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魔導探偵Knox's  作者: ローズ=クロウリー
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2.ローズメイザースという教師

ノックスの十戒


第五条

中国人を登場させてはならない(この場合の「中国人」とはフー・マンチューなどに代表される「超常現象を駆使する人物」を指す)

2011年12月10日 18:30 久禮笠作



放課後、冬で陽が落ちる時間が早い為かもう運動部の部員も殆ど帰ってしまっているようなこの時間、帰宅部の俺はそれ以上の苦行を強いられていた。

聡明な読者さま方から見ても解るように、俺は頭が悪い。

特に英語の成績なんて毎度目をつぶるような悲惨な有様だ。

しかし、しかしだからといってこんな横暴が許されるものだろうか?

多くの信者から美人英語教師と信望される、ローズ=メイザース先生は事あるごとに人を馬車馬のように働かせる。


「はーい今日も馬車馬のように働きたまえ、馬鹿」


「俺は馬鹿という新種の家畜か!」


俺はと言うと、現在非常に思いプリントの束を二ノ宮金次郎の銅像よろしく背負い両手にも交配用の教科書を大量に抱えて、校舎の3階にある準備室と一階にある先生の自室を往復している。

更には背負ったプリントの上には何故かこんな苦行を俺に強いる先生が座りこんでいる。

唯一の救いは先生の体重が、俺が普段女性に対して全く心掛けていないとサワメっちや姫瑠に言われる『煽て』や『謙遜』など当然抜きで軽い事であろうか…


「ふむ、それはどうも…軽いならもう数枚追加しても構わんかね?」


「無理!!鬼畜!!悪魔!!」


 正直に言って、きついなんてものじゃない。

 よく運動部の助っ人に呼び出され、周囲から燃えるような体育馬鹿と呼ばれる俺だが幾らなんでもこれは酷すぎる仕打ちではないだろうか。


「お前の成績の悪さを職員会議モノすれすれの手法で何とかして落第を回避してやっている天使のような私に対して言う事がそれかね?では鬼畜悪魔に相応しく、ここで揺らしてやろうか、更に君への援助もうち切ってもよろしいかね?」


「ごめんなさいごめんなさい!!ていうか勝手に思考を読まないでください先生!!」


 そう、この教師は教師にあってはならないくらいのドSなのである。

 こうして普段から生徒を苛める事を楽しむ為に教師になったと言う噂さえ立つ程だ。

 そしてそんな所も良いとMの字のつく野郎どもによるファンクラブが存在しているのもこの外道教師の恐ろしい所である。


「ところで、奴隷どもから聞いたのだが…久禮、お前皆既月食を見に行くつもりらしいな?」


「さらりと奴隷どもと生徒を呼び捨てるのかよ!…まぁ、そのつもりというかそう言う予定だけど…それがどうかしたのかよ?」


教師として色々な物が欠落しているとは思わないのか…

そんな至極当然なツッコミを、これまた当然のように無視して話を続けるように先生は言った。

はっきりと。きっかり一言で。


「やめておけ。」


一瞬、あまりにきっぱりと言い放たれた為思考が止まった。

余りにもはっきりとした思考や主義、あるいは確信によって放たれた言葉は力を持つんだと思う。

言霊とでも言うのか…先生の言ったその『忠告』はそう言ったある種の凄みを感じさせるものだった。


「やめておけって…何でだよ?」


「…月に関わる伝説に、狼男や吸血鬼と言った恐ろしいモノが多くあるか知っているか?」

俺が問いかけると、逆に先生は問い返してきた。

先生は偶にそう言う時がある、昔は校長と共に民俗学を研究していた事があるらしく、先生はそう言う事に少なからず詳しいのだ。


「そりゃあ…夜だからか?」


「だいたい正解だな…夜と言うのはな、睡眠をはじめとしたバイオリズムの調節に深く関わる時間帯でもある。夜の所用の為といってどんなに昼に寝ても夜に眠くなる事はあるだろう、それも無意識のうちに夜は寝るものだと体が覚えているからだ。特に夜の明るさは、昔は月に左右されていた。その分夜の明るさの強度を左右する月齢は人類が光を手にした今でも遺伝子の奥底から精神に恐怖や畏れを喚起する。」


 ・・・よくわからなかった。


「つ、つまり月は大事ってことか。神様みたいな?」


「…はぁ、まぁそこが解っただけでも及第点かね?」


 ふと思い出した…今日観察に行くのは…


「皆既月食…」


「そう言う事だ、しかも観察に行くのは《あの屋敷》ときたものだ。夜の明かりが新月の次に無くなり、光が異質化する通常じゃない状態…それが皆既月食だ。それにあの通常じゃない屋敷…何か起こらない方がおかしいというものだとは思わないかね?」


いや確かにあそこは普通じゃないけど、あれだって家主さんの思惑とか美的感覚とかで作られた訳でいくらなんでもそういう言い方は…あれ?


「というか先生、何で知ってんの?俺が《逆さま屋敷》に呼ばれたって」


 そう尋ねると、先生は後ろ手にピッと手紙を出して行った。


「私も呼ばれたんだよ友人に、君の父君と同じようにね」




2011年12月10日 22:01 ローズ=メイザース




主観と言う物は常に非常にあいまいだ。

少しかき乱すだけでいともたやすく混乱を誘いもすれば、新たな真実を容易く見つける鍵にもなる。

私たちの日常は常にいつ崩れるかも解らない常識の上に成り立っている。


「さりとてこんな理不尽、あっていいとは思えない」


 天と地が逆さまになろうが、常識と不条理が綯い交ぜになろうが、それでもこの世には不文律と言う物が存在する。

 入れ替わる事があろうが絶対にひっくり返る事が無い物、例えばそう・・・罪だ。

 正義の対局はまた逆さまの正義であると誰かが言った、ならば罪の対極は何か…そんなもの存在しない。

 犯した罪はどう考えようがどう逆転しようがどう捻じ曲げようが罪にしかならない、それが唯一絶対の不文律だ。


「ミステリーに異邦人の登場を禁じる法則に、私は喜んで一石を投じよう」


 天と地が再び逆転する、その瞬間に私はこの法則に自らの意思を割り込ませる。

死から生へは逆転しない、それは人間の不文律。

 さりとて逆転する条理は前提を書き換える、不文律を犯すな、孔を見つけろ、結果を書き変えて前提を割り込ませろ。

 不文律の隙間を縫う存在へと、彼らのの存在を反転させる。

 完全に変わりきらないように、タイミングを読んで対象を二人に指定。

 不文律の罪悪感を振りはらい、常識外の存在へと私の生徒を変換する。


「はは、まるで 悪魔 の所業だ」



2011年12月11日 07:00 捜査報告


逆さま屋敷連続心臓麻痺事件


12月10日 21:45 時等逆 自殺?


12月10日 22:15 久禮笠作 心臓麻痺


12月10日 22:45 沢目留衣 心臓麻痺


12月10日 23:15 御堂寛治 心臓麻痺


12月10日 23:45 アレックスオードリー 心臓麻痺


12月10日 24:15 ローズメイザース 心臓麻痺


12月10日 24:45 南雲奈美 心臓麻痺


2011年12月11日 01:00 【事件解決】


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