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第五十四話 なんなのこれ?

 サリィは白い柔らかな毛が生えた腹を上に向け、伸びをするように手足を伸ばすと大欠伸をした。球体に映しだされただらしない姿に斎鹿は、これが本当に精霊なのかとヘンリー卿に疑いの目を向けた。ヘンリー卿は斎鹿の視線にビクッと身体を震わせると、黄緑のクッションの上で丸くなり寝る体勢に入ったサリィが映る球体に添えていた手を混ぜるように動かした。すると、映っていたサリィは再び白いモヤに変わった。ヘンリー卿が球体を挟んで両手を合わせ、その両手を広げるように離すと球体はその形を小さな斎鹿の刀に変えた。その刀の柄をヘンリー卿が掴み鞘から抜くとその刃を見定めるように眺めた。


「 こりゃ…かなりの大物だな」


「 え?」


「 あぁ…思ってた通り上位精霊だったはいいが、刀を見る限り力が大きすぎる。この刀いつから持ってんだ?」


 ヘンリー卿は先程までとは違う真剣な面持ちで斎鹿へと問い掛けた。斎鹿はその問いに左斜め上に視線を向けてしばらく考え、思い立ったように左手を受け皿に右手を拳にして打ちつけてあっけからんと答えた。


「その刀は元々私のじゃなくて…あ、でも盗んだんじゃないよ? 私、違う世界から来たから」


「…なにそれ」


「 その刀は元々私のじゃなくて、元の世界の神社に奉納されてて」


「 うぉぉっ‼︎」


 ヘンリー卿は信じられないと眼を見開いて斎鹿を見ると大声を上げると立ち上がり、持っていた柄を離した。刀はヘンリー卿が手を離しても下に落ちることもなく空中にふわふわと浮いている。


「 異世界からやってきたなんて大事なこと、なんで最初に言わねーんだよ。 大事‼︎ それ凄く大事‼︎ ってか、異世界人がこの世界に来たことに気付かない創造主、ってか俺ってダメ野郎⁉︎」


 ヘンリー卿は両膝が汚れることも気にせずに崩れ落ちるように膝をつくと、頭を抱えて身体を激しく動かした。斎鹿はその様子に呆れたような視線を向けると頭を抱えているヘンリー卿の小さな背中を人差し指で出来るだけ優しく撫でた。


「 ごめんごめん。でも、いきなり『異世界人です』って言っちゃったら、どっかおかしい人みたいでしょ?」


「 っ、だからってなぁ…俺様って何やってんだ‼︎」


「 もー、わかったから話を進めてくれない?」


 斎鹿が撫でていた背中をぐっと押すとヘンリー卿の身体が地面へと沈んだ。ぐえっと蛙のような声を出したヘンリー卿が素早く起き上がると顔には茶色い土と花の花粉がついていた。その表情は先程までの沈んでいた顔とは違い眉間に皺を寄せて怒りにふるえている。


「 何すんだ⁉︎ 俺様の素敵な顔に土がついちまったじゃねぇか⁉︎」


「 私、こんなところでゆっくりしてられないの! もぅ起きないと奴になんかされてそうだし」


「 だから、夢じゃねぇって‼︎ 精神体、つまり魂だけでこっちに来てっから、身体はそのままそこにあるんだよ。 まぁ、俺様は仕事が早いから、てめぇの代わりに仮の精神体をてめぇの身体に入れといたから、時間は気にしなくていいぜ」


 親指で自分を指して斎鹿に『俺様は偉いんだぞ』と威張るように斎鹿を見るが、斎鹿は勝手に変な物を自分の身体に入れられたと聞いて冷静でいられるはずもなくヘンリー卿の首根っこを掴んで睨みつけた。


「 なに変な物を人さまの身体に入れてるのよ!」


「 変な物じゃねぇ。 仮の精神体は持ち主の状況に合わせて周囲に気付かれないよう完璧にてめぇを演じてるはずだ」


「 …もぅわかったから。 とりあえず精霊の話から順番に話して」


 斎鹿はヘンリー卿の強気の態度にいちいち反応していては埒があかないとため息を吐き自分が折れることにした。ヘンリー卿はその態度にますます苛立ったようで口を尖らせて斎鹿に掴まれたまま話し始めた。


