第一話 オレはテイマー
魔王が妖怪をテイムして育成、配合、進化をさせていく、バトルがメインのゲーム風ストーリーです。
尚、バトル中のステータス等はRPGに準じています。
※バトルが激化していくのは、第二幕からになります。
※現在、完結に向けかなり盛り上がってきています。頑張って読み進めてくださいね。
ここは妖怪達がのさばる黄泉の国――鬼骨城。
黄泉の国王『鬼骨王』と、オレは最終決戦を迎えていた。オレが負ければ、魔界はコイツのモノになってしまう。だが、オレが勝てば、この黄泉の国も我らが魔族のモノになるって訳だ。
魔族を束ねる魔王ダグーマとして、絶対に負けられない。勝てばいい……容易いことだ。
「鬼骨王、そろそろ遊びは終わりにしないか? オレも暇じゃないんでな」
「笑止! 魔族ごときに、我らが妖怪などに恐れるとでも思ったか?」
鬼骨王はその名の通り、頭に黒光りした二本の角を生やし、朽ち果てた身体を晒している。妖怪の中の王というだけあり、象徴とも言うべき深紅に染まるマントが威厳を助長している。
状況としては、此方が断然有利だ。相当ダメージも与えているし、何よりオレは体力を温存している。
鬼骨王の遊び相手に飽きたから、終止符を打とうという所だ。
選ばれし魔族にしか使えない伝説の剣『デスブレイカー』を背負い、漆黒に染まる鎧に手を当てながらやれやれと溜め息をつく。これに掛かったらいくら鬼骨王でさえ、木っ端微塵ってとこだ。
「悪いが黄泉は頂くぞ、鬼骨王!」
オレは大地を蹴りあげ、鬼骨王の禍々しい顔面目掛けてデスブレイカーを降り下ろした。鬼骨王は避けもせずニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
「死ぬのはお前だ!」
鬼骨王は懐から雲外鏡を取り出し、怒号をあげながらオレに向けた。
「ぬぁぁぁ――っ!」
雲外鏡に吸い込まれていく肉体――やがて手足の感覚が麻痺していった。
オレが馬鹿だった……あんなチンケな罠に掛かるなんて。気付いた時には既に手遅れで、雲外鏡に吸い込まれた後だった。
そこからの記憶はあまりない――。強いて言えば、胸クソ悪いというか……自分が自分じゃない感覚というか……兎に角、そんな感じだった。
◇◇◇◇◇◇
オレは魔王としての野望を果たせず、くだらない罠に掛かり死んだ……。しかし、重い瞼が開くと奇跡的に目が覚めたのだ。
気分は悪くないが、身体は死ぬ程重い。試しに両手を広げてみると、自慢の鋭く輝く爪はなくなり、肌の色も紫色じゃなく肌色に染まっている。おまけに漆黒の鎧は消え失せ、簡素な旅人のような出で立ちになっている。勿論、デスブレイカーもない。
オレはこの状況を冷静に分析した。雲外鏡で飛ばされた時に、“人間”に生まれ変わったのだと。所謂、転生ってヤツだ。しかし、非力な人間になるとはツイてない。
「どうせ転生するなら、もうちょっとマシな人種が良かったぜ……。兎に角、ここが何処か確かめる必要があるな」
などと愚痴っていると、目の前に火の玉が現れた。ぼんやりと鈍い光を放ちながらオレに近付いてくる。熱くはないが、ぐるぐる徘徊してウザい。
「何だ、貴様は?」
オレがそう言い放つと、そいつは『プキィー』と、まるで語りかけるように意味不明な言葉を発した。
「オレに近付くな!」
オレがその火の玉を払いのけようとするも、ピッタリくっついてくる。えらいモンに好かれちまったと思っていると、目の前に色白で異国の着物から張りのある胸を突き出したの女が立っていた。しかも整った綺麗な顔立ちで、肩まである銀髪を揺らしながら微笑んでいる。
見た所、生気は感じられない。恐らく人間ではない……オレはそう感じた。
「人嫌いなつるべ火に好かれるなんて、アンタにはテイマーとしての素質があるのかもね」
「テイマー? アンタ、一体誰だ!」
「私は雪女のお雪――。それより、人間がこんな所に来るなんて、穏やかじゃないわね」
「オレだって、好きで来た訳じゃない……。第一、ここは何処だ?」
ここが何処か把握するのに都合がいいと考えたオレは、このお雪に質問を投げ掛けた。兎に角、こんな辺鄙な所はまっぴらだ。
「ここは彷徨える魂と、妖怪が住む国――黄泉。そして、アンタは生身のまま、この地に踏み入れてしまった……」
「何だと? それじゃここは、鬼骨王の治める黄泉って訳か?」
「ええ、そうよ」
どうやらオレは、黄泉の国で転生したようだ。都合がいい――。つまり、まだ鬼骨王を倒すチャンスはあるということだ。
「お雪、ありがとうな。オレは鬼骨王を倒さなきゃならないんだ。そこを退いてくれ!」
「フフフッ」
オレがそう言うと、お雪は銀色の髪を揺らしながら鼻で笑った。
「な、何が可笑しいんだよ」
「アンタ、馬鹿ね。鬼骨王に勝てる訳ないじゃない。その貧弱な身体でどうする気?」
確かに今のオレは、力もなければ魔力もない。だが、引き下がったら魔界は奴のモノになってしまうのだ。それこそ魔王としての名折れだ。
「なぁ、お雪。どうすれば、鬼骨王に勝てる?」
「簡単なことよ。黄泉に住む、鬼骨王を良く思ってない妖怪をテイム(手懐ける)すればいいのよ。アンタには、その素質があるわ」
