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魔導探偵Knox's  作者: ローズ=クロウリー
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3.集う人たち

ノックスの十戒


第五条

1.犯人は物語の当初に登場していなければならない


2011年12月10日 21:00 沢目留衣



明かりのついた家は多い、しかしそれだけ夜の影は深くなる。

不気味に切れかけている街灯、それに寄る蟲の羽音…誰かの気配…。

それだけで夜の街は不気味な程に静かだ。

そんな中で女子を一人待たせている馬鹿野郎は事もあろうに10分の遅刻である。


「ごめんごめんサワメっち、9時丁度と思ってたぜっっぼ」


 馬鹿の喉元に手刀を入れる。


「だから喉はやめろって!!」


「真夜中に女児を待たせるなんてそれでも男か!!」


「悪かったって!!」


 時間を忘れ久禮と言い争っていると、すぐ横から挟みこむように手が入り喧嘩を仲裁してきた。

 その手の主は、何故か英語のローズ先生。


「真夜中に近所迷惑とは思わんのかね君ら?」


「あっ…その、すいません先生…って、何で先生が?」


「はぁ…久禮にも言われたが、私も時等氏とは旧知の仲でね…可愛い男女の教え子が二人もその屋敷に夜遊びしに行くと言うではないか。教師としてこれは観察…もとい監視しに如何とならないだろう?」


 わざとらしく言い間違えたような言い回しをするローズ先生…久禮は馬鹿だから気付かなかったようだが、私は過ぎにその意味に気付いてそれを否定した。


「な、そんな事コイツに限って…!あり得ませんから!!」


「人を指さすなよー」


「解りやすいなぁ君は…私も着いていくと言っているんだ。昼にだって今日は何か起きそうだからやめておけと言っておいたのに」


 眉間を抑えやれやれと首を振るローズ先生…しかし忠告とは何のことだろうか?


「だってよぉもうサワメっち誘っちまった後だったし、そんな訳わかんないけど不吉だ―って所にサワメっち一人だけってのもなぁ」


「…携帯持ってないのか君は」


 ローズ先生が呆れたように言うが、それに対しては私が手を上げて返した。


「いや、私が…」


「…あぁ、そういえば沢目は今時のぎゃるには珍しい事情があったんだったかね」


「いやギャルは古いんじゃあ…ぐはっ」


 ローズ先生のヒールが久禮の脚に突っ込んだ。


「…まぁ、それはそうですけど」


 私の家は道場を営む古い格式ばった家系である。

それに家族揃ってテレビのリモコンも使えないような機械音痴である為、基本的に文明の利器を避けている現代には珍しい家庭だった。

古い置き電話ならあるが、そんな私の家で携帯電話なんてハイカラな物を買って貰える訳もない。

それでもそんな厳格な家庭でこんな夜中に外出する事を許してくれたこと自体が意外だったが…


――いいじゃない留衣、とっとと笠作ちゃんと一夜の思い出作ってきな!お父さんには私から言っとくから、頑張りなよ!――


「……」


 ふと出掛ける事を伝えた母の言葉を思い出した。


「ん?どうしたサワメっち?」


「ふんっ!」


「ふぅぉ!今のは反則だろ…っ!」


 見事な正拳突きを久禮の鳩尾に入れ、そのまま先に進む。

 ローズ先生が呆れたような表情をして屋敷へ向かったのでそれについていく。


「よく解らないがうちに電話すればいいだろう!」


一人取り残された久禮は混乱しながら呟いた。


「今の、いくらなんでも理不尽じゃねぇか…?」


 …この朴念仁。





2011年12月10日 21:20 久禮笠作

 


 その屋敷は、特殊な見方をすれば見事な3階建ての洋館だった。

しかしその洋館の最も奇妙な所は、総てが逆さまだという所だろう。

 逆さま―というのは言葉通りの意味で、屋根と地面が、窓の向きも、ドアの位置まで

まるで巨人が現れて屋敷を逆さまにして片づけもせず去っていったかのような見事な真っ逆さまにその屋敷は建てられているのである。

そしてその上――屋敷という形で言えば地下に位置する場所には円柱形をした石造りの塔が建っており、そこが天文台になっている

それが近所でも有名な変人屋敷、時等邸…通称『逆さま屋敷』の全貌である。

さて、此処で俺がこの皆既月食観賞会に招かれた人々の紹介を行うとしよう。


「がっはっは!見れば見る程へんな屋敷だよなぁここ!」


 夜中の近所迷惑も顧みず、豪快に笑いながら仁王立ちで屋敷を見上げる大男。

彼は《御堂大治(みどうだいじ)》、この屋敷の建設に直接携わった大工グループの頭領だ。

この屋敷の主人とはよく仕事を共にするらしく、主人が設計し御堂氏が建てるという

係だそうだ。

この観察会を期に逆さま屋敷の出来を見に来たようだ、我が子可愛いとは言うが自ら手

掛けた家に顔を出す大工というのもまた珍しい…まぁ此処まで変わった屋敷を建てる事もこの人にとってはかなり珍しい経験だったに違いない。


「そうですね…このたたずまいでバランスが崩れないよう、彼は中世後期の建築技術を詳細に調査し、緻密に設計を繰り返したそうですし…まさしく彼の建築思想の集大成と言っても過言ではないでしょう。いや流石…」


 御堂に対して、流暢な日本語で冷静にこの奇天烈な屋敷の評価を並べる男が居る。

彼は《アレックスオードリー》、この屋敷の持ち主の古い友人で、海外の大手出版社に

勤める雑誌のルポライターだそうだ。

 といっても彼本人としては友人と言うよりも、屋敷の主人は憧れと言っていい存在だそうだ。

 彼が雑誌のルポライターを目指したのも、この館の主人の数多く手掛けた建築を雑誌で見て影響されたからなのだそうだ。


「そうですね…彼は何よりも自分の建築を愛していますから…」


 どこか切なそうな瞳で屋敷を見上げる紫色の和服に身を包んだ女性が居る。

彼女は《南雲(なぐも)奈美(なみ)》、この街の地主の娘で屋敷の持ち主の婚約者らしい。

しかしこの館の主人は仕事で海外にいく事が多く、土地に縛られた自分には彼の妻は務

まらないからと断ったそうだ。

 …あれ、この人幾つだ?

そして俺と沢目、そしてローズ先生を含めた6人が招待された全員だ。

そして…


「よくいらっしゃいました皆さん、私の屋敷へようこそ。」


 若い男の声に、その場の皆が屋敷の玄関――逆さま屋敷の屋根裏に位置する窓を見た。

黒いタキシードに身を包んだ、時代錯誤な印象を持つ細身の中年男性。

 彼こそがこの屋敷で行われる皆既月食観察会の主催者であり、この屋敷の所有者にして設計者の《(とき)(とう)(さかさ)》である。


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