最北端から最南端の街へ
こてこての話を書きたかった
「おおー、あれが迷宮のある街かぁ」
ガタガタと道を行く馬車で一人の少年が声を上げる。
「なんだぁ、坊主。ガランフォートは初めてか?」
「そうですよ。というか、故郷の外に出たのも今回が初めて」
少年の言葉に馬車の主は意外そうな表情をする。
「ほお。だがお前さんこの辺の村の出身か? 俺の知る限りじゃ見ない顔だが」
「出身はカウシルークの方の出ですよー」
「ガランフォートとは王都挟んで反対側じゃないか。どうしてわざわざガランフォートなんかに?」
王国には王族による直轄領土である王領並びに王家からその家臣に与えられた貴族領は王国の中心である王都アダラーテを囲むように存在している。
その中でカウシルークとガランフォートはそれぞれ最北端と最南端に位置していた。
「んー、まぁ、理由はいくつかありますけれど一番は迷宮ってのを見てみたかったんです」
「おいおい、迷宮は他にもあるだろう。カウシルークからならターラント辺りにもあっただろうに」
「いえ、どうせなら一番大きなところの方が良いかと思いまして」
「そんなんで大丈夫なのか? 迷宮は甘くないぞ」
たははー、と脳天気に笑う少年に馬車の主は呆れて見せた。
そこまで話しているうちに街の正門の前に着いた。
「おっと、どうやらここまでのようだ」
「あっはい、ありがとうございます」
「おお、そうだ。坊主、お前の名前は?」
「そういえば名乗ってませんでしたね」
馬車の主が出会ってから変えることのない表情をさらに深めて名乗る。
「キイロと言います。ここまでありがとうございました」
◇
さてさて、行商人だったらしい馬車の主であるデッグさんと別れた後、特に問題なく迷宮街ガランフォートに入ることのできたキイロです。
身分証のない人間は街に入る際に銀貨一枚と中々のお値段がかかります。手持ちのお金が少し心許ないです。
なので、さっさと探索者ギルドに登録してしまいましょう。
迷宮街には迷宮という手っ取り早い金策が存在しているのですから、やらない手はありません。
ちなみにこの探索者ギルドは迷宮のある街にしかなく他の街には冒険者ギルドがあるのですが、迷宮街においては探索者ギルドが冒険者ギルドを兼任する形になっています。
つらつらと取り留めもないことを思いながら、街を歩くと目的地に着きました。
いわずもがな、探索者ギルドです。
「ほぇー、やっぱ王国一の迷宮街なだけあってギルドも大きいなぁ」
登録するためにギルドに入ると思ったよりも人が少ない。
とりあえず受付の方に行くとしましょう。
「すみません、登録したいんですが……」
「登録ですか? 少々お待ちください」
クール系の美人さんな受付嬢が席を離れました。
受付嬢が美人なことはまったくの偶然ですよ? ギルドの入口から一番近かったのが美人さんのいるカウンターなだけですから。本当ですよ?
田舎者よろしくきょろきょろとギルド内を見渡してみます。
あ、売店がありますね。あとで覗いてみることにしましょう。
どうやら他の街と変わらずギルド内に酒場もあるようなので、そちらも覗くことに決めたところで美人さんが戻ってきました。
「お待たせしました。ギルド登録のためにはこちらの書類に記入してもらうことなっていますが、代筆は必要ですか?」
「いえ、大丈夫です」
ペンを受け取り、記入していきます。
名前、年齢、特技だけなので大して時間はかかりません。
「特技の欄は武器だけで構わないんですよね?」
「ええ、構いません。魔法に適性があったり、盗賊や鍛冶などの技能を持っていたりするならばそういったことを記入してください」
ここで言う盗賊技能というのは迷宮における斥候や罠探知の技能のことを指します。流石に盗賊退治などの治安維持を行ったりする冒険者ギルドを兼ねる探索者ギルドが犯罪者を野放しにするはずもありません。まぁ、中にはそういった裏をまとめるギルドあったりしますが。
閑話休題。
生憎と特別に何かの技能があるわけでもないので特技の欄には使用武器である剣とだけ書いて終わりです。
「はい、確かに記入されていますね」
そういって記入したものをどこかへと持っていき、すぐに帰ってきた。
「こちらが登録証になります」
そこには手のひらほどの金属板があった。
書かれていることは殺気自分が書いたことに加えて、冒険者F・探索者Fの文字。
「記入されていることに間違いはありませんか?」
頷いて問題ないことを示す。
「ランクについての説明は必要でしょうか?」
首を横に振り必要ないことを示す。
ランクはFから始まり、E、D、Cと順に上がって行く。最終的には人類の到達点と呼ばれるS級へと至るのだ。
「なければ他に質問はないでしょうか?」
「あ、じゃあ」
「なんでしょう」
そういえば迷宮に潜る前に解決しておかなければならないことがあった。
「武器を売っているところを教えてください」
手持ちの武器が壊れているのだった。
この小説を書くにあたり前作は完全にエタります。
読んでくれていた方々には申し訳ありません。