第九話 恐怖! 病田の霊
バトルフォースを展開すると、川姫がオレに何かを渡した。
「受け取って!」
「これは?」
「薬草よ。バトルフォースにセットすれば、傷付いた時に回復出来るわ」
――薬草……水場に生える草で、傷口に擦り込むことでHPを30回復することが出来る――
妖怪百科事典には、そう記されていた。
「コイツはありがたい。サンキュー、川姫。それじゃ、改めてバトルフォース展開!」
手の目 LV7 ランクD
HP47 MP15
攻撃力16
素早さ15
1.2 通常攻撃
3 炎の息
4 鉄の爪
5 睨み付け
6 ミス
「タクマさん、そしたら薬草をセットして。因みに6のミスにはセット出来ないわ」
「わかった」
オレは、4の鉄の爪に薬草をセットした。これでピンチに追い込まれた時に、回復が出来る訳だ。
対する病田の霊はと言うと――。
病田の霊 LV9 ランクD 特性 二回行動
HP50 MP18
攻撃力8
素早さ20
1.2 祟り
3.4.5 通常攻撃
6 怨念
「何だ、特性ってのは?」
攻撃力が大したことない割りに、この特性に記されたAI二回行動が気になる。
オレの意思を察知したかのように、妖怪百科事典は開く。
――特性……読んで字の如く、その妖怪が備えもった特別な性質である。炎に強かったり、帯電体質であったり様々である。尚、特性は良いことばかりではない。炎に弱いなども特性に含まれるのだ――
更に、ページは捲れる。
――AI二回行動……人工知能により、連続攻撃が出来る特性。尚、二発目の攻撃はランダムで発動する――
「そう言うことか。つまり、病田の霊の攻撃力は低いが、連続攻撃を浴びると大打撃を受けるってことだな」
「タクマ、気を付けて」
「言われなくてもわかってる」
コイツは今までの妖怪とは違う。その自信は伊達じゃない……。
病田の霊は、全てを悟ったオレに余裕の笑みさえ浮かべる。
「面白い……。絶対テイムしてやるぜ」
先手を取ったのは病田の霊。骸を晒け出し、手の目に白骨で殴打し8のダメージを与えた。
更に攻撃は続く――。その攻撃を皮切りに、懐に潜り込み重いパンチを繰り出し、更に8ダメージ。手の目は合計16のダメージを受けた。――HP31/47――
強い……これはハッタリじゃない。下手すりゃ、あと二発でお陀仏だ。
「頼むDD……いい目が出てくれよ」
DDが示した目は、4。薬草か鉄の爪が選択出来る。今の状態では、まだ薬草を使用する必要性ない。オレは迷わず鉄の爪を発動するように、手の目に要請した。
「御意」
手の目は軽いステップを踏み、病田の霊の背後に回り込む。そして一瞬の隙を見て鉄の爪で切り裂き19のダメージを与えた。――HP31/50――
HPだけを見たら、五分五分。攻撃力もこちらに分がある。問題はAI二回行動……そして、祟りと怨念のスキル――。
「やれるか?」
病田の霊は、吹き出した血をペロリと舐める。
「なかなか、どうして。久々に戦闘を楽しめる……」
臆することなく、攻撃に転じる病田の霊――。
まずは先程と同様に殴打してきた。手の目は8のダメージを受けながらも耐えしのぐ。――HP23/47――
問題はこの後の攻撃だ。病田の霊は一旦後退し、おぞましい声を張り上げ朽ち果てた目を光らせた。
「ん? 何だ? 見たところ、手の目に変化は見られないな……うぐぐっ」
作用したのは、オレに対してだった。
「う、動けない……。お前、何をした!」
「クックック。これが怨念よ。これでお前は手の目に指示が出せない」
「何だと? うぐぐっ。くそ……」
「勝負あったな……。どうやら、お前に我をテイムすることは出来ないようだ。ガッカリだ……」
「く、くそ……」
「お兄ちゃん、負けないで」
「ま、真琴! どうしたらいい?」
真琴は危険を省みず、オレに駆け寄った。
「上手くいくかわからないけど、手の目に向かって念じてみて。意思の疎通が出来れば、DDが振れなくてもランダムで攻撃が出来るはず」
「本当か? やってみるぜ!」
「うん、頑張っ……うわぁぁ」
「ガキが……邪魔をするな!」
「真琴――っ! 貴様! 絶対許さねぇ!」
病田の霊に吹き飛ばされた真琴を見て、オレの中の何かがキレた。
「許さねぇ、許さねぇ……」
「クックック。何を許さないというのだ? 何も出来ない虫けらのクセに。あぁ、情けない。お前を一流のテイマーだと思った自分が情けない……」
「んだと? もう一度言ってみろ!」
「何度だって、言ってやるさ。情けない……」
キレたオレは、何かに目覚めた。