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巨神迷宮譚  作者: みざり
2/14

巨人の一踏

「あ、しまった。宿屋についても聞いとくんだった」


 どもども、北の田舎もんことキイロです。

 あのあと受付嬢のイーアさんから武器屋について話を聞くと一つの工房について教えてくれました。やはり冒険者あるいは探索者というのは武器に命を預ける部分が多いのでギルドが良質な武器を扱う工房などと提携することは多々あるらしいです。そんなわけで、イーアさんの描いてくれた地図を片手にその工房に向かっているところでございます。

 何でもその工房、主がドワーフであり置いてある武器の品質もこのガランフォート随一なんだとか。期待が持てますね! とは言っても予算は潤沢とは言えない点だけは心残りです。


「ふむ、ここですか」


 ドワーフ工房『巨人の一踏』。

 そう看板に書かれた工房は想像とは違い大通りから外れた場所にありました。何でも武器は大通りにある武器屋に卸すので工房自体はこんな辺鄙な場所にあっても問題ないとのこと。

 ちなみに店の名前になっている巨人は神話に登場する存在なのですが、現実には存在しないものと考えられています。もちろん魔物としてのトロールやギガンテスといった存在は確かに存在していますが、そういった魔物は大抵が知能が低く、神話に登場するような人類種としての巨人は否定されています。

 しかし、巨人というのは優れた製鉄技術を有していたと言われ、鍛冶師やドワーフの中にはその存在を信仰の対象として扱っていたりします。けれども神話においてこの巨人たちは神々にすら喧嘩を売っていたりするので一部の国では邪神扱いされていたりもするんですよねぇ。

 まぁ、ともかくドワーフたちにとっては信仰すべき存在であり、その名を冠するということはそれだけ腕に自信があることの表れであるわけです。これはますます期待が持てます。今度、余裕ができたらイーアさんにはお礼をしなければなりませんね。




 ◇



 工房に入るとカーン、カーンと鉄を打つ音が響きます。

 ふむ、音がするので人がいることは確かなのですが店番がいません。これは少し待たねばならないでしょうか? まぁ、しかしどうせ武器を見なければならないのですし待つ間にでも眺めておくことにしましょう。

 ギルドに登録するとき、特技の欄には剣と書きましたが正直に言えば大抵の武器は扱えたりします。

 なので、ここに無造作に置かれている武器の数々は中々に目をひかれます。

 刀や三節棍、大鎌、さらにはスネークソードなんていう変わり種があることからここの主は中々に遊び心のある御仁のようです。生憎、こういった特殊なのは使えはしても使いこなせないので候補から外れてしまいますね。

 個人的にはクレイモアやツヴァイヘンダーのように力で叩き斬るようなタイプの武器が好ましいです。あとはメイスなどの打撃武器なんかも候補に挙がるでしょうか?

 北部辺境の民は厳しい環境を生きるために幼子から老人に至るまで皆強く逞しいのです。……そのために技量があっても武器が追いつかないのが難点だったりしますが。

 思考が逸れました。武器の選考に戻りましょう。

 そこで一つの武器が目に留まります。

 おそらく数打ちなのでしょうか? 無造作にいくつもの武器が一つの樽に入れられています。

 そのなかにある一つ、どう見てもただの木の棒があります。いえ、よく見ればきれいに磨かれているので杖と称すべきですかね?

 店の人の入れ間違いでしょうか? こんな貧相ななりですが意外と魔法杖だとか? ないですね。これっぽちも魔力は感じませんし、そう言う類のものならば目に(・・)見えますから。

 しかし、気になりますね。なんででしょう?

 手に取るか、否か、悩んでいると背後から声が掛けられます。


「おっと客だったか。気づかなくて悪いな」

「いえ、お気になさらずに時間ならいくらでも潰せそうですから」

「まぁな、そこらの工房にゃ負けねぇだけのモン置いてる自信はあるぜ。で、兄ちゃん。今日はどんな用で?」


 工房の奥、おそらく作業場から出てきたドワーフはふんす! と鼻息荒く答えたあと当然の質問をしてきた。


「ええ、武器がいるのでその調達に」

「ほぉ、ってことは兄ちゃんは探索者かい?」

「なりたてですけどね」


 苦笑気味に答える。


「関係ねぇさ。S級だって最初は卵なんだからよ」

「違いにです」

「ガッハッハ、だろう?」


 一般的なドワーフに違わずこのドワーフも豪放磊落な気質のようだ。


「ん? 武器を見に来たんだよな?」

「ええ」

「腰の奴はどうしたんだ?」


 やはり聞かれるかと少し息を吐く。

 覚悟を決めて腰の武器を見せることにする。


「自分の未熟を晒すようで少し気恥ずかしいのですが」

「……おめぇ、こりゃあ」


 旅の間、持っていた武器はロングソードだった。数打ちの武器であったし、それなり程度の品質ではあるものの買ってそんなに経っていない武器を壊してしまうのはどう考えても自分の未熟さである。

 引き抜いたロングソードは根元から折れていた。


「お恥ずかしい限りです」

「……武器の摩耗? いや、違うな。いくらすり減ってもこんな折れ方にゃならねぇ。おい、兄ちゃん。これは魔物かなんかにやられたのか?」

「いえ、全力で振ってしまいまして。普段はきちんと抑えているんですけどね」

「おいおい、振っただけだと? どんだけバカみてぇな力してんだよ」


 ドワーフのおっさんはこう言うが北部辺境の民ならば誰でもできることであるし、そもそも力を完璧に制御してこそ一人前と認められるのだから、こちらとしては恥かしいだけである。

 ドワーフのおっさんは少しの間考え込んだ後、口を開いた。

 

「正直言って、お前さんの力に耐えられる武器はこの店に置いちゃいねぇ」

「いえ、武器は数打ちでも構いませ「バカヤロウ!」ん」

「いいか、こちとら探索者の命を預かる武器打ってるんだ! 全力出して壊れるようなモン、渡せるか!!」


 う、そう言われると何も言えない。


「と、すまねぇな。つい怒鳴っちまった」

「いえ、こちらもそちらの気持ちを考えてませんでした」

「良いってことよ。お互い様だ」

「そう言ってもらえると楽になります」

「しかし、どうしたもんかねぇ。お前さん、ちと試しに全力を見せてくれねぇか?」


 その申し出に慌ててしまう。全力なんて出したら間違いなく使った武器は壊れてしまう。武器をいくつも買う余裕はないのだ。

 そのことを伝えると。


「んなこと分かってるよ。こりゃ俺の鍛冶師としての矜持の問題だ。だから武器はそこにある数打ちを使ってくれれば良いし、金も良い。なんだったら礼に武器の一本ぐらいくれてやる」


 そう言って、一本の長剣を渡される。

 その真摯な瞳に負けてしまう。

 ため息一つ。


「わかりました。ただし、場所を変えましょう。ここじゃ狭すぎる」







職人気質ってカッコいい。

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