「テイム? そんなことがオレに出来るのか?」
「実際、つるべ火がアンタを気に入ったようよ。さっきも言ったけど、つるべ火は滅多になつかないんだから」
「プキィー」
「ほらね?」
どうやら力を失ったオレは、妖怪らの力を借りなきゃ、どうにもならないようだ。自信はないが、やるしかない――。
「決心したようね。そう言えば、名前を聞いていなかったわね」
「名乗るほどの者じゃない……」
「何カッコつけてんのよ。名前がなきゃ、呼びづらいじゃない」
「うっ、それもそうだな。オレは魔王……いや、流離いの旅人――タクマだ。宜しくな」
オレは真実の名前を明かさず、『タクマ』という名前を名乗った。
仮にオレが魔王と知れたら、ただじゃ済まされない――いや、黄泉では伏せていた方がやり易い。そう思ったからだ。
「タクマ、早速敵が現れたみたいよ。あとは実戦でねってね。これをあげるわ」
お雪はそう言うと、辞書のような分厚い本をオレに投げ付けた。
「これは?」
「妖怪百科事典よ。テイムするのに役立つわ」
「何だか知らないが、やるしかないようだな……。こんな所で死ぬ訳にもいかないしな。つるべ火! 頼んだぞ」
「プキィィ」
つるべ火がオレに反応すると、深い茂みの中からおぞましい風貌の妖怪が現れた。そいつは唾液を滴ながら、尖った爪を光らせた。
「こいつは何だ?」
オレは妖怪百科事典を手に取り広げた。すると、ページが勝手にパラパラと捲れていった。
餓鬼 LV3
HP20 MP0
攻撃力5
素早さ3
スキル『鋭い爪』
――生前、強欲と嫉妬に溺れた亡者。妖怪と化した今でも、他人に対する嫉妬は計り知れない――
そのページには、そう書き記されていた。低レベルな亡者なんか、問題ない。対する、つるべ火のステータスはと言うと――
つるべ火 LV3
HP19 MP0
攻撃力4
素早さ5
スキル『火の玉』
「おいおい、つるべ火の奴……弱すぎるぞ。早くも劣勢かよ」
「クケケッ……」
そうこうしてる間に、餓鬼は先制攻撃を仕掛けて来た。つるべ火は、5のダメージを受けた。――HP14/19――
「タクマ、早くバトルフォースを展開して。でなきゃ、一方的にやられるわ」
「何だよそれ、聞いてないぞ」
――バトルフォース……すなわち戦闘に必要なカテゴリである。これを展開することにより、初めてテイマーとしてバトル指示が出せるのだ――
「とにかく、意識を集中して!」
「こうか?」
1.2.3 通常攻撃
4.5. クリティカル
6 火の玉
「お雪、なんか百科事典に出たぞ!」
「それがバトルフォースよ。これを使って。"デスティニーダイス"よ。略してDD。これを振ってみて」
手のひらサイズで、クリスタルのように透明感があるダイスだ。こんなもの役に立つのかと、半信半疑のままオレは放り投げた。
DDは5を示した。つまり、クリティカルということだ。
「プキィプキィィ」
つるべ火は炎を纏いながら、餓鬼の懐に攻撃を仕掛けた。餓鬼に8のダメージを与えた。――HP12/20――
「何だ……この感覚。つるべ火とオレの意志が連動してるみたいだ」
「そうよ。アンタの意志とつるべ火の意志は、連動してるわ。その運命を決めるのが、DDってわけ。DDを持たない敵は、ランダムに攻撃を仕掛けてくるわ。次は餓鬼の攻撃よ」
「成る程。つるべ火! 耐えるんだ」
「プキィ」
つるべ火は、餓鬼の攻撃を受け止めた。受けたダメージは同じく5。――HP9/19――
「よし、よく耐えた。つるべ火! 次だ!」
オレは願いを込め、DDを振った。出た目は6。つまり、スキル発動だ。
つるべ火は全身を震わせ、火の玉を吐き出した。餓鬼は火の玉の餌食になり、炎に包まれた。餓鬼に12のダメージを与えた。
餓鬼は傷付き倒れ煙のように消えていくと、小さなクリスタルを残していった。
「何とか撃破したようだな。お雪、このクリスタルは?」
「これは簡単に言うと通貨ね。この大きさなら、人間界でいうと千円くらいかしら。それより見て。餓鬼の鋭い爪のスキルを、つるべ火が吸収したわ。レベルも4に上がったようね」
「本当だ。素晴らしい……」
つるべ火 LV4
HP26 MP2
攻撃力6
素早さ6
スキル『火の玉』『鋭い爪』
1.2. 通常攻撃
3 ミス
4 クリティカル
5 火の玉
6 鋭い爪
「お雪、鋭い爪がセットされたのはいいが、ミスが増えたぞ」
「そりゃ、そうよ。メリットだけじゃなく、デメリットだってあるってことよ」
「そうか……どっちにしろ、つるべ火も強くなったし、ガンガン行けるな」
「油断は出来ないけどね。取り敢えず、この先に小さな村があるから、ひとまずそこで今後の作戦会議よ」
「あぁ、そうだな。なぁ、それよりお雪は戦えないのか? 強そうに見えるが……」
「私は鬼骨王に歯向かって、力を封印されたのよ。使えるのは回復だけ……」
「そうか……意外と苦労してんだな。よし、オレに任せろ。鬼骨王を必ず倒してやるぜ」
「期待してるわ」
こうしてテイマーとして歩み始めたオレは、まずは小さな村を目指すことになった。
必ず倒してみせる――鬼骨王。