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復縁大作戦決行

 このエピソードは大阪が舞台なので、こてこての大阪弁にしてみました。よりを戻したい相手の女性ももちろん大阪弁です。読者様も、大阪のイントネーションを思い浮かべながら読んで頂ければ、嬉しいです。

 「係長、お疲れ様でした。」大阪の北にあるビジネス街のとあるオフィスビルを出たところで、珠代は若い男性社員に声をかけられた。

 「お疲れ。あー、あれでええさかい、あの調子で頑張りな。」自分を追い越して行こうとするその部下に、彼女は大きな声で応えた。

 「はい、ありがとうございます。失礼します。」彼は、足早に、珠代が向かおうとする方とは違う方向に去って行った。

 「徳間か、奥宮の注目株やんなあ。」彼の後ろ姿を見送っている彼女に、後からビルを出て声をかけて来た女性は、珠代の同僚の女子社員だった。

 「川瀬、今日えらい遅いやん。何残業することあったん?」

 2人は、同じ方向へ歩き出した。

 「ちょっと、課長に頼まれてな。」

 「あーそうか、もうええわ、川瀬ののろけ話。」

 「ちゃうて、今日のはちゃんと仕事やったんやし。」

 「プレゼン用のコピーか。真崎まさきさん、今度の企画に賭けてるらしいな。」

 「そうやね。そやし、私も必死になるわ。」

 「コピーにか?」

 「ただコピーしたんやないで。誤字脱字チェックも任されたんやしな。」

 「ほう、えらい信頼されてるやん。」

 「そやろ。やっぱし、一樹かずきは既に私の旦那やねん。」

 「プロポーズされたんか。」

 「明日のプレゼン上手いこと行ったら、してくれるみたい。」

 「そうか。あーあ、川瀬まで行ってしもたら、同期で残されてんのもううち一人になるやん。」正直、珠代は悔しかった。真崎は、珠代らが新入社員の頃から、共通の憧れの的だった。今でも、イケメンで優しくて、それでいて仕事が出来て、社内でも将来を嘱望されているからだ。それが、自分よりも、容姿も仕事力も劣る、こいつには先越されたくない同僚に持って行かれたとあっては、真崎に特に熱を上げてる訳でもないのに、さすがに面白くなかった。配属先の課が違ったか同じだったかのハンディーの大きさを恨むしかないなと、自分を慰めていた。

 「奥宮、徳間とまだ何にもないの。」

 「あらへんわ。うちまだあいつと別れたばっかしやで。そんな、ほいほいとせえへんわ。」

 「なんや、これから釣るんか。」

 「ほっといてえな。あいつうちより5つも歳下なんやで。」徳間には、まだ噂になる様な話しはなかったが、同じ課には、徳間の年齢にみあった女性社員が数人いて、その子らの若さに負けて惨めな思いをするはめになるのが目に見えていたのだ。そんなことを思いながら、交差点で信号待ちをしているところへ、突然聞きなれた男の声がした。

 「たまっち。もいっぺん話ししたいんや。」

 「びっくりしたあ。いつからおったん、気持ち悪いな。」

 「ほな、私は先行くわ。まあ頑張りいな。」川瀬は、丁度青信号になった為さっさと歩き始めた。

 「え、ちゃうし、もうこいつとは終わったんやし、待ってや。」

 「待てへんね。私かて、これから予定あるさかいな。」

 「なんでや。プロポーズは明日ちゃうんかいな。」と言いかけるも、男に腕をつかまれて、追いかけることも出来ず、他の男にでも会うんかいなと詮索しながら、

 「もう、離してや。あんたとはもう終わってるやろ。しつこせんといてえや。大きい声を出すで。」そう言われては、公衆の真っただ中でストーカーのレッテル貼られる訳にもいかず、男は掴んでいた腕を離した。すると、珠代は慌てて川瀬の後を追いかけ、横断歩道をかけ出したが、仕事疲れもあったのか、少し足がもつれて、交差点の真ん中で思いきり転倒してしまった。それも、その際膝をしたたか打ちつけたらしく、痛くて立てない。でも、もたもたしていると、信号が変わってしまう。大勢いた横断歩行者はみな渡り切ろうとしていて、川瀬も珠代の転倒に気付いてないのか、その姿も見えなくなっていた。前の歩行者信号は点滅し、すぐに赤に変わったその時、珠代を強引に抱きかかえて、素早く元の歩道まで連れてくれたのは、別れたはずの男だった。

