第九十七話 忘れかけていた記憶
人質に囚われていたお雪を救出したことで、バックベアードは不穏な態度を見せると思いきや、冷静な動きを見せる。恐らくそれは奥の手――石化睨みがあるからだとオレは分析していた。
「真琴、奴は石化睨みを切り札に持っている。その目を見ては駄目だ」
念の為、真琴に注意を促すが、気休めでしかない。あれほど巨大な目を見るなというのは、土台無理な話だ。要は喰らった時の対処法……。
ここで考えても埒はあかない。喰らったら喰らったで、その時考えるしかない。
オレはDDを振り、真琴に託した。出た目は5の吸血だ。
破壊力こそないものの、体力の減った真琴に持ってこいの技だ。
真琴はバックベアードの視線に気を付けながら、比較的防御の薄い太股へとかじりついた。
ドクドクと脈を打つように、その牙を通じて血液が体内に吸収されていく。バックベアードに80のダメージを与えた。――HP1374/2100――MP10消費75/85――
真琴はバックベアードの血を吸収したことで、80回復した。――HP115/425――
すかさず真琴は、バックベアードのカウンターが来る前に攻撃を仕掛ける。
牙を突き刺した箇所を抉るように、両手で血肉を裂く。バックベアードに123のダメージを与えた。――HP1251/2100――
ここで怖いのは、バックベアードのカウンターだ。奴の攻撃力からして、真琴が耐えきれないのは明白だ。
「アレしかないな……」
オレはバックベアードのカウンターを予知していたかのように、DFDを取り出した。これさえあれば、たとえ奇数が出たとしてもダメージを半分に抑えられ、残り少ない真琴の体力でも耐えれるだろう。
「テイマーよ、その必要はない!」
DFDを指先から離そうとしたその時、酒呑童子が真琴に駆け出しながら言う。
「何だと?」
酒呑童子はオレの問いには答えず、その身を投げ出すように真琴の前に立った。
カウンターを仕掛けたバックベアードは、真琴を遮る酒呑童子を弾き飛ばした。酒呑童子は、130のダメージを受けた。――HP170/430――
「酒呑童子、お前って奴は……」
「テイマーよ、勘違いするな。吾輩はバックベアードのやり方が気に入らないだけだ」
「ほう……我のやり方が気に入らない? 異国の妖怪如きが大したものだ。ならば、どういうやり方がお望みかな? 鬼骨王の裏切り者君?」
バックベアードは酒呑童子の足元に向け、衝撃波を放った。しかし、脛を掠めるだけでダメージはない。
「何だ、その情けない技は?」
「酒呑童子――っ! 逃げろ! これはお前を油断させる罠だ!」
「何――っ!」
「遅いわ――っ!」
バックベアードはその目をいっぱいに開き、怪しく光る閃光を放った。
「くっ! 皆、目を閉じろ! あの光を見てはいけない!」
瞼の裏に焼け付くような光と不快感――これが奴の切り札。
「うがぁ……か、体が……」
酒呑童子の悲痛な叫び――。
光が止み、瞼を開けると、足元から硬直し始めている酒呑童子の姿があった。
「くっ、獲物は酒呑童子だけか。やはり、コイツは頭が悪い……」
「んだと? 俺様達の仲間を悪く言う奴は許せねぇ!」
甘寧はその言葉に激怒し、青龍刀でバックベアードの下腹部へと突き刺した。バックベアードに99のダメージを与えた。――HP1152/2100――
「はぁ……はぁ……くそ、何てしぶといんだ」
甘寧の反撃も虚しく、酒呑童子の硬直は膝上まで石化が進行していた。
「無駄だ……貴様らに我は倒せん。死ね――っ!」
容赦なくカウンターを喰らわすバックベアード。甘寧は、130のダメージを受けた。――HP250/380――
「はぁ……はぁ……」
ダメージを受けたのは確かだが、肩で息をする甘寧。その横では、攻撃を仕掛けていない凌統も息を上げていた。
「甘寧、大丈夫か?」
「やはりな……」
甘寧に声を掛けるオレに、妖怪大翁が言い添える。
「じいさん、どういうことだ?」
「タクマよ、甘寧と凌統――そして、酒呑童子も“魂”が抜け落ちようとしてるようじゃ。つまりじゃ……勾玉で生き返らせることは出来たんじゃが、“定着”させておらんということじゃ」
そうか、思い出した。過去にお雪と真琴が死んだ時、生き返らせても妖怪温泉で魂を定着させないと駄目って言っていたな。
「じいさん、何かいい方法はないのか?」
「この瓢箪に一人分の温泉の湯がある」
「つまり、助かるのは一人だけってことか……」
「そういう訳じゃ……」
「じいさん、因みに定着させないとどうなるんだ?」
「うむ……あまり言いたくはなかったのじゃが、言うしかあるまいな。単刀直入に言う……自我を失った狂戦士になるんじゃ」
「どうして、そんな大事なことを……」
今更、妖怪大翁を責めても仕方がない。兎に角、酒呑童子の石化の進行を止め、温泉の湯を誰に使うかを決めなくてはいけない。
新たな問題を抱えながら、息を切らしバックベアードに駆け出す凌統を見守った。




