表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
MY SWEET DARLIN'  作者: 来生尚
孤独の生まれたところ
13/85

 ずっと夢を見てた。


 いつか水竜の神殿からお迎えがきて、水竜の巫女になるって。

 偶然王子様に出会って、恋に落ちるって。


 吟遊詩人の話を目を輝かせて聞いていた子供の頃、そんな夢を見ていた。

 小さくて薄汚れた、パンの焼ける匂いが充満する家。

 決して家が嫌いだったわけじゃないけれど、もっと広くてきれいなところに住んで、フカフカのベッドで寝てみたかった。

 キレイなドレスが着たかった。

 見目麗しい王子様と、誰もがうらやむような恋に落ちて、村を出る。

 それか水竜の神殿からお迎えが来て村を出る。

 そんな空想にドキドキして眠れない夜を過ごしたこともあった。

 もしかしたら、とにかく村を出たいと思っていたのかもしれない。


 けれど、そんなことはありえなくて、一生村の中で暮らすんだという現実を知る事は、比較的早い時期に訪れた。

 誰かが教えてくれたわけじゃないけれど、そんなことはありえないんだって、悟ったというか気が付いたというか。

 現実は子供心から夢を奪い、諦めを植えつけた。


 私はきっと村の誰かか、近くの村の誰かと結婚して、ずっとパンを焼き続けるんだろう。

 親友のカラはお父さんの農園を継いで、ずっとブドウを作り続けるんだろう。

 そんな風になんとなく自分たちの未来が見えてきて、現実は夢のように甘くないことを教えてくれた。





 夢だった、はずだった。

 本当に私のところに水竜の神殿からお迎えがくるなて、そのときは本当に信じられなかった。

 だって、私は特別な何かを持っていない。

 ただのパン屋の娘なんだから。

 おとぎ話のような奇跡が訪れるなんて無いと思っていた。

 だから、信じられなかった。

 けれど心の中では浮かれていた。

 その浮かれた気持ちは、より厳しい現実によって打ち砕かれたけれど。


 一度目は水竜の神殿に巫女としてきた時。


 当時の巫女様で今の神官長様に始めてお会いした時、私はただの田舎娘で、とても巫女にはふさわしくないと思った。

 巫女になるなんて不可能だと。

 それでも何とか巫女をやってきたけれど、それさえも否定された。


 二度目は数ヶ月前。


 私は私なりに精一杯やってきたつもりだった。

 ちゃんと水竜の言葉をご神託として伝えているのだから。

 なのに神官長様も祭宮カイ=ウィズラール殿下も、私の言葉を信じてくれなかった。




 結局、私はニセモノの巫女だと思われているんだ。

 だからどんなに頑張って巫女らしく振舞っても、形だけ巫女として扱われているだけ。

 本当に巫女として必要としてくれるのは、水竜、その人しかいない。

 だから、私はレツしか信じない。

 レツにしか心を開かない。

 私はもう、他の人に認めてもらおうとは思わない。

 奥殿でレツといる時以外は、そつなく巫女をこなせばいい。

 だって、どんなに頑張っても結果は同じなのだから。



 誰も、私の心には踏み込ませたりはしない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