 「もう、下ろして。あんたのせいで酷い目におおたわ。」

 「ごめん、でも、どうしてもたまっちに会いとうて。」そう言いながら、男は珠代を下ろした。しかし、痛くて立つことも出来ない。

 「痛い!もう歩かれへんやん。どうしてくれるん。」

 「分かった。わいがおぶって行くわ。」

 「もうしゃーないなあ。ほな責任取って家までやで。」

 「任せといてや。ほな、行こか。」男は、珠代をおぶって、地下鉄御堂筋線の梅田駅に向かった。

 「恩には着いひんで。元々元彦のせいやさかいな。」

 「やっと、又名前で呼んでくれたなあ。」

 「そうかて、しゃーないやん。いとーて歩かれへんし、おぶってもろて気持ちええさかい、名前くらい呼んだるわ。でも、勘違いせんといてや。これで寄り戻したりせえへんしな。」

 「でもな、怪我させてしもた責任は取らせてえや。」

 「治療費、慰謝料、生活困らん様に補償してもらうしな。」

 「あー分かった。たまっちの為なら何でもするわ。」

 「えー、又そんなこと言うて、もうかなんなあ。」その言葉を最後に、彼女は何も言わなくなった。そしてしばらくして、元彦の耳元に、珠代の寝息が聞こえて来た。彼女はその日仕事が忙し過ぎて疲れていたのだ。元彦は、そんな彼女をおぶったまま階段を下り、2人分の切符を買い、そのまま地下鉄に乗り、3駅間電車の揺れに耐えた。そして、新大阪で下車し、彼女が一人暮らしするマンションに向かった。

 「うち、寝てしもたんやな。」

 「疲れてたんやな。」

 「定期あったのに、はろてくれたんか。」

 「そんなん、しれてるやん。」

 「なあ、もう下ろして。痛いのだいぶましになったし、歩けるさかい。」

 「ええやん、もうすぐそこやし、部屋の前まで行くわ。それとも、恥ずかしなったんか。」

 「うちもうじき29やで。そんな羞恥心とうに捨てたわ。それより、重いやろ。」

 「全然平気や。たまっちやったら、ずっとおぶってられるで。」実は、もう限界近かったが、元彦はここぞとばかりに強がっていた。

 「53キロとハンドバッグあんのに、重いし、持ちにくいのに。もうちょっとダイエットしといたらよかったなあ。ちょっと待ってな。」そう言いながら、彼女はマンションの玄関のオートロックを解除した。

 「郵便受け、見て行くか?」元彦は気を利かせて、珠代のルームナンバーの書いたそれの前で止まった。

 「うん、ちょっと待ってな。」珠代は、少しごそごそと郵便物と夕刊を取り出してた。

 「ありがとう、もういいわ。」そう言われた途端元彦は、もう少し奥へ行ったところのエレベーターへ行き、「△」を押して呼び出し、間もなく来たそれに乗り込むと、「8」を押した。

 「なあ、かんにんな。」耳元で、珠代がぽつり。

 「何が?」

 「何やろな。自分でもよう分からへんね。でも、今日は正直、嬉しかったし、助かったわ。」

 「元々わいのせいやし、そんなこと言われてもこそばいな。」

 「人のせいにすんの、うちの悪いくせや。どっちにしても、今日は滅茶苦茶忙しかったさかい、疲れてたんや。そやし、ありがとう。」そんな会話してるうちにエレベーターは8階に着き、そこから少しで部屋の前までやって来た。そこで、元彦は、珠代を下ろした。

 「足どや?明日会社行けるか?何やったら、迎えに来て、会社でも、病院でも連れてってやるで。」

 「ここまで来て帰るん?」

 「責任取らんなあかんし来たけど、別れた女のとこ寄って行く訳にいかんやろ?」

 「意地悪やな。そんなこと言わんと、寄って行きいな。」珠代は立ちあがって鍵を開け、元彦を中へと誘い込んだ。

 「ほな、ちょっとだけ。」そう言った途端、彼は玄関にふらふらと倒れ込んだ。ここがよりを戻すチャンスと思い、気を張って頑張っていたが、健康運を下げた彼にとって、その体への負担は想像を絶していた。

