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第六十四話 迫撃! ヤマタノオロチ

◇◇◇◇◇◇




 一方その頃……義経と弁慶は、淀んだ空気が漂う石造りの祠の中を探索していた。

 祠の中は、思ったよりも広い空間に満ちており、見通しはいい。むしろ、ここが外の世界と錯覚してしまう程だ。


「なぁ、義経。本当に俺を許してくれてるのか?」


「某の方こそ、悪かったと思っておる。弁慶……すまない」


 義経は、過去の過ちを憎まない男。心からすまないと思い、改めて深々と頭を下げた。


「ちょ、やめてくれよ。いや、悪いのは俺なんだ」


 弁慶は、義経の謙虚な姿に"この男の為なら命を投げ出せる"と思った。遠回りした二人の絆が、より一層深まった瞬間でもあった。


 二人が歩みを進めて幾つかの時が過ぎようとする頃、前方にただならぬ妖気と耳障りな咆哮が聞こえて来た。

 二人はそれがヤマタノオロチだと認識すると、その声の方へ駆け出した。


「こ、これがヤマタノオロチ……」


 義経が足を止めた先には、天井を突き破る程巨大な八つの頭を持った紫色の龍が、頑強な鎖に繋がれ上から見下ろしていた。


「な、何だ……この馬鹿デカイ龍は?」


 一歩遅れて弁慶も、義経の隣に肩を並べた。


「義経……俺達、飛んでもないことを引き受けちまったんじゃないか?」


「そうかも知れぬな……。弁慶、怖いか?」


「ば、馬鹿言うな。俺は天下の弁慶様だぞ! 俺に怖いものなどないわ」


「その割には震えてるぞ!」


 弁慶に自覚症状なかったが、その強大な敵を視覚に入れたことで、体が拒否反応を示したのだ。ヤマタノオロチは、それ程の化け物だった。


「へっ、武者震いってやつだ。義経の方こそ……」


「弁慶、お喋りは終わりだ! 来るぞ!」


 義経と弁慶の存在に気付いたヤマタノオロチは、八つの頭のうち三つの頭で襲い掛かってきた。

 義経は紙一重でそれをかわしたが、弁慶は逃げ遅れ石造りの壁に叩き付けられた。


「弁慶――っ!」


「ゆ、油断しちまったな……」


 弁慶は瓦礫に埋もれながらも、笑顔でそう答えた。


「弁慶のような大男を軽々と吹き飛ばすとは……」


「グォォォ――っ! 憎い……我をこんな狭い場所に閉じ込めおって」


 義経に向けて発した、ヤマタノオロチの第一声。その瞳は、悲しみに溢れていた。

 その姿を見て、義経はヤマタノオロチも犠牲者の一人なのだと、肌で感じた。

 しかし、敵に同情する訳にはいかない。やるべきことがある。それはタクマ達が草薙の剣を手に入れる為に、囮になること。


「弁慶、立てるか?」


「これぐらい、何ともないわ!」


 義経は弁慶が立ち上がったのを見届けると、鞘から膝丸を抜きヤマタノオロチの頭を目掛け跳躍した。


「某はここだ!」


 義経は自らの存在を教えるかのようにそう叫ぶと、ヤマタノオロチの顎へと斬りつけた。

 ヤマタノオロチは、着地しようとした義経を空中で加え込み、そのまま床に叩き付けた。


「ぐはっ……」


「義経――っ! てめぇ、やりやがったな! この弁慶様が相手だ」


「グォォォ! 貴様生きていたのか?」


「俺はそんなに簡単にくたばらないぜ! 俺の薙刀でも喰らえ!」


 弁慶は、義経を床に叩き付けたヤマタノオロチの頭を目掛け、薙刀を振り回した。弁慶の薙刀は、強固な牙をも弾き飛ばし、更にはまるでルビーのような輝きを持つ瞳を抉った。


「へっ、どんなもんだ」


「べ、弁慶逃げろ……」


「あん? ぐへっ……」


 弁慶が攻撃の手を休めた一瞬の隙をつき、ヤマタノオロチは巨大な右足で踏みつけた。


「弁慶……」


 義経は起き上がることも出来ず、うつ伏せのまま力なく叫んだ。


「くっ……ヤマタノオロチ。ここまでの強さだとは……」


 義経は、死への恐怖を抱きつつあった。




◇◇◇◇◇◇




 一方その頃――


 ようやくオレと卑弥呼は祠の中を突き進み、ヤマタノオロチを視界に捉えることに成功した。

 背後から見るだけでも感じる妖気。その存在に何故かオレは不安より期待を感じていた。


「タクマ殿、あの尻尾に見えるのが草薙の剣……」


「成る程、普通の剣とは違う輝きだ……ん? あれは!」


 オレが草薙の剣から視線を反らし、前方を見ると既に虫の息になった義経と弁慶の姿が瞳に写った。


「義経! 弁慶!」


 オレが駆け出そうとすると、卑弥呼が腕を掴んだ。


「卑弥呼、離してくれ!」


「なりませぬ。今出て行っては、作戦が水の泡……。二人を信じてもう少し見守るのじゃ」


「くっ……」


 オレは強く唇を噛み締め、二人が立ち上がることを祈った。

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