第六話 壮絶! テイマー対テイマー
テイマー同士のバトル――不安だが、楽しみだ。
こっちは進化した手の目。負ける筈がない。
「バトルフォース展開! 行け、手の目!」
「御意」
手の目は、両手の目を光らせながら颯爽と前に出る。頼りになる奴だ。
手の目 LV6 ランクD
HP40 MP11
攻撃力14
素早さ12
1.2 通常攻撃
3 炎の息
4 鋭い爪
5 睨み付け
6 ミス
「へぇ、お兄ちゃんの妖怪は手の目か。なかなかやるね。それじゃ、こっちもいくよ。行け、鉄鼠! バトルフォース展開!」
「坊っちゃん、お任せ下さい」
鉄鼠 LV8 ランクD
HP55 MP8
攻撃力7
素早さ15
1.2.3 ミス
4.5 クリティカル
6 鉄の牙
成る程、背水の陣ってワケか。確率は1/2。当たらなければ、意味がない。
「お兄ちゃん、どうやら先手はこっちのようだね。鉄鼠! いくよ」
真琴はDDを取り出し、放り投げた。出た目は5……。つまり、クリティカルってことだ。
鉄鼠は爪を振りかざさし、手の目の額を切りつけ10のダメージを与えた。手の目の顔には目がないが、その表情は痛みを意味していた。
流れ出る血は、本来目がある場所を伝う。――HP30/40――
「今度はこっちの番だ。叩きのめせ、手の目!」
オレが振ったDDは、何度も転がり3を示した。
「よし、炎の息だ!」
手の目は深く息を吸い込み、炎の息を吐き出した。鉄鼠は炎に包まれ、もがき苦しみ16のダメージを負った。――HP39/55――
まずまずの滑り出しだ。あとは真琴がミスを連発してくれれば、こっちの勝利だ。
鉄鼠がどんな妖怪かなんて知らないが、お雪にいいご馳走ができそうだ。
テイマー同士のバトルって言っても、大したことないな。オレは、そう甘くみていた。
「お兄ちゃん、手の目もなかなか強いね。それじゃ、反撃するよ」
真琴は懐からDDを取り出し、地面に転がした。出た目は……3。ミスだ……あ、あれ? 確かに3だった筈なのに4を示している。オレの見間違いか――。
鉄鼠は両手を広げ、鋭い爪を交互に振り上げ手の目に10のダメージを与えた。――HP20/40――
「ちょっと、タクマ。マズイんじゃないの? あと二回喰らったら、間違いなくやられるわよ」
「わかってるよ、お雪……それまでに決めるって」
「ふふん。焦ってる、焦ってるねぇ。そういう焦った顔が、ボクは大好物なんだ」
チッ! クソガキが、生意気な――。
「やれるもんなら、やってみろよ。行くぞ、手の目!」
DDが示したのは1。つまり通常攻撃。
手の目は鉄鼠の懐に飛び込み、重いパンチを繰り出し14のダメージを与えた。――HP25/55――
「ふぅ……まだ足りないか。手の目、こっからが勝負だ。耐えるんだぞ」
「御意……」
手の目の息も、若干上がっている。ここはミスを誘いたい所だ。1/2……普通ならそろそろミスが出てもいい頃だ。
真琴はニヤリと笑みを浮かべ、懐からDDを取り出した。
「それっ!」
真琴は、空高くDDを放り投げた。その光景に違和感――。
「ん? さっき投げたDDを回収してないのに、なんで持ってるんだ?」
「しまった。バレちゃった」
しかし、DDを振られた後。一度振られたDDはいなかる時も、それに従わなくちゃならない。それがDD……デスティニーダイスたる由縁だ。
DDはゆっくりと転がり、1を示したがまたもや4に変化した。
「イカサマよ、イカサマのダイスだわ」
「イカサマ?」
やっぱりさっきのは見間違いじゃなかった。真琴が、好きな目を出せるように、DDに細工していたんだ。許せねぇ。
「バレた。バレた。でも、振ったもん勝ちだからね。攻撃はさせてもらうよ。行け、鉄鼠!」
オレが馬鹿だった。こんなに都合良く、デカイ数字が出るわけない。もう少し早く気付くべきだった。
無情にも鉄鼠の爪は、手の目の体を引き裂いた。全身から流れ出る血――。
「手の目、すまない。オレの所為で」
「主よ。自分を責めるな。我々は、主にただ従うだけ。恨みはせん」
「て、手の目。待ってろ、いい目を出してやるからな」
オレは力を抜きながら、地面に転がした。イカサマにはイカサマ返しだ。目が出る寸前、衝撃波を繰り出す。人間になった今、魔王の時ほど威力はないが、DDを止めるくらいなら可能だ。
出た目は5。絡新婦には効かなかった睨み付けだが、鉄鼠には効くだろう。
「あ、ズルい。イカサマ――っ!」
「真琴、イカサマされたら、イカサマで返す。これがオレのやり方だ」
「ひ、酷い。人間じゃないよ」
おあいにくさま、オレは人間じゃない――。いや、今は人間だが、それは仮の姿。必ず、もう一度転生してみせるさ……魔王に。
手の目は、両手を鉄鼠に向け広げる。眩い光が鉄鼠を包み込む。
「馬鹿め、馬鹿め! 思い知ったか!」
鉄鼠は彫刻のように固まり、身動きが出来ない。この時を待っていた。これ以上のチャンスはない。
「行け、手の目!」
続けて振ったDDは、4を示した。
「主よ、爪に炎を付加する」
「そんなこと出来るのか?」
手の目がMPを10消費し構えると、妖怪百科事典がまたもや開く。
――付加攻撃……チャンス時に実行出来る必殺技。隣り合う二つのスキルを掛け合わせた攻撃である。尚、発動時にはMP――すなわちマジックパワーを要する――
「凄い……どんどん覚醒していく」
手の目は鋭い爪に炎を纏い、鉄鼠の体を引き裂き20のダメージを与えた。鉄鼠は大量の血を吹き出し、断末魔を上げることなく前に倒れた。
「ふん、オレの勝ちだ」
「あ~あ。負けちゃった。お兄ちゃん強いね」
「真琴、約束は守ってもらうぞ」
「うん。ここに住むのはやめた。でも、お兄ちゃんについていく」
「な、なんだって?」
「何か、面白そうだし、お兄ちゃんには秘密がありそうだしね」
ウザイ……やはりコイツはウザイ――。
「タクマ、連れて行こうよ。ムシャムシャ……」
お雪は、こんがりと焼き上がった鉄鼠を頬張りながら言った。見かけによらず大食いな女だ。
「お雪がそう言うなら、仕方ないか……」
「やった~。宜しくね。それより見て、お兄ちゃんの手の目が強くなったよ」
LV7 ランクD
HP47 MP15
攻撃力16
素早さ15
1.2 通常攻撃
3 炎の息
4 鉄の爪
5 睨み付け
6 ミス
「鋭い爪が、鉄の爪になったようね」
「鉄鼠のスキルを吸収したのか?」
「さすが、お兄ちゃん。そういう事。あ~。ボクもお腹ペコペコ。お姉ちゃん、ボクにもわけて」
「いいわよ」
何だ、コイツら。さっきまでバトルしてた鉄鼠を喰いやがって。特に真琴。テイムした鉄鼠を躊躇なく貪ってやがる。
オレは再び吐き気を感じながら、二人が食べ終わるのを待った。