第百四話 栄螺鬼VS酒呑童子
オレが茨木童子を倒したことを知った酒呑童子は、静かな怒りを見せた。その姿は、過去に幾度となく渡り合った時の表情だった。
「酒呑童子……知らなかったとはいえ、すまなかった……」
「やめろ……やめろ――っ! テイマー……貴様が頭を何度でも下げようと、茨木童子は帰っては来ぬ。浄化されてしまっては、いくら勾玉でも生き返らせぬのだろう?」
「恐らくな……」
「茨木童子は心の優しい女だった。それを……それを……」
確かに茨木童子を倒したのは悪い。しかし、卑弥呼の体を乗っ取ったアイツが悪いのだ。
「酒呑童子……オレは逃げも隠れもしない。積年の恨みがあるなら、ぶつけて来い!」
「笑止! 我輩を甘くみるなよ」
オレは草薙の剣の力を頼らず、栄螺鬼一体で戦うことを決めた。それが奴への礼儀だ。
「バトルフォース展開!」
栄螺鬼 LV34 ランクS 特性 水吸収 自己修復
HP480 MP80
攻撃力141
素早さ95
1 クリティカル
2,3 通常攻撃
4 ミス
5 ダイヤの爪(10)
6 迸る水晶(12)
「さて……生かさず殺さずだな。そして、テイム……出来るか?」
テイムするには心を通わせる必要がある。自我を失い掛けた酒呑童子が、何処までオレの“想い”に答えてくれるかだ。
「じいさん……酒呑童子のステータスを頼む」
「タクマ……待ってくれ。脳内の解析が遅れておる」
「何だと? 早くしろよ!」
その隙に酒呑童子は薙刀を肩に乗せ、鋭い目付きを見せる。早くしなくては、先制攻撃を喰らってしまう。
「酒呑童子! 何を突っ立っている! 行け!」
ガシャドクロは高みの見物をしながら、酒呑童子に発破をかける。
「チッ! 余計なことを……栄螺鬼! 一先ず逃げるんだ!」
「御意!」
いち早く反応した栄螺鬼だったが時既に遅く、酒呑童子の薙刀は額の前にまで迫っていた。
「くそ……」
諦めにも似た言葉を吐露すると、酒呑童子はギリギリでそれを止めた。
「酒呑童子! 血迷ったか!」
ガシャドクロが怒号を上げる中、酒呑童子は静かに目を閉じる。
「我輩は正々堂々と戦いたい……テイマーが一対一を選んだのと同じように……」
狂戦士と化した酒呑童子だったが、完全に理性を失ったわけではないようだ。
恐らく戦士としての誇りが、奴に自尊心を与えたのだ。
「酒呑童子よ! やはりお前はオレ達の仲間だ。さぁ、手加減はなしだ!」
解析に遅れていた妖怪大翁は、ようやく酒呑童子のステータスを示した。
酒呑童子 LV28 ランクA 特性 盗む
HP455 MP65
攻撃力95
素早さ76
スキル『盗む』『薙刀無双』
「これで心置きなく戦えるぜ!」
実力的には栄螺鬼が上……それは明白だ。
まずは栄螺鬼の攻撃――オレはDDを転がした。出た目は3の通常攻撃だ。
栄螺鬼は有り余る力を解放し、両手の拳を固め怒濤の攻撃を顔面へと喰らわした。酒呑童子に141のダメージを与えた。――HP314/455――
「栄螺鬼……さすがだ。我輩、嬉しく思う」
口に流れる血……酒呑童子はそれを右手の甲で拭うと、再び薙刀を肩に乗せた。
「行くぞ!」
鈍い金属音が鳴り響くと、薙刀は横一線に振り抜かれた。鮮やか過ぎる薙刀さばき。やはり、酒呑童子は相当な切れ者だ。
「うがぁぁ」
一方の栄螺鬼は瞳を見開き、その薙刀を可能な限り避けた。しかし、リーチが勝る薙刀は、栄螺鬼の肩を切り裂いた。栄螺鬼は95のダメージを受けた。――HP385/480――
「ふははは……」
ダメージを受けた栄螺鬼は大きな口を開け、高らかに笑った。
夜の静寂に響くその声が鳴りやむと、その傷口はみるみる塞がっていった。
栄螺鬼は30ポイントHPが回復した。――HP415/480――
「ば、馬鹿な……」
酒呑童子は後退するのを忘れ、薙刀の先を櫓の柱に突き刺し途方に暮れた。
「目を覚ませ――っ! 貴様とて、黄泉をその名を轟かせる妖怪ではないか!」
これまで高みの見物をしていたガシャドクロが、腰を浮かせる。そして、二度、三度と鋭利な骨を擦り合わせると、その骨を両手から一本ずつ栄螺鬼へと投げつけた。
「ぐぁはぁぁ……」
あまりに卑怯な援護射撃――回復した栄螺鬼の肩は、再び朱に染まった。栄螺鬼は、100のダメージを受けた。――HP315/480――
一度自己修復している為、ここでの回復はない。
「ガシャドクロ……貴様は手を出すな!」
「ほう……酒呑童子、随分と偉くなったものだな……」
ガシャドクロは剥き出しになった骨格を晒し、またしても鋭利に施した骨をちらつかせた。