「 まず異世界から来たって言っただろ? それは上位精霊が連れてきたと考えた方がいいだろうな…。 黒い影ってのは、多分その刀が元々持っていた力が溢れだして、人間の感情や自然界の変化に長い時間触れていたことによって、本来清浄であるものが異質な物に変わってしまったんだろうよ。 で、てめぇは襲われたと思ってんだろうが、刀の持ち主のお前に危害をくわえようって訳じゃなく引き寄せられてんだろう。 精霊は自分の主のもとにいるのが喜びの1つだからな。 ったく、いくら上位精霊で俺様の許可なく契約できるからって異世界人を勝手に連れてくんなってーの」


「 …契約を勝手に結ばれてるとどうなるの?」


「 あぁ……一般的には契約を結ぶと精霊の力が使える。だが、てめぇの場合は何でか精霊の方が隠し事してるみてぇだし、わかんねぇなぁ…。 でも、精霊と人間の契約してる以上は得はあっても損はないから害はない」


「 得?」


「 まぁ、それはおいおい。 で、てめぇが精霊界にきた理由だがな、俺様なりに考えたんだが…てめぇは元々この世界の人間じゃねぇ。いくらこっちの世界がてめぇの世界と同じなように見えても、精霊と関わってるこの世界じゃ魂の質が重要になってくる。 魂のつくりがこっちとは違う世界の出身じゃ契約しても負担がかかるかもしれねぇからな。 こっちで綺麗にしてしまおうってことじゃねぇか? きちんクリーニングしたみてぇだし」


「 クリーニング?」


「 簡単にいえば魂の掃除だ。 魂は生きている間に外気によって周りが汚れてしまう。この世界ではそれが付く前にしか精霊は契約しねぇ。 契約した後は、精霊が魂に汚れがつかないようにしてくれんだが…てめぇの場合は異世界人で、ある程度育ってっからな。 ま、こっちに放り込んで、強制的に魂だけの姿にしてクリーニングしたんだろうよ」


「 汚れが付いたから綺麗にって…洗濯物か‼︎」


 斎鹿は掴んだままのヘンリー卿を空中へと放り出した。突然放り出されたヘンリー卿はバランスを取ろうと手足をバタバタと動かしたがそのまま花の中へと落ちていった。


「 いてぇ‼︎」


 花と花の間から顔を出したヘンリー卿は後頭部を手で撫でながら斎鹿を睨みつけた。斎鹿はそんなヘンリー卿の睨みにも負けずに睨みかえす。


「…ぐっ」


 ヘンリー卿は苦々しそうな顔をして顔を背けた。勝ち誇った顔の斎鹿が鼻で笑うと腕組みをした。


「 …はぁ、まずはわかった。 次は仮のなんちゃらの話ね」


「 仮のなんちゃらじゃねぇ! 仮の精神体・ひとだま君だ‼︎」


 ヘンリー卿は花の間から勢いよく飛び出すと空中で胡坐をかいて不機嫌そうに斎鹿を見ると咳払いをして仮の精神体・ひとだま君について話し始めた。


「 ひとだま君は、人間界と精霊界で人間が都合よく動けるようにつくった俺様の最高傑作だ。 人間が精霊界に来ると、人間界に置かれた器、つまり身体の方は仮死状態になる。 その状態が長く続くと離れていた魂が器に戻れず、彷徨うことになる。 それを防ぐために器に仮の精神体・ひとだま君を入れる。 そうすると身体は仮死状態ではなく正常に活動し、問題なく本来の魂が元の器に戻れるって訳だ。 このひとだま君の凄いところは『入った器の状況に合わせて振る舞う』ってとこだな。ま、説明じゃわかりにくいし実際に見てみっか」


 ヘンリー卿は子どものように嬉しそうに身振り手振りで説明すると、先程と同じように目を閉じて少しずつ組んだ手の中に光が集まり手をゆっくりと離していった。すると、その両手の間には小さな球体がふわふわと先程見た球体が宙に浮き、球体の中のモヤはぐるぐると回りはじめ斎鹿の姿が映し出されていく。


「 えっ⁉︎」


 斎鹿は映し出された映像を見て思わず噴き出した。

 なんせ自分がサリルトと熱烈なキスをしていたのだから。


「 …なんなのこれ⁉︎」




ありがとうございました。


2014/11/03 編集致しました。

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