第四十話 九尾の狐の思惑
「何が起きたでおじゃるか? 説明するでおじゃる」
「聞こえなかったか? 死に行く者に、説明する暇はないと言っている……」
「マ、マロが死に行く者? 協力してあげたのに、その言い方……気に入らないでおじゃる」
「利用出来る者は、利用する……簡単なことだ」
「むむ……悪人め!」
「ふん。何とでも言え」
悪人……久々にいい響きだ。悪人で当たり前。何故ならオレは"魔王"なんだからな。尤も、今は人間であり、テイマーだがな。
「じいさん、仕切り直しだ。残りHPはどうなってる?」
「うむ。九尾の狐がHP122/320。輪入道がHP100/170。真琴がHP76/110になっておる」
「ほう……オレが村正に魂を喰われ、暴走したのも無駄じゃなかったってことか」
九尾の狐の奴もだいぶ弱ってやがる。一気に叩けば楽勝だ。
「許さん……許さんでおじゃるよ。喰らえ、灼熱の炎――っ!」
九尾の狐は全身に炎を纏い、輪入道に狙いを定める。バカな奴だ。一度、灼熱の炎を輪入道に放ち、効かないとわかってるのにも拘わらず、また発動させるとは。バカは死ななきゃ直らないとは、このことだ。
「死ね――っ!」
輪入道に間を詰め、ニヤリと笑みを浮かべる九尾の狐。輪入道は微動だにせず、キッと睨み付ける。
「放ってみろ、灼熱の炎を」
輪入道が九尾の狐にそう言うと、軽やかなサイドステップで真琴の前に立った。
「えっ!」
油断していた真琴は状況を把握する前に、灼熱の炎の餌食になっていた。なんて卑劣な攻撃をする奴だ。
「熱い、熱いよ……」
真琴は炎の中、悶え苦しみ60のダメージを受けた。――HP16/110――
「やっぱりそっちの奴は、炎に強くなかったでおじゃるね」
見抜かれてしまったか。こうなれば、次の攻撃でまた真琴が狙われるのも明白だ。そうなる前に、次のターンで蹴りを着けなくては。
「真琴――っ! 大丈夫?」
「お、お姉ちゃん……ボクは大丈夫だよ」
炎から復帰した真琴はニコッと笑ったが、その皮膚は痛々しい程爛れていた。
どんなに辛くても、HPが"1"残っていれば立ち上がらなくてはならない。それがバトルフォースを展開された妖怪の役目なのだ。本当に感服する。オレの部下達にも見せてやりたいくらいだ。
「お姉ちゃん……反撃だよ。DDを振って」
「そ、そうね。真琴頼んだわよ」
川姫は動揺しながらも、真琴に促されDDを振った。出た目は2。貫通パンチだ。
「貫通パンチだね」
それまでフラフラしていた真琴だったが、DDを見届けると背筋を伸ばし九尾の狐に貫通パンチを放った。急所こそ外れたが、九尾の狐の胸部を貫く強力な一撃だ。九尾の狐に38のダメージを与えた。――HP84/320――
さて、問題はここからだ。このターンで決めなければ、真琴の命は危ない。しかし、輪入道の付加攻撃を持ってしてもダメージが足りない。
「どうすれば……」
DDを見つめるオレに真琴は言った。
「お兄ちゃん、ボクのこと考えてるの? それなら心配ないよ。死んでもまた勾玉の力で生き返れるしね」
「そうか! その手があったか。真琴、痛いだろうけど、我慢してくれよな」
「タクマよ、残念ながら勾玉で生き返れるのは一度だけじゃ。つまり、真琴が死ねば二度と生き返れん」
「妖怪大翁様、そうなの? へへ……だ、大丈夫だよ……お兄ちゃん。気を使わないで」
手詰まったか。DFDを使うのもありだが、奇数が出たらアウトだ。
「主よ、早く采配を。放棄したと見なされてしまう」
「クソ……ここまでか」
オレは答えが出ないまま、DDを振った。出た目は2。通常攻撃だ。
この瞬間、真琴の死は50%になった。
輪入道は、九尾の狐を掴み上げ地面に叩き付け20のダメージを与えた。更に、地面に横たわる九尾の狐の黄金の尻尾を車輪で引き裂き、20のダメージを与えた。合計40のダメージ。――HP44/320――
当然だが、止めを刺すことが出来なかった。一か八かDDに賭けるしかないか。そんなことを思うオレに、九尾の狐は言った。
「ま、参った。見逃してくれでおじゃる」
それまでと違って、弱気な表情。地面に両手をつき、何とも哀れな姿だ。
「どういう風の吹き回しだ?」
「次の攻撃で、確実にそっちのガキは仕留められるでおじゃる。でも、その後の輪入道の攻撃は、耐えれる自信がないでおじゃる」
この期に及んで命乞い。しかし、真琴の命が助かるならば、それも仕方ない。
「わかった。見逃してやる。それじゃ、ここは通してもらうぞ!」
「どうぞ、どうぞ。お気をつけて」
コイツの情けなさには、思わず力が抜ける。プライドというモノがないのか? 真琴の爪の垢を、煎じて飲ませたいくらいだ。
「さぁ、皆。こんな辺鄙な場所に長居は無用だ。邪馬台国に向かうぞ」
オレ達は、地面に這いつくばるように土下座する九尾の狐を横目に、邪馬台国へと歩き出した。
◇◇◇◇◇◇
残された九尾の狐は――
「行ったでおじゃるか? マロをコケにしおって。酒呑童子と手を組んで、反撃でおじゃる」
九尾の狐は、夥しい量の出血をしながらも、自らの根城へ辿り着いた。
「誰か居らぬか?」
「うぃ……お、九尾どうした? 酷い傷だな? まさかあのテイマーにやられたのか?」
「そうでおじゃる。酒呑童子、マロと手を組んで、アイツらを倒しに行くでおじゃる。」
「手を組む?」
「そうじゃ。酒呑童子、お前はマロの部下じゃろ?」
「部下? そんな話は知らんな。こんな役立たずの主を持った覚えはない。死ね――っ!」
酒呑童子の強烈なパンチは、九尾の狐の心臓を貫いた。
「き、さま……」
「汚い血がついてしまった。ふん……テイマーめ! 我輩の居ない所で……」
酒呑童子は手についた血を酒で洗い流し、不敵な笑みを浮かべた。
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