第八十七話 狂い咲き
水虎の背後に迫るクラーケン。義経を縛る縄は解けたが、気を失ったままだ。
「ここで何をしていると、言っている!」
クラーケンは激越し、触手を纏め上げ天に翳すと水虎に不規則な動きで迫った。
「くそ……間に合うか?」
オレは視線をそのままに、DDを振り落とした。3か4のミス以外なら、威嚇は出来る筈だ。
コロコロと音を立てながら転がるDD。心なしか、悠久の時さえ感じる。
「まだか? DDよ、早く運命を示せ!」
オレが叫びながら手に汗握る視線の先で、クラーケンが声を張り上げる。
「纏めて殺してやるわ!」
万策尽きたと肩を落とすと、ようやくDDは運命を示した。出た目は2。通常攻撃だが、間に合わない。
そう思った矢先、シーサーペントは既にクラーケンの背後に回っていた。粋な計らい――。オレの出す目を信じて、いち早く攻撃に転じていたのだ。
僅かなタイムラグ。シーサーペントは、力任せにクラーケンに体当たりした。その瞬間、触手が水虎と義経の頬を掠めた。
「うごわぁ――っ!」
クラーケンは体液を撒き散らしながら、宙を舞った。クラーケンに、81のダメージを与えた。――HP367/750――
「主、シーサーペント、済まない。助かった」
義経を背負った水虎は、オレの元に戻り詫びをいれた。
「水虎よ、謝るのはオレの方だ。浅はかなオレを許してくれ……」
例えテイムした妖怪とて、同等の立場。オレ一人ではどうにもならなかった筈だ。
「さ~て、クラーケンよ。これで憂いはなくなった。覚悟はいいな?」
「ふぬぅ……。これで勝ったつもりか? 言った筈だ。皆殺しにすると」
クラーケンは一度玄武池で体を潤すと、墨を吐きながら体当たりを喰らわしたシーサーペントに迫った。
「まずは貴様に御礼をしないとな。裏切り者めが!」
不気味に詰め寄ると、煌めく牙をシーサーペントへと向けた。シーサーペントは呼吸を整え蜷局を巻こうとするが、クラーケンは触手で抑え込み頭部を抉るように噛み付いた。夥しい量の血飛沫……シーサーペントは75のダメージを受け、断末魔を上げた。――HP0/250――
「シーサーペント――っ!」
「死におった……死におったわ!」
オレはシーサーペントの亡骸に、そっと手を当てた。シーサーペントの残りHPは、30だった。狙われるなんてのは、想定内だ。
――シーサーペントよ、少し休んでいろ。後で生き返らせてやる――
オレは動揺もせず立ち上がり、目を細め口角を上げた。
「ん? どうした? 仲間が死んで気が狂ったか?」
何も知らないクラーケンは、シーサーペントを倒したことで強気な態度を見せた。そんなことをお構い無しに、オレは川姫に言った。
「川姫、早いとこコイツをぶっ飛ばすぞ。甘寧達に、これ以上遅れは取れない」
「そうね。真琴、行くわよ」
「き、貴様ら、仲間が死んで何とも思わないのか?」
「ガタガタ煩い奴だ。弱い奴程、よく吠えるってな。川姫、気にするな。行け!」
川姫もまた全てを悟り、DDを振った。出た目は2の長い髪だ。
クラーケンはオレ達の行動に恐れをなし、触手を窄めた。その様子を見た真琴は、容赦なく束ねた髪をクラーケンの喉元に突き刺した。クラーケンに75のダメージを与えた。――HP292/750――
続けてオレもDDを振る。出た目は5の黄金の爪だ。水虎はそれを見届けると、勇猛果敢にクラーケンの懐に飛び込んだ。鋭い爪は、クラーケンの臓物を引き出し、107ものダメージを与えた。――HP185/750――
痛みに耐えきれず、思わず這いつくばるクラーケン。完全に意気消沈かと思われたが、奴も西洋の悪魔と呼ばれた漢。息を乱しながらも立ち上がった。
「面白い……オレ達に喧嘩を売ったのなら、そのくらいの根性は見せないとな。さて、クラーケンよ。冥土の土産に、いい物を見せてやろう」
オレはそう言うと、勾玉に祈りを捧げた。すると、一度は果てたシーサーペントが、息を吹き返した。
「な、なんだ。生き返った? 通りで動揺しない筈だ」
「そう言うことだ」
オレは腕を組ながら、ニヤリと笑った。
「いい物を見せてもらった。礼を言う」
「死に行く者に礼を言われてもな」
この時、オレは気付かなかった。クラーケンの目の前で勾玉を使って見せたことが、更なる災いをもたらすことになるとは。




