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ずっと夢を見てた。
いつか水竜の神殿からお迎えがきて、水竜の巫女になるって。
偶然王子様に出会って、恋に落ちるって。
吟遊詩人の話を目を輝かせて聞いていた子供の頃、そんな夢を見ていた。
小さくて薄汚れた、パンの焼ける匂いが充満する家。
決して家が嫌いだったわけじゃないけれど、もっと広くてきれいなところに住んで、フカフカのベッドで寝てみたかった。
キレイなドレスが着たかった。
見目麗しい王子様と、誰もがうらやむような恋に落ちて、村を出る。
それか水竜の神殿からお迎えが来て村を出る。
そんな空想にドキドキして眠れない夜を過ごしたこともあった。
もしかしたら、とにかく村を出たいと思っていたのかもしれない。
けれど、そんなことはありえなくて、一生村の中で暮らすんだという現実を知る事は、比較的早い時期に訪れた。
誰かが教えてくれたわけじゃないけれど、そんなことはありえないんだって、悟ったというか気が付いたというか。
現実は子供心から夢を奪い、諦めを植えつけた。
私はきっと村の誰かか、近くの村の誰かと結婚して、ずっとパンを焼き続けるんだろう。
親友のカラはお父さんの農園を継いで、ずっとブドウを作り続けるんだろう。
そんな風になんとなく自分たちの未来が見えてきて、現実は夢のように甘くないことを教えてくれた。
夢だった、はずだった。
本当に私のところに水竜の神殿からお迎えがくるなて、そのときは本当に信じられなかった。
だって、私は特別な何かを持っていない。
ただのパン屋の娘なんだから。
おとぎ話のような奇跡が訪れるなんて無いと思っていた。
だから、信じられなかった。
けれど心の中では浮かれていた。
その浮かれた気持ちは、より厳しい現実によって打ち砕かれたけれど。
一度目は水竜の神殿に巫女としてきた時。
当時の巫女様で今の神官長様に始めてお会いした時、私はただの田舎娘で、とても巫女にはふさわしくないと思った。
巫女になるなんて不可能だと。
それでも何とか巫女をやってきたけれど、それさえも否定された。
二度目は数ヶ月前。
私は私なりに精一杯やってきたつもりだった。
ちゃんと水竜の言葉をご神託として伝えているのだから。
なのに神官長様も祭宮カイ=ウィズラール殿下も、私の言葉を信じてくれなかった。
結局、私はニセモノの巫女だと思われているんだ。
だからどんなに頑張って巫女らしく振舞っても、形だけ巫女として扱われているだけ。
本当に巫女として必要としてくれるのは、水竜、その人しかいない。
だから、私はレツしか信じない。
レツにしか心を開かない。
私はもう、他の人に認めてもらおうとは思わない。
奥殿でレツといる時以外は、そつなく巫女をこなせばいい。
だって、どんなに頑張っても結果は同じなのだから。
誰も、私の心には踏み込ませたりはしない。




