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第五十五話 ひとだま君、大暴走

 サリルトは、表情を変えずに内心、面喰っていた。

 自分にもたれて安眠を貪っていた婚約者が突然目覚めた、と思ったら熱烈に口づけをしてきたのだ。しかも、その婚約者は散々「変態」や「結婚反対」と、自分を拒否してきた相手なのだから、この反応も当然のものだろう。

 斎鹿は、サリルトの唇から己の唇を離すと、ゆっくりと舌舐めずりした。その目は潤み、唇はぷっくりと色づき、サリルトは思わずごくりと唾を飲み込んだ。


「 サー様、斎鹿、サー様が大好きですぅ」


「 ………」


「 サー様と結婚するのが待ち遠しいぃ」


「 ………」


「 サー様も斎鹿と一緒の気持ちぃ?」


 斎鹿は、サリルトを見上げると首を傾げて尋ねた。その態度に、サリルトは眉間に皺を寄せ、斎鹿の額に大きな手を当てた。


「 熱はないようだが」


 サリルトの態度が不満だったのか、斎鹿は頬を膨らませ、サリルトと向かい合うように座り直すと、その胸をぽかぽかという音が似合うような叩き方で叩いた。


「 サー様、斎鹿は真剣に言ってるんですぅ」


 サリルトが口を再び開こうとすると、斎鹿はそれを制するようにサリルトの首に手を回し、深く口づけた。普段は表情を変えないサリルトも、舌を絡められ、口内を貪るように口づける斎鹿に目を見開いた。しかし、それも一瞬のことで他人には気付かれないほどだ。

 サリルトは斎鹿の背に手を回し、経験の差か、斎鹿の口内の敏感な部分を捜していく。立場は逆転し、斎鹿は口づけが終わるころには、息を乱しながらサリルトの胸にもたれかかった。


「 サー様とキスするの好きぃ。もっとしてぇ?」


 斎鹿は顔を上げると、潤んだ瞳でサリルトを見上げた。その瞳を見たサリルトは身体の中で何か黒いものが蠢くのを感じると、斎鹿の唇に引き寄せられるように吸い付いていた。サリルトの右手は斎鹿の服の中でなめらかな素肌を撫でる。


「 あっ」


 小さく声を上げた斎鹿に、サリルトは1度唇を離すと、下は顎を滑り落ち、首に吸い付いた。首には赤い印がつき、斎鹿も負けじとサリルトの白い首に吸い付く。


「 むぅ‼︎ つかない」


 吸い付いていた唇を離して、サリルトの首をまじまじと見詰めるが、上手く赤い印はついていない。それに機嫌を損ねた斎鹿は、サリルトの首に再び顔を埋め、吸いついた。サリルトは斎鹿の様子にわずかに口元を緩めると、後頭部に左手をやり、斎鹿を揺れる馬車で安定感を保てるように支えた。


「 もっときつく吸えばつく」


 サリルトの言葉に斎鹿は吸う力を強め、サリルトの首にチクリとした痛みが走る。わずかに息を漏らしたサリルトに、斎鹿は唇を首から離した。


「 サー様、これでサー様は斎鹿のって印が出来ましたぁ」


 嬉しそうに笑う斎鹿にサリルトは素肌を撫でていた手を止め、その顔に頭に添えていた手を滑り落とし、頬に当てると尋ねた。


「 このように口づけをすることも、以前は嫌がっていただろう?」


「 …素直になれなかったのぉ。 サー様のこと、大好きだったのに、つい思ってることと違うことを言っちゃうの…。 ほんとはぁ、サー様のこと大好きなのにぃ」

 

「 ……っ」


「 サー様、嫌いになったの? 嫌いばっかり言う斎鹿のこと、嫌いになったぁ?」


 斎鹿は涙を浮かべ、焦ったようにサリルトにすがりついた。そんな斎鹿の見たことのない弱気な姿にサリルトは言い得ない感情が溢れ出すのを感じ、斎鹿の唇を舐めた。斎鹿はその行動にぽかんとサリルトを見上げる。


「 嫌いになるかもしれないな」


「 いやいや! そんなのダメだもん…」


「 だが、おまえが10回私のことを愛していると正確に言えれば考えてやる」


「…10回?」


「 そうだ。 言えるか?」


「 言えるもん」


 斎鹿は必死な様子で「サー様、愛してる」と言い始めた。しかし、順調なのも最初の3回までで、サリルトが服の中に忍ばせていた右手を動かし、斎鹿の唇に口づけを落とした。


「 サーさま、うんっ、あ、あいし、てるっ」


「 やり直しだな」


「 ふぇ⁉︎ さーさまぁ、あいし、てるぅ」


「 あと6回」


 サリルトは、斎鹿の様子を気にすることもなく、口づけをさらに深めたのだった。斎鹿はサリルトに嫌われまいと必死に言葉を紡ごうとするが、なかなか上手く言えず、目に涙がたまっていく。それでも言葉を紡ごうとする斎鹿に、サリルトは妖しい笑みを浮かべた。

 サリルトは知らない。

 その官能的で素直な斎鹿が、実は仮の精神体・ひとだま君であることを。




ありがとうございました。


2014/11/03 編集致しました。

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