第八十八話 クラーケンの無駄な足掻き
クラーケンは天を仰ぎ、何やら独り言を呟き始めた。オレはその行為がなんなのか気にもとめず、妖怪達にクラーケンの攻撃に備えるように促した。
「馬鹿だ。馬鹿な奴らめ……」
クラーケンはそう言うと、攻撃に転じた。どうやらターゲットは、真琴のようだ。
前方に守備を置く真琴の側面から、忍び寄る触手。真琴は自らの長い髪に視界が遮られ、反応に遅れた。
「真琴、横よ!」
川姫が注意を促すも、クラーケンの素早さは健在だ。真琴は呆気なく触手の餌食になり、75のダメージを受けた。――HP45/250――
「うぅ……へへっ……何とか耐えたよ」
「真琴、よく耐えた。それでこそお前だ。さぁ、川姫! クラーケンに止めを刺すぞ!」
「任しておいて。真琴、やられた分は返すのよ」
川姫の振ったDDは、3の通常攻撃を示した。
真琴は相当なダメージを受けながらもケロッとしている。どうやら戦闘を重ねることにより、タフになってきたようだ。
「クラーケン、ボクはこっちだよ!」
お返しと言わんばかりに、真琴はクラーケンの周囲を縦横無尽に駆け回った。
「ちょこまかと、煩いハエが!」
「ハエが止まったよ!」
真琴は憎まれ口を叩くと、クラーケンの顎に飛び膝蹴りを喰らわし57のダメージを与えた。
「うぎゃぁ! 己れ――っ!」
クラーケンが怨嗟を抱きながら叫ぶと、ポロポロと自慢の牙が大地に転がった。――HP128/750――
更に追い打ちを掛けるように、オレは水虎に対するDDを振った。出た目は2の通常攻撃だ。
水虎は華麗に飛び上がると、クラーケンの後頭部にのし掛かり残り少ない牙を蹴り上げた。クラーケンに81のダメージを与えた。――HP47/750――
「はひゃ、はひゃ……」
全ての牙を失ったクラーケンは、言葉を発することさえ出来なくなった。哀れな末路だが、生かしておくわけにはいかない。続けざまにDDを振る。出た目は同じく1の通常攻撃だ。
「シーサーペントよ、止めだ!」
「御意」
シーサーペントは、巨体を揺らしながらゆっくりとクラーケンに近付いた。
「はひゃ、はひゃ……ひゃのむ。ゆゆひてふぇ……(頼む、。許してくれ)」
「クラーケン……命乞いか? 残念だが、運命には逆らえない……死ね!」
「うぎゃわ――っ!」
クラーケンの断末魔と共に飛び散る肉片……。やがて、それが鳴り止むと玄武池に静寂が訪れた。
クラーケンは煙のように消え、比較的大きなクリスタルを残した。
「主よ、約束だ。このクリスタルは、我が頂く」
いの一番に飛び付く一本だたら。確かにそう言う約束だった。
「好きにしろ。よし、お雪、川姫! 甘寧達を追うぞ!」
「ちょっと、タクマ。義経と弁慶はどうするのよ。置いてくつもり?」
お雪がそう言うと、義経が言い添えた。
「今回のことでわかりました。やはり、某達には修業が必要です。今度こそ邪馬台国に戻ります」
「あぁ、そうしてくれ。役に立たないからな」
「当たってるだけに、悔しいですね。
しかし、タクマ殿、鬼骨王には十分注意して下さい」
「どう言うことだ?」
「三種の神器も残す所、あと鏡だけ。このまま鬼骨王が黙っているとは思えません。きっと、取り返しに来る筈です。決戦の時、再び落ち合いましょう」
「わかった。あまり、無理はするなよ」
「タクマ殿も」
義経に強い口調で言ったのには、訳がある。実力があるからこその言動だ。裏を返せばそれは、オレなりの“優しさ”って奴だ。
オレ達は振り返りもせず、魔合肥へと歩き出した。
「タクマよ、さっきのクラーケンの独り言じゃが……」
突然、言葉を発する妖怪大翁。
「それがどうした?」
「どうも、引っ掛かるんじゃ。それにクラーケンを甦らせた主。ワシらの目の届かない所で、何か飛んでもないことが起きてるやも知れんな。もしや、バックベアード?」
少しずつ絡み合う歯車……。鬼骨王、それにバックベアード。どうやら、オレは色んな“物の怪”に好かれているようだ。
「じいさん、心配するな。オレが必ずぶっ飛ばしてやる!」
オレは漆黒に染まる鬼赤壁の空を見上げ、唇をキュッと噛んだ。




