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4月20日(月) 昼 サスケ2

追記 修正 05/25 05/28

 伊之助は霊装であるサスケと和解した後、姫浜先輩の指示通り引越しの準備を行い手配された車に荷物を預け、そのまま新しい寮へと移動した。


 外観はレンガ造りの外壁に格子窓といったいわゆる洋館。加えて外壁を伝うツタが元あった古臭いイメージに拍車をかけていた。

 伊之助は前の寮に比べて明らかなグレードダウンかなと思いながら、予め渡されていたカードキーを入り口にかざしロックを外して建物の中へと入る。

 しかし、伊之助の期待はいい意味で裏切られた。中は外観とは異なりエントランスから繋がるロビーには豪華な応接セット、Uの字に配置された座り心地のよさそうなソファーと中央に置かれたこげ茶色のテーブルはいずれも高級感を漂わせていて、学生寮に置くには場違いのように思われた。

 さらに大型、おそらくは50インチ以上の液晶テレビや重厚な台座、近くに設置されたミニ冷蔵庫と設備も充実している。改めてロビーを見渡せば、前の寮にくらべ間取りもずいぶんゆったり取られており、その内装の充実振りに伊之助のテンションもついつい上がる。


「これは……凄いな」

「ほう、分かるか。相棒よ、これほど霊的に防御された建物もそうあるまい」


 伊之助にとっては独り言だったのだが、肩にかけたスポーツバックにつっこんだサスケが相づちをうつ。


「荷物、どうしましょうか?」

「ここに置いてください。わざわざありがとうございました」

「いえいえ、こちらこそご利用あざーっす。あとはサインお願いできますか?」


 先ほどのサスケの声は運送業者には聞こえていないようで、特に不審がる様子もなく伊之助へ声をかけてきた。

 伊之助が請われるままに受領書へ苗字を記入すると、業者は事務的なやりとりを済ませてさっさと帰ってしまう。


「ずいぶん急いで帰ったな、あの人……」

「人払いの結界が張られているせいで、招かざれぬ者は長居できぬのだろう」

「説明どうも」

「フフフ……。どうだ、我は役に立つであろう?」


 そだなー、と会話を打ち切ると、伊之助はロビーに置かれたダンボール1箱と布団を見下ろす。

 彼は連休や土日は実家に戻ることも多かったため、寮に置いた私物はそれほど多くない。それに向こう側の部屋もすぐさま引き払う必要がなかったので、目下必要なものだけ詰め込んだが、思った以上に私物は少なかった。


「……それより、運送業者のオッサンにはお前の声聞こえないんだな」

「なぁに、我の声はテレパシーのようなものだ。必要な時、必要な人物に伝えている。それに実際にしゃべってるわけでもない」


 伊之助がダンボール箱を抱えて階段を上りながら、さきほどのやり取りを確認するとサスケは懇切丁寧に説明をしてくれた。第一印象こそ最悪だったが受け入れてしまえば悪い奴ではなかった。それどころか専門知識のない伊之助へ嫌な顔1つせず説明してくれる。


 2階へ上るとまず目に入ったのは3階への階段の前に置かれた立て札。


『コレヨリ上、男子ノ侵入ヲ禁ズ』


 前知識のないまま寮へ入ったが、まさか男女共同だったとはと面食らう。男女比が気になるところだが、伊之助にあてがわれた部屋番号は206で、少なくともあと4人は男子がいることは間違いない。

 とりあえず、立て札は見なかったことにして、そのまま直角に曲がり、自分の部屋番号と扉のナンバープレートを照合しながら廊下を進む。結局、伊之助の部屋は一番奥だった。


「悪くない部屋であるな、相棒」

「8畳くらいか。備え付けの家具も最低限揃ってるな」


 電子錠をカードキーで解錠、ドアを開けた先には午後の日差しが間接的に差し込むだけで薄暗い。

 伊之助が入り口に設置された差込口にカードを差し込むと自動的に照明が点灯する。古臭いのは外観だけで中身はかなり近代化されており、その設備の充実ぶりも下手なホテルに引けを取らない。


 さっさと荷物を部屋に運び込むと、特に部屋の掃除の必要もないことを確認して、荷物を開封していく。

 伊之助が一通り作業を終える頃には6時限目が終わるかどうかくらいの時間になっていた。ふと喉の渇きを覚え、2階に自販機が置いてあったことを思い出す。携帯を手に外に出ようとしたところで、備え付けの机に無造作に置いたサスケからカードキーを忘れないよう指摘を受けた。


 伊之助は自販機でコーヒーを買い、近くにある箱型のスツールに腰をおろす。

 一口飲んで人心地付いたところで、これからのスケジュールに考えを巡らせる。姫浜先輩の話では夕方に他の部員と顔合わせを行うことになっている。


 伊之助はその時のことを考えるだけで思わず深くため息をついてしまう。

 冷静に考えれば、伊之助が昨夜、旧校舎で恥も外聞も捨てて奇声を上げながら走り回っていたことを、これから顔合わせをする部員の内、最低1人は知っている。出来ればその事実を言いふらさないでいて欲しいが相手が人格者であるとは限らない。早急に内緒にしてもらうよう約束を取り付ける必要がある。

 ただし、それにも問題がある。紅い瞳と腰から生えた翼の印象が強すぎて、女子であること以外の特徴を一切覚えていない。声は覚えているし、会えば向こうもそれなりの反応をするだろうから、結局のところは出たとこ勝負かなと腹をくくる。


 伊之助はコーヒーを空にしたところで、昼食を取ってなかったことを思い出しそのまま階下へ向かう。ロビーに隣接する施設はトイレとダイニングルーム、もう1つどこかの部屋へつながるドアがある。勝手に探索するのも失礼だと思い、そのまま外出することに決めた。幸い、寮は市街にあり食事をすることには事欠かない。


(どこへ行くのだ?)


 伊之助が寮の入り口のドアに手をかけたところでサスケの声が頭に響く。何か言い返そうと天井を見上げ、自分の部屋へ顔を向けるが、聞こえるわけがないと口を結ぶ。


(伝えたい言葉を我へイメージしろ。こちらで受信するゆえ、難しく考える必要はない)

(いや、メシ食いに行くだけなんだけど)

(ぼっち飯とは寂しかろう、我も連れて行け)

(……ぼっち飯。お前連れてったところで、木刀持った高校生っていう嫌な属性が追加されるだけなんだけど?)

(つれない事を言うな。それに見た目なら案ずるな。我を人の目に留まらぬよう隠蔽する術がある)


 伊之助はしばらく悩み、こちらが折れた方が後々の関係的にもいいだろうと判断して再び部屋へ戻ることに決めた。


(そういう打算的な行動は嫌いではないぞ、相棒)

「結局、イメージしなくても受信すんじゃねーか!」


 きびすを返したところで、サスケの見透かしたような台詞に伊之助は思わず無人のロビーで大声で叫び返した。


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