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4月20日(月) 昼 サスケ3

追記 修正 05/25 05/28

 夕方、翡翠寮のロビーには3人の女子生徒と1人の男子生徒がU字に並んだソファーに座り向き合っていた。


「それじゃ、自己紹介からしよっか」


 努めて明るく、場の雰囲気を和ませるように声を出したのは姫浜ひめはまはな。そして視線を男子生徒へふる。釣られて残りの2人も視線を男子生徒へと移す。


「2年C組、飯野いいの伊之助いのすけです。好きな食べ物はピーマンの肉詰め、嫌いな食べ物は無いけど酢豚に入ってるパイナップルは許せない派。周りからはイノって呼ばれることが多いです。これからよろしくお願いします」


 座したまま、ツンツン頭の黒髪の男子生徒、伊之助はぺこりと頭を下げた。

 対面に座る伊之助にとっては初対面のはずの女子生徒2人、1人は伊之助を値踏みするように目を細め、1人は笑顔を浮かべている。


希天きあちゃん……。ほら、自己紹介」

「では……、君と同学年で2年A組、関谷せきや希天きあです。……休日はよく図書館に行きます」


 若草色のフレームが特徴的な眼鏡をかけたショートボブの女子生徒、希天は陶磁器のような肌を赤らめながら、つり目がちな双眸を伊之助に向ける。

 伊之助は声で昨夜出会った人物と察し、確認するように視線を送るがその意図は相手に汲み取られず表情は変わらない。


「次はあいちゃんね」

「あたしは1年E組、鹿島かしまあいです。趣味は絵を描くことです」


 そうこうしている内にこの場の主役が切り替わる。

 背中まで伸ばしたゆるやかなウェーブがかかった明るめの茶髪を揺らし、伊之助を上目遣いで覗きこんでくる女子生徒は藍。希天と違って制服を少し着崩しており、並んで座っていることでその差異が際立つ。


「じゃ、改めて私も自己紹介しておくね。3年F組、姫浜ひめはまはなです。えっと……最近Fに成長しました」


 いわゆる上座に位置したソファーに座した、肩口よりも少しだけ長く伸ばした黒髪を二房に分け、先端を青いリボンで結んだ女子生徒、椛は茶目っ気のある声音で自身をさらけ出す。


「ちょ、椛先輩!?」

「ヒメ先輩、いいなぁ……」


 その内容に希天と藍が思わず声をあげる。

 椛は希天と藍の声に首をかしげ、希天の気まずそうな視線の先を追う。


「え、あ……今の無し、無しだから忘れて!」


 視線の先は伊之助。

 彼は指を折ってFまでのアルファベットを声に出して数えていた。そこで初めて己のぶちまけた発言が取り返しのない内容だったことを自覚する。椛は見る間に顔を赤くして慌てふためき、そのまま立ち上がると階段を駆け上って行った。


