第四話 絡新婦(じょろうぐも)現わる(後編)
「大丈夫か、目目連――っ!」
「主……心配無用。これしきでは倒れん。さぁ、采配を」
「わ、わかった」
頼む――欲は出さない。通常攻撃でいいんだ。祈りを込めたDDは、1を示した。
「よし、行け目目連!」
目目連は絡新婦にのし掛かり、全体重を掛け8のダメージを与えた。どうやら毒に犯され、力を発揮できないようだな。――HP12/30――
「もう少しだ、耐えてくれ」
「もっと毒で苦しみな。次は動きを封じようかね」
絡新婦は口から白い糸を吐き出し、目目連を縛り上げた。ダメージはないが、目目連は身動きが取れない。だが、毒により3のダメージを受けた。じわりじわりと毒が蝕む。――HP18/34――
「クソ……手詰まったか」
オレはそう言うと、無意識のうちにDDを転がしていた。出た目は3だ。
だが目目連は、身動きが取れない。当然、無効だと思ったが悪運の強いオレだ。目目連は、なにやら妖気を集め出した。
発動すれば3は、『火の玉』。蜘蛛の糸くらいなら、簡単に断ち切れるはずだ。
「目目連、行け! お前なら出来る」
「無理だよ。この糸は断ち切れない」
綺麗な顔して、ウザい姉ちゃんだ。きっと、彼氏もいないことだろうよ。何ならオレが立候補してもいいけどな。なんて冗談。目目連を応援しないとな。
「うぉぉぉ」
目目連の妖気が最高潮に達する。熱を帯びた障子は火花を散らし、幾多の目は二つに集結した。
「目目連、無理はするな。お前自身燃えちまったら、意味がない」
「心配無用……」
目目連は、纏わりつく蜘蛛の糸を一本、また一本と燃やしていく。そして、最後の一本も断ち切った。
「ふぅ……主よ。いいきっかけが出来た。見るがよい、本当の力を……」
「目目連、何だよ本当の力って」
「どうせ、ハッタリに決まってるわ。ハハハ……」
この女、ホント性格が悪い。絶対、ヒーヒー言わせてやる。
そうこうしてる間に、目目連は炎に包まれモクモクと燃え始めた。
「やられちまったのか? おい、返事しろよ!」
黒い煙の中から、何かが蠢く。目目連ではなさそうだな。そいつは人間のような容姿をしてるが目はなく、手のひらに目が一つずつ付いている。
「主よ。待たせたな。目目連改め、『手の目』見参……」
「手の目? どういうことだ?」
「究極下の状態が作用し、私を手の目に進化させたようだ」
ひとりでに妖怪百科事典が開く。
――進化……一部の妖怪に見られる突然変異。進化した妖怪の能力は、飛躍的に上昇する。進化のきっかけは様々だが、経験を積むか、追い込まれた時に起きることが多い――
「うーむ。それじゃお前は目目連から、手の目に進化したってわけだな。ますます面白れぇ」
手の目 LV6 Dランク
HP40 MP11
1.2 通常攻撃
3 炎の息
4 鋭い爪
5 睨み付け
6 ミス
スキル 『炎の息』『鋭い爪』『睨み付け』
「こいつは凄い。火の玉が、炎の息にパワーアップしている」
「主、では改めて、この絡新婦に攻撃を仕掛けさせてもらう」
「おう、頼んだぞ」
絡新婦は、恐怖を感じ後退りする。恐れをなした顔も綺麗だ。だが、それもここまでだ。
手の目は一気に空気を吸い込むと、炎の息を吐き出し12のダメージを与えた。
「きゃぁぁ」
絡新婦は炎に包まれ、火だるまになった。メラメラと皮膚が焼ける臭気が漂う。
やがて絡新婦は灰になり、クリスタルだけ残し消えていった。妖怪じゃなければいい女だったのに。いや、性格に難ありか。
「手の目、ご苦労だった」
「問題ない」
これで今夜の宿は確保出来たな。しかし、この部屋……丸焦げになってしまったようだ。まぁ、オレの知ったことではない。
「タクマ、タクマ。もう、勝手にいっちゃうんだから」
おいおい。お絹ちゃんと喋ってたくせに――とは言えず。
「いや、オレ達だけでもイケるかなぁって」
「オレ達って。目目連は?」
「何か、色々あって、手の目に進化した」
「凄いじゃない」
オレに抱き付くお雪の胸が、プニッと当たる。いやいや、いかん。相手は妖怪だ。
「さてと、これで今夜の宿は決まりね」
そこへお絹ちゃんが現れた。勿論、首だけだ。
「倒してくれたんですか? ありがとうございます。約束通りゆっくり泊まっていって下さい」
「おう、すまねぇな」
「だから、何故江戸っ子?」
こうしてオレ達は苦労しながらも、今夜の宿を確保したんだ。
「そう言えば、獲得したクリスタルは?」
「へっ?」
「へっ? じゃないわよ。出しなさい」
没収された……。