういった経験のなかにはS級と称される人外のものもあった。

 だが、だがしかしだ。

 エシャナダの目には訓練場の中心にいたキイロが突然視界から消えたと思ったら、視界の端、およそ20Mほど先に鍔と柄だけになった剣の残骸を持って現れたようにしかみえなかった。

 自分に理解はできなくとも人外の領域に踏み込んだ友人に言葉を向ければ、友人は唸るように一言呟いた。


「……『閃切ひらめき』」

「なんだそりゃ?」

「俺はあれと同じ技を知っている」

「キュロスのあれがその技だと?」

「ああ、ただ勘違いしないでほしいんだが俺の知ってる技の方がずっと速いし、鋭い。跳んでる距離からも分かるしな」


 やはりS級は化け物らしい。エシャナダの目でさえ追えない速度の技をして遅いと判断できるようだ。だが、それにしては反応の仕方がおかしいと思い直す。


「それにしてはお前の反応は悪いな?」

「当たり前だ。『閃切』はS級の技なんだぞ。それをF級の新人が使ったんだ、しかもパワータイプのはずのな!」


 エシャナダは今度こそ絶句する。

 ヘヴンスの言葉は一つの結論を導き出す。


「ああ、そうだ。アイツは、キイロは既にS級と変わりない実力がある! くそったれめ、厄介ごとの臭いしかしねぇ。S級相当の実力の新人だと!? これだから魔境の民は嫌なんだ!!」


 騒ぐヘヴンスを尻目にエシャナダは考える、工房にはアイツに合う武器はないやもしれん、と。





何時になったら迷宮に行けるのだろうか?

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