第六十二話 草薙の剣を求めて
茨木童子を倒したことにより、民の魂は開放され、邪馬台国に活気が戻ってきた。民と言っても、オレが予想してた通り、人間ではない。卑弥呼曰く、神の使いらしい。簡単に言うと、天使のようなものだ。
「タクマ殿、わらわ達を救ってくれたこと感謝致す。今宵は宴の準備をする故、楽しまれよ」
「せっかくだが、オレ達にはやるべきことがある」
「やるべきこと? 何だ、申してみよ。わらわに出来ることなら力になるぞ」
卑弥呼は興味深そうに、幼さの残るその顔をオレに近付けた。その積極的な行動に躊躇しながら、オレはこれまでの経緯を述べた。
「……成る程。では、どうしてもヤマタノオロチを倒さねばならぬのじゃな」
「あぁ、そういうことだ」
「しかし、残念ながら、ヤマタノオロチを倒すのは不可能に近いのじゃ……」
「どういうことだ?」
「ヤマタノオロチは、その名の通り八つの頭を持ったバケモノじゃ。その攻撃力は半端なものではない。わらわも、あの祠に封印するのがやっとじゃった……」
「だけど、鬼骨王を倒す為には、草薙の剣がどうしても必要なんだ」
「…………ふむ。わかった。助けてもらった恩もある。わらわも力になろう」
「そいつはありがたい。頼んだぞ」
「うむ。ヤマタノオロチのじゃが、正面から当たったのでは太刀打ち出来ぬ。囮で引き付け、背後から攻撃せねばなるまい……」
「囮……か」
あまり響きのいい言葉ではない。しかし、そこまでヤマタノオロチは巨大な存在なのだと、この瞬間オレは悟った。
「その役目、某達に任せてもらえぬか?」
そこに名乗り出たのは、義経と弁慶だった。
「義経、弁慶。気持ちはありがたいが、囮だぞ」
「わかっております。だからこそ、力になりたいのです」
「そういうことだ。俺達に任せておけ」
二人の瞳は真っ直ぐで、例え殴り付けても考えは変わらないといった感じだ。
「わかった。頼んだぞ」
「囮は決まったようじゃな。では、わらわとタクマ殿は、後方から攻撃を仕掛けようぞ」
卑弥呼達と一通り話が終わり、作戦に現実味が帯始めた頃、お雪と川姫は納得のいかない顔をしていた。
「ちょ、ちょっと待ってよ。私達はどうなるのよ。私達も戦うわ。ねぇ、タクマったら、何とか言いなさいよ」
お雪の返答に困っていると、卑弥呼が救いの手を差し伸べた。
「二人には邪馬台国に残って、民達と国の再建を手伝って欲しいのじゃ。勿論、タダとは言わん。それなりのクリスタルは弾むぞ」
「クリスタル? わかったわ。やる、やる――っ!」
お雪……現金な奴だ。でも、今回ばかりは生きて帰れる保証はない。オレは、卑弥呼のアシストに感謝した。
「ふむ。話は纏まったようじゃな。では、早速祠の封印を解きに行くぞ」
「あぁ、頼む」
オレ達は五重の塔の背後にある、禍々しい祠に足を運んだ。
卑弥呼は祠に到着すると、幾重にも貼られた御札を取り払い、呪文のようなものを唱え始めた。
「さぁ、封印は解けた。義経、弁慶……無理はするでないぞ」
「わかっています。では、後程」
「じゃ、行ってくらぁ」
義経と弁慶は、強固な扉に手を掛けると、勇猛果敢にその中に飛び込んでいった。
「さぁ、タクマ殿。わらわ達は裏口から参るぞ」
「了解だ」
「タクマさん、死なないでね」
「当たり前だ。お前達も頼んだぞ」
オレと卑弥呼もまた、裏口から祠の内部へと潜入した。
◇◇◇◇◇◇
残されたお雪と川姫は……。
「行っちゃったね……」
「川姫、何をガッカリしてるの。私達には私達のやるべきことがあるのよ。タクマ達の無事を祈って、国の再建を手伝うのよ」
「そうね……そうよね」
お雪と川姫は、祠から国の中心部ある広場へと向かった。民達は、国の再建に汗を流している。
「さぁ、私達も手伝いましょう」
川姫が一人の民に声を掛けるが、返事はなかった。不信に思ったお雪も、声を掛けた。
「ねぇ、手伝うって言ってるんだから、返事くらいしたらどうなの?」
お雪が思わずその民の肩を押すと、まるで石のように地面に転がった。
「いや――っ! 何なのよ、これ……」
「気に入ってくれたか? 我輩達のプレゼントは」
そこに立っていたのは、他でもない……あの酒呑童子だったのだ。
「酒呑童子!」
「ほう、我輩の名前を覚えてくれてたのか? 光栄だな、雪女――っ!」
「きゃぁぁ――っ!」
酒呑童子は、力任せにお雪を平手打ちし、吹き飛ばした。
「さて、川姫よ。テイマー共は何処に行った?」
「お、教える訳ないでしょう」
「そうか……ならば、力強くで聞くまでだな。メデューサよ、やれ」
酒呑童子の背後から現れた西洋妖怪。美しいボディラインを持ちながらも、その髪は幾つもの蛇で形成されている。
「酒呑童子様、あたいにお任せ下さい」
メデューサはそう言うと、不気味な光を放ちながら吹き飛ばしたお雪と目を合わせた。
「な、何よこれ。か、体が……」
お雪は瞬く間に、石へと変わっていった。
「さて、川姫。話す気になったか?」
「くっ……」
川姫は肩を落とし、タクマ達の所在を話そうと口を開けた。
「タクマさん達は……」
「お嬢ちゃん、そいつの言うことを聞いちゃならねぇ!」
突如、空から舞い降りるかのように現れた優男。派手な羽飾りをあしらい、その首には幾つもの鈴が掛けられていた。
「何だ、貴様は!」
「聞いて驚くな! 俺様は、妖魔として呉の国から参った、鈴の甘寧こと甘興覇だ!」
甘寧と名乗る男……敵か味方か。今の川姫は、ただただ行く末を見守るしかなかった。