「……天然って怖い。あ、飯野先輩のことイノ先輩って呼んでいいですかぁ?」

「怖いよなぁ、アレを計算でやってるとしたら人間不信になれる。ああ、いいよ。鹿島だっけ」

「はいー。ヒメ先輩はもう少ししたら帰ってくると思うんで、その間何しましょうかぁ?」


 伊之助は立ち去らずも顔を赤くしたままの硬直した希天には触れず、平常運転の藍との会話を続けることを選択した。


「なぁ鹿島、この寮って4人しか住んでないの?」

「あたしも直接会ったことは無いんですけど、男子の先輩が2人いるみたいですよ。丁度3対3になりますね」

「合コンかよ。しかし、3月末の霊災で入院したのが両方男か……」

「え゛? 入院ってどういうことですか。聞いてないんですけど、ねえ、関谷先輩~」


 藍は笑顔を引っ込め、素の表情に一瞬戻り、すぐに深刻そうな表情をつくって隣に座る希天のブレザーの袖口を揺らして問いただす。


「鹿島さん、椛先輩から聞いてない?」

「入院なんて聞いてませんよー。多摩葛市くらいなら大した霊災も起きないって、うちのママから聞いてたのに、話が違いますよぉ」

「に、入院っていっても軽症だから。5月に入れば寮に戻ってこれると思う」

「……何かスマン。関谷」


 伊之助は思わぬ地雷を踏んだものだと心の中で毒づきながら、藍からの突き上げに狼狽ろうばいする希天を見て、気の毒そうに思わず謝ってしまう。


「別に謝ってもらうほどのことでもないです」


 けれど、何が希天の気に障ったのか彼女の返事はトゲトゲしい。伊之助は苦い顔を浮かべて、入院の件に納得してなさそうな藍の横顔を見る。


「……鹿島、ちょうどいいから、理由聞くついでに姫浜先輩呼んで来てくれよ」

「えー、あたし? あー、まぁ、はい。イノ先輩がそう言うのでしたら……」


 最初は本気で嫌そうな声音で、次に伊之助がちらりと希天へ視線を向ける様子を見てニヤリと笑みを浮かべ、最後に甘ったるい声音で、あくまで不承不承という態度を取りつつも藍は立ち上がる。


「悪いな、恩にきる」

「貸し1ですよ。今度、何か奢ってくださいよー」


 藍は満面の笑みを浮かべて椛の後を追って階段をとてとてと上がっていった。


「ちょっと、鹿島さん?」

「待ってくれ、関谷。悪いがちょっと頼みがある」


 突如、2人きりにされ困惑する希天が藍を追いかけようと腰を上げるタイミングで、伊之助は神妙そうにけれど少し早口で彼女を呼び止める。


「……何かしら?」

「俺の昨日の旧校舎の醜態しゅうたい黙っててくれない?」


 ゴミを見るような目だった。


「昨日、俺を助けてくれたの関谷だろ? その時、色々やらかして、恥ずかしいというか何というか……」


 伊之助は沈黙に耐え切れず、確認と言い訳を織り交ぜながら希天の冷めた視線に耐える。


「あと、助けてくれてありがとう」

「……分かりました。善処します」

「その政治家的な言い回しやめてくれない!?」

「前向きに検討します」

「それも同じだからな! 分かっててやってるんだろうけど」


 くだらないやり取りをして呆れかえる伊之助に希天の表情が和らぐ。そしてすぐに表情が曇る。


「……てっきり恨まれてるものだとばかり思っていた」

「恨む? 誰を?」

「私を。飯野君が旧校舎に迷い込んだのを私のせいだと考えたりしなかったの?」

「全然」

「そう? 私ならそうするのが当たり前だと思う。こんな世界に巻き込まれて恨み言のひとつも無いの?」

「こんな世界、幽世かくりょってヤツか。関谷の言い分も理解出来なくは無いけど、恨むほど辛い目にあったわけでもないしな」


 伊之助はわざとらしく明るく気さくな口調でうつむいた希天に声をかける。


「それに恨み言をお前に言うのは筋違いだろう。姫浜先輩は俺が結界を壊して旧校舎に侵入したって説明してくれた。流れ的に関谷は自分の不手際で俺が旧校舎に侵入出来てしまった、とでも言うつもりなんだろう。だけど正直、どちらが本当でも恨んだりはしないよ」

「なぜ?」

「旧校舎に入ろうとしたのは紛れも無く俺の意思だ。だから、代わりの誰かが責任を負うっていうのは俺への侮辱だよ」

「そう、そうなんだ……」


 憑き物でも取れたように希天が顔を上げる。視界におさまるのは伊之助の頭頂部。


「それはそれとして……頼む! 昨日の夜のことは忘れてください!」


 伊之助はテーブルに頭を押し付け、体言通り平謝りをしていた。そこに先ほど格好をつけた人間の面影はいくらもない。だから希天は結局のところ、負い目を感じることなく昨日のことを清算できた。目の前にいる同級生は底抜けに間抜けで、身勝手で、優しい。


「……分かった。約束します」

「よーし、言質取った!」

「それにしても、そーいって掛け声はちょっと……」

「やめて、思い出さないで、口に出さないで」


 くすくすと笑う希天に伊之助は縋るような声で呻いた。


うーん、でかい

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