第二話 泥田坊(どろたぼう)現わる
初の実戦を終えたオレ達は、お雪の言っていた小さな村に辿り着いた。村と言っても、四軒程建ち並んだ集落って感じだ。いずれも茅葺き屋根で、異国テイストに溢れてる。
「お雪、何処か休む所ないのか? さっきのバトルで疲れてしまった」
「アンタはDD振っただけでしょ。まぁ、いいわ。宿屋に案内するよ」
お雪はそう言うと、先陣を切って歩き出した。お雪の後ろを歩くと地面が凍って、寒くてかなわない。さすがは雪女だ。
「ここよ」
四軒のうちでも特にボロい家。こんな所で休めと言うのか? これはもう、宿屋というよりお化け屋敷――。
そんなこと思っていると、お雪がキッと睨む。マズイ……心を読まれたか――いや、違ったようだ。
「タクマ、妖気を感じるわ」
「勘弁してくれよ。オレは休みたいんだ」
オレが愚痴っていると、田んぼから一つ目の何かが姿を現した。全身白骨化していて、泥塗れと来たもんだ。見た目で判断はしたくないけど、お友達になろうってタイプじゃない。
「つるべ火! 頼んだぞ!」
「プキプキ――っ!」
「よし、いい子だ。バトルフォース展開!」
さすがに二回目になると、楽なものだ。余裕さえ出てくる。
「さて、さて、コイツのステータスは……」
泥田坊 LV4
HP22 MP0
攻撃力7
素早さ7
スキル 睨み付け
――成仏出来ずに田んぼに未練を残した亡者。その一つ目に睨み付けられると、金縛りに合うという――
「つるべ火、睨み付けに警戒だ」
「プキ――っ!」
素早さは泥田坊に軍配がある。
「耐えてくれよ、つるべ火」
泥田坊は泥を纏った腕を振り上げ、つるべ火をはたき落とした。つるべ火は、7のダメージを受けた。――HP19/26――
「よし、よく耐えた。次はこっちの番だ!」
1.2 通常攻撃
3 ミス
4 クリティカル
5 火の玉
6 鋭い爪
「ミスは出るなよ」
オレは高々とDDを放り投げた。出た目は6。
つるべ火は炎を鋭い爪に見立て、泥田坊の干からびた身体を抉り10のダメージを与えた。――HP12/22――
「こっからが勝負だな」
つるべ火は身構え、泥田坊の攻撃に備えている。泥田坊はつるべ火ににじりより、閃光を放つ。オレが最も恐れていた睨み付けだ。
泥田坊に睨み付けられ、つるべ火は金縛りに合っている。
「ウゴォォ」
泥田坊はおぞましい声を張り上げ、更に追い打ちを掛ける。水分を多く含んだ両腕を振り上げ叩き付けた。
「甘いんだよ。つるべ火は、水を受けると炎の威力が増すんだよ。残念だったな、泥田坊! 止めを刺してやれ、つるべ火!」
「プキプキ――っ!」
無造作に転がったDDは、1を示した。
つるべ火は、泥田坊の覚束ない足元に体当たりした。炎の威力が増したとは言え、ダメージは7。撃破まではあと一回の攻撃が必要だ。――HP5/22――
瀕死に陥った泥田坊は、捨て身の攻撃を繰り出す。つるべ火の残りHPは19。余裕で耐えれるなと、油断したのが悪かった。
元々、力のある泥田坊。そいつが危険を省みず襲い掛かってきのだ。幸い持ちこたえたが、一歩間違えればヤバかった。つるべ火は11のダメージを喰らい残りHPは8。マズイ、非常にマズイ。
「つるべ火、大丈夫か? 次で決めるからな」
DDが示したのは、3。つまり、ミスだ。オレはつるべ火に平謝りをした。
問題は泥田坊の攻撃だ。通常攻撃なら、まだチャンスもある。
泥田坊は右足でつるべ火を蹴りあげた。つるべ火は7のダメージを受けた。――HP1/26――
「ちょっと大丈夫? テイマーの素質があるなんて、私の勘違いだったかな……」
「まぁ、待て待て。可能性はまだあるぞ。悪いな、つるべ火」
「プキ……」
「何だよ、機嫌直せって。必ず次で決めるからよ」
DDはテイマーが運を握っている。つまり、オレがへっぽこな指令を出すと、つるべ火の力を発揮出来ない――そんなことはわかってるんだが……。
「好きな目が出たら、苦労はしない……と」
心を無にしてDDを投げて見た。出た目は、4。クリティカルだ。
つるべ火は、蓄えていた炎を一気に解放し、泥田坊に会心の一撃を放った。
「やった……って待てよ。泥田坊が倒れないんだけど。お雪、どういうことだ?」
「アンタ……本物ね。あの極悪非道の泥田坊をテイムしたのよ! 見てご覧なさい、あの清々しい顔」
「オレには、汚い面にか見えないが……」
オレが手を差し出すと、泥田坊は滑りのある手を重ねた。マジで汚ない。例えるなら、厠に手を突っ込んだ感覚だ。
更に、意外な化学反応が起きた。これは、オレに取ってもお雪に取っても嬉しい誤算だった。
改心した泥田坊に、つるべ火が歩み寄る。
「タクマ、アンタやっぱりテイマーの素質あるわよ。つるべ火と泥田坊が融合するみたいよ」
「融合? 何だ、それ」
「もう、私がいないと何にも出来ないんだから。妖怪百科事典を見てみなよ」
「あ、あぁ」
――融合……意思の疎通が出来た妖怪が、より強力な妖怪になる為の儀式――
「成る程……とにかく強くなるんだな」
つるべ火と泥田坊は、眩い光を放ち光の中に消えていった。代わって現れたのが、障子に沢山の目がついた妖怪――。
目目連 LV5 ランクD
HP34 MP10
攻撃力10
素早さ12
スキル 『火の玉』『鋭い爪』『睨み付け』
1 通常攻撃
2 クリティカル
3 スキル発動
4.5 通常攻撃
6 睨み付け
――夜な夜な障子に現れ、人々を驚かせるのが得意な妖怪。その目に睨まれたら、筋肉にダメージを与えるという――
「目目連か、頼もしいな。お雪、新たにランクがついたけど……」
「高ランクになった証よ。最高はSSまであるみたい。今の所、鬼骨王しか確認出来てないけどね。目目連は知能も高いから、話が出来るわよ」
「そういうことだ。世話になるぞ、我が主」
「おう、よろしくな」
オレは新たな仲間目目連を加え、ようやく宿屋の敷居を跨いだ。つるべ火はいなくなったが、目目連の中に息づいているという話だ。