第九十九話 悪魔の旋律
「酒呑童子……口ほどにもない奴め! 石化する前に果てるか?」
バックベアードの言い放つ台詞は正論だ。仮に次のターンまで石化しないにせよ、カウンターで事尽きるのは明白だ。
だからと言って、ここで足を止めるワケにはいかない。甘寧の狂戦士化は進行しているのだ。無論、酒呑童子も同じことだ。
オレは怒りと悲しみの中、水虎に願いを託しDDを振り放った。いち早くコイツを倒そうと――。
DDが示した目は6の津波。水虎は拳を握り締め、大量の水を呼び寄せる。
水場ではない為多少の時間を要したが、津波を放つには十分な水量だ。
「水虎よ、今だ――っ!」
うねりを上げながら巨大な津波がバックベアードを襲う。
バックベアードは危険を察知して身を屈めるが、水虎の津波はそれを物ともせず一気に飲み込んだ。バックベアードに98のダメージを与えた。――HP874/2100――
バックベアードは蠢きながら、大量に飲み込んだ水を吐き出す。どうやら、カウンターには出れないようだ。
すかさずオレは、真琴へのDDを振った。出た目は6の恵みの雨――
初めて出た目にオレは困惑しながら、真琴に問いただした。
「真琴! 恵みの雨の効力はなんだ?」
「へへん。全体回復だよ」
全体回復か……気休めかも知れないが、この長期戦を制するには必要な物だ。
「そうか……真琴、頼んだぞ!」
「オッケー!」
真琴は長い髪を一本に束ねると、天に祈りを捧げた。すると、建物内にも拘わらず何処から優しい雨が降り注いだ。
その雨は、傷付いた妖怪達の体を癒していった。
「ここは? あれ……私は」
それは気を失っていたお雪も例外ではなかった。
「タクマさん、お雪が目を覚ましたわ!」
「うむ……」
オレはお雪と川姫に向け、笑顔を送った。
「これは……なんて、温かい……」
凌統も予期せぬ事態に、喜びの声を上げた。
水虎のHPは100回復した。――HP367/397――
真琴のHPは100回復した。――215/425――
凌統のHPは100回復した。――HP365/365――
甘寧のHPは100回復した。――HP350/380――
「よし、いい感じだ……」
しかし、恵みの雨の効果が得られない者がいた――ここまで奮起していた酒呑童子だ。
「酒呑童子? どうした? これでお前も奴の攻撃に一度は耐えれる筈だ」
「…………」
「酒呑童子? 酒呑童子――っ!」
酒呑童子は真っ直ぐにバックベアードを睨み付け、仁王立ちしていた。そう……完全なまでに石化した状態で――。
「ほう……石化の方が早かったか。鬼骨王の元に降らずに、我の部下になればもう少しマシな戦士になれたものを……やはり、頭の悪い奴は早死にする運命なのか。フハハハ――っ!」
「許せねぇ……絶対に許せねぇ! 酒呑童子は立派な戦士だった……それをコケにするのは絶対に許せねぇ――っ!」
「うぉぉぉ――っ!」
怒りに震えた真琴は、オレの気持ちを代弁するかのようにバックベアードへと襲い掛かった。
何度と激しく交差する鋭い爪……それは今までに見たことのない真琴の姿だった。バックベアードに123のダメージを与えた。――HP751/2100――
「はぁ……はぁ……なんてしぶといんだ。全力のボクの攻撃が……」
「そんな攻撃で我は倒せん!」
肩で息をする真琴に、バックベアードは強固な拳を振り下ろした。真琴は床に突き刺さるように、叩き付けられた。真琴は130のダメージを受けた。――HP85/425――
バックベアードは真琴へのカウンターが終わると、その腕に付着した血糊を舐め、品定めするかのように此方の様子を伺った。
「ん? 若干無傷の奴が一人いるな……。どれ……満遍なく我の恐ろしさを味わってもらわないとな!」
凄まじいスピードで向かったのは、凌統の前だった。
凌統は方天戟で防ごうとするも、体ごとその右腕に弾き飛ばされた。凌統は130のダメージを受けた。――HP235/365――
「かはっ……」
「どいつもこいつもザコばかりだ! うぉぉぉ!」
建物を震撼させる程の咆哮――ランダムに振り上げる両腕は、傍にいた水虎へとダメージを与えた。水虎は130のダメージを受けた。――HP237/397――
真琴の恵みの雨で回復したというのに、あっという間にこのザマだ。確かにコイツは強い……強いが、ここまで追い詰めたからには絶対に勝ちたい――。
そして、石化した孫権達や酒呑童子を元の姿に戻すのだ。
――そのためには……。
「うぬぉ……うぬぉぉ……」
オレがそう思った瞬間、何やら甘寧が呻き声を上げた。
「まさか?」
そう……甘寧の肌が熱を帯び、狂戦士へと変化してしまったのだ。
「甘寧、甘寧? 落ち着け!」
甘寧は聞く耳を持たず、青龍刀の柄をガッチリと握り締めた。




