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第六十一話 非情なる戦い

 鋭い牙の隙間からは、異臭を伴う唾液が滴り落ちている。これが……この醜い姿が、茨木童子の本当の姿。あまりの醜さに同情さえ覚える。さっきまでの姿とは、雲泥の差だ。卑弥呼の体を欲していた理由も頷ける。だからと言って、野放しには出来ない。立ち塞がる"悪"は、排除せねばなるまい。

 オレはそう思った瞬間、口角を上げた。何故ならば、オレも元を辿れば悪。その悪が、正義の為に戦おうとしてるんだからな。人間の感情ってのも悪くない。


「義経、もはや奴は理性を失った化け物。亡き弁慶の為にも、完全に排除するぞ!」


「仰る通りです。この戦い負けられません」


「わらわに勝つ気でおるのか? 冗談も休み休み言え!」


茨木童子 LV22 ランクA 特性 崩壊


HP220 MP50

攻撃力84

素早さ32

スキル『金棒』『崩壊』


 成る程。確かに劇的に攻撃力だけは上がってやがる。しかし、その他のステータスはガタ落ちだ。


「水天坊よ、戻れ。真琴、出番だ。行けるか?」


「そう来ると思ったよ」


 オレはこの隙に水天坊をカードに戻し、真琴を具現化したバトルフォースを展開した。


ラクシャサ(真琴) LV19 ランクB 特性 遊び ものまね


HP240 MP59

攻撃力53

素早さ61


1 貫通パンチ

2 長い髪

3 通常攻撃

4 ミス

5 遊び

6 ものまね


 水天坊を戻し、真琴を具現化したのには訳がある。オレのちょっとした作戦だ。


「義経よ、お前はかなりのダメージを受けてる。無理はするなよ」


「無理は百も承知。弁慶を信じてやれなかった、戒めでもあります」


「ふん、好きにしろ」


義経 LV22 ランクB 特性 円明流


HP107/225 MP67

攻撃力55

素早さ65

スキル『剣術』『弓術』『回復術』


 まずは、義経の出番だ。


「弁慶の仇――っ!」


 義経は弓を手にすると勢いよく飛び出し、舞い上がりながら弦を引き絞り茨木童子へと放った。矢は、脂肪で覆われた腹部へと見事に刺さり、69のダメージを与えた。――HP151/220――

 間髪入れずオレもDDを振った。しかし、不覚にもDDは4のミスを示した。


「真琴、すまない」


「気にしない、気にしない」


 真琴はそう言って慰めたが、これではオレの腹の虫が収まらない。とは言え、これも運命(デスティニー)……覆すことは出来ない。


「四天王のバトルで手の内は読んだと言っておるのに、ラクシャサを出してくるとは……お前は相当な馬鹿じゃな」


「あぁ、そうかもな……。でも、オレは運命を真琴に委ねた。"奇跡"って奴を信じてな」


「ならば、その奇跡とやらを封じてあげよう」


 災い転じて福と成すとはこのことだ。オレはミスを逆手に取り、義経から目を反らす為に、体力のある真琴に注意を向けたのだ。これも、オレのちょっとした作戦の一つだ。

 案の定、茨木童子は攻撃の的を真琴に絞った。全身を震わせ両手を開くポーズは、弁慶を死に追いやった"崩壊"だ。

 真琴には申し訳ないが、これも茨木童子を倒す為。今の真琴なら、十分耐えれる筈だ。


「お前らは、少し痛い目に合わないとわからんようじゃな。わらわに恥をかかせた恨み……とくと味わうがよい」


 放たれた妖気は、弁慶を倒した時を遥かに越えた威力だった。渦を巻いた空気は更にうねりを上げ、通過した後の床は跡形もなく弾けとんだ。


「真琴! 頼む……耐えてくれ」


 強烈な爆発音と共に、吹き飛ばされそうになる衝撃波。直接喰らっていないこっちも、立っているのが精一杯だ。


「へへ……な、何とか耐えたみたいだよ」


 真琴は全身に床の破片を突き刺しながらも、オレに笑顔で振り向いた。真琴は、120のダメージを受けた。――HP120/240――


「そ、そんな。わらわの崩壊を受け、立っているとは……」


「茨木童子よ、とんだ誤算だったようだな。真琴はそんなにヤワじゃない」


 そうは言ったものの、次また崩壊を喰らったら間違いなくアウトだ。


「真琴殿、某の代わりに……感謝致す」


 義経は傷付いた真琴を横目に、素早く崩れかけた床を駆け抜けた。そして柄に手を掛けると、息を殺して目を瞑った。


「わざわざ、わらわに殺られに来たの……か? うがっ……」


 茨木童子は言葉を発してる途中で呻き声をあげ、腹部の肉片を晒した。これこそが、円明流――抜刀術。目にもとまらぬ速さだ。茨木童子に75のダメージを与えた。――HP76/220――


「義経よ、毎度のことながらキレがあるな」


「褒めても何もありませんよ」


「よく言う。さぁ、真琴。お前の出番だ」


 オレの振ったDDは、6を示した。というより6を出したのだ。都合良く、ここで6の目が出たのには訳がある。"1"の面に真琴の髪を付着させ、錘にしたのだ。つまり、今の状態だと何度振っても6しか出ない。


「さぁ、真琴。そっくりそのまま返してやれ! 崩壊をな」


「はい、は――い!」


 真琴は、全身を震わせ両手を茨木童子に向け開いた。


「や、やめるのじゃ!」


 しかし、運命は変えられない……。

 真琴のものまね……すなわち崩壊は、轟音と共に茨木童子を巻き込んだ。茨木童子は120のダメージを受け、傷付き倒れた。


「む、無念……」


 最期にそう一言だけ残すと、煙のように消えていった。そして、俵程のクリスタルを残していった。


「茨木童子……お前には同情するぜ。もう少し早く出会いたかったな……さぁ、皆。外に出るぞ」


 茨木童子を倒したオレ達は、弁慶の亡骸と気絶した卑弥呼を抱え、五重の塔から脱出した。すると、茨木童子を撃破したことにより、喰われた民の魂が戻ってきていたのだ。


「ここは何処だ? 俺は一体……」


 弁慶も例外ではなかった。オレ達は弁慶の復活を心から喜び、正式に仲間として迎え入れた。



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