 「どないしたん?大丈夫か?もう、無理して。」

 「ごめん。ほっとしたら力抜けてしもた。」

 「うちの為に、なんぼ無理してんにゃな。別れた女の為にしては、お人よし過ぎやわ。回復するまで、帰らさへんよ。」

 「別れても、嫌われてても、たまっちのことは好きやさかいな。」

 「もう、元彦にはかなわんわ。なあ、夕飯食べたん?」

 「いや、ほんま言うたら、たまっち誘うて食べに行こ思てたんや。」

 「そやったら、ソファでちょっと待ってて。簡単なもんしか出けへんけど、ちょっとは体の足しになるもん作るさかい。」

 「痛いのに、無理せんで、わいがマ○ドかファ○マ行って買うて来るさかいに。」立ち上がろうとした彼に、

 「座って待っとけ言うとるやろ。待っとけよ。」痛い足の為につまづきそうになりながらも、それすら勢いに変えて、半分もたれかかる様にして彼をソファに押し戻した。

 「あ、うん、分かった。」

 「背中で安心して寝てたさかいに、もう大丈夫やね。」

 「あ、でも消毒とかしとかんと、擦りむいて血出てんのちゃうか?」

 「そやな、でもそんなんもう自分で出来るし。」珠代はさっそく薬箱を出して来て、打ちつけた右膝を出した。確かに少し出血していた。彼女は、そこに箱から出した消毒液をかけようとしたが、筋状に少しかけただけで、

 「痛!うち、これ嫌いやね。」

 「でもな、ちゃんと消毒しとかな、ばい菌入ったら大変やで。ちょっと貸してみ。それと、これ使うで。」彼は、消毒液と濡れティッシュを手に持つと、まず濡れティッシュで傷口周辺を綺麗に拭いてやってから、消毒液を霧状にかけた。

 「治療上手いねんなあ。」彼は仕上げに軟膏を塗ってやった。

 「何も上手ないて。ただ、愛情があるだけや。あ、これ先月一杯で使用期限過ぎてるやん。明日さらの買うて来たるわ。」

 「何で、そんな優しいん?なんでうちみたいなん好きなん?」

 「何でて、理由いるかな。ただただ、わいはたまっちが大事やね。」

 「もう知らんわ。ごはん出来るまで大人しい待っとりや。」珠代は、元彦に顔を見られない様にして、さっさと台所に立った。

 「どしたん?怒ったんか?」

 「あほ、何で怒んねん。もう完全にうちの負けやわ。泣かすな。」

 「泣いてるのか。」

 「もう、静かに待っとれて。」その後は、ソファで大人しく待っていた。

 「元彦、出来たで。起きて一緒に食べよ。」疲れて寝てしまったようで、テーブルの上には夕食が並んでいた。

 「すまん、全部運ばせてしもた。大丈夫か。」

 「ふん、もう平気やで。元彦が送ってくれたおかげで、もう治ったわ。」

 「ほなええけど、無理したら、あかんで。」

 「ありがとう。さあ、食べて。」サラダとか、味噌汁とか、肉じゃがとかおかずは5皿もあった。

 「こんな作ってくれたんか。時間かかったやろ。」

 「こんなん、ほんの15分ほどやで。」

 「そんなはよ出来るんか、凄いな。」

 「一人暮らしで自炊すんの、そんな時間かけてられへんしな。」

 「しかも、美味いわ。」その言葉に、珠代は満面の笑みになった。

 「そんな褒めてくれる人いたら、作った甲斐あるわ。」

 「あ、これも美味い。ほんま美味いわ。」そう言うほどに、珠代の顔は緩んで行った。そんな和やかな食卓だった。

 「ごちそうさん、最後にいい思い出出来たわ。」

 「何でそんなこと言うん?」

 「そうかて、これで勘違いしたらあかんやろ。長居したら悪いし、皿洗いしたら、帰るわ。」

 「意地悪。食い逃げは許さへんで。お皿は一緒に洗う。そいで、シャワー浴びて、泊って行って。」彼女の誘いに乗って、仲良く皿洗いをして、シャワーを勧められて先に浴びた。入れ替わりにシャワーを浴びに来た彼女に、

 「帰ったらあかんで。」と念を押され、ベッドを見ると枕が2つ並んでいた。その時、一瞬運神様が現れてウィンクした様に見えた。

 御愛読頂きまして、ありがとうございます。まあ、恋にはタイミングが物を言う時もありますよね。さて、運神様の次の活躍は又の機会に・・・

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