喪失
俺は死んだ。
嘘。正確には、生きているのか分からない程に存在意義を見失った。
何をしていても誰の為に動いているのか…。
俺には3ヶ月前まで恋人がいたが、毎日毎日電話がかかってきて、重く感じて突き放した。
元々好きになって付き合ったわけじゃない。
俺は鬱陶しいと思う度に、酷いセリフを何度もぶつけてきた。
それでも彼女は離れようとしない。
そんな彼女に俺は、「こいつは何を言っても、何をしても離れないんだ」と
無意識に思っていたのかもしれない。
~3ヶ月前~
俺が拒絶して、彼女がくっついてきて、そんな微妙な関係が続いて
ある日彼女は俺に「とーま変わったね」と言った
ここで簡単に自己紹介する。この物語の主人公は江口当麻
全てを失った、救いようのない主人公だ
彼女の言葉に返事をしようとした時、電話の切れる音がした。
初めてだった。彼女から電話を切ったのは…
俺は薄々気付いていた。彼女は俺に冷めたんだ
別に悲しいことはない。
案の定連絡は全く来なくなり、俺の初恋愛は自然消滅という形で幕を閉じた。
春休み 友人達と過ごす、すごく楽しい日々だ。
この春から高校に入学する俺たちにとっては、今までで一番長い春休みだった。
そして何の変化もなく時は流れ、高校の入学式の日。
校長先生の話はとても長い。途中からほとんど聞いていなかった俺は
ふと元カノのことを思い出した。
あぁ…楽しかったなぁと。この時は軽い感じだった
無事入学式を終え家に帰り、俺は真っ先に元カノに電話をかけた
内容は深く覚えていないが、彼女の声が冷たかったことと
新しい彼氏が出来たということだけ覚えている。
「まぁ幸せそうで良かったー」と心で呟いた
この辺だ。俺の心が痛くなってきたのは
痛みの原因は、罪悪感だと思っていた。酷いことを言ってきた自分への
罪悪感。
じゃあそれをぬぐい去る為にと、俺は後日もう一度電話をかけて謝った
「ごめん。許して。なんでもするから」と繰り返す俺に彼女は
「もういいよ。なにもせんといて」と一言言った
電話は切られない。
俺は言うことが無くなったが、電話は切らなかった
どっちからなんて言って切ったのか覚えていない
今も発信履歴に残っているその通話時間は、1時間5分。
短かった。
謝っても、心の痛みは全く消えなかった。
それどころか、深くハッキリした痛みに変わっていく
罪悪感じゃなかったんだ。喪失感だった。
彼女は知らないうちに俺の大事な一部になっていた
そんな彼女を失って俺は…遅すぎた。気づけなかった。
恋人って関係じゃなくなって3ヶ月、好きな気持ちに気づいた
自分でも信じられないくらい 遅い。
そしてあいつには彼氏がいる。
彼女「ウチが死んだらどうする?」 俺「わからんー」
彼女「ウチのこと好き?」 俺「んー…」
彼女「あいらぶゆー」 俺「うん~」
頭の中で過去の言葉が飛び交う
俺「もう電話すんなって」「お前姿勢悪い」
「重い」「近づきすぎ」「1週間1回まで。電話」
「メールしすぎ」「一人で帰って」「迎えに行くのだるい」
俺は死んだ。
嘘。正確には生きているのかわからない程に時間が止まった
俺の時計の針が再び動くのは
もう少し先の話だ。