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第五十三話 私の守護精霊

 ヘンリー卿は、斎鹿に頭を下げて詫びると咳払いをして空に新しく文字を書き始めた。斎鹿は首をゆっくりと回すし、何故自分はこんなに面倒な相手にばかり遭遇するのかと思わず舌打ちをした。それを聞いたヘンリー卿はビクッと身体を震わせた。

 その様子にさすがに憐れになったのか斎鹿は出来るだけ優しく声で尋ねた。可愛い女の子の定番である小首を傾げて右手の人差指を唇につけるというおまけ付きだ。


「 ねぇ、少し聞きたいんだけど、どうして私はここにいるの?」


 ヘンリー卿は斎鹿の態度の変わりように身体をビクつかせたが、斎鹿の下手での質問にまんざらでもないようにふんぞり返って答えた。


「 そ、そうまで言うなら、この偉大な俺様が分かり易く教えてやる。 人間がここに来る理由は1,俺様に呼ばれた選ばれた人間、2,精霊に呼ばれた人間、3,迷い込んだ人間、この3つだが…3だとおまえはもう生きてないしな。だから1か2じゃないか?」


「 …え」


「 ここの空気は人間が生きられる純粋な空気じゃねぇんだよ。 色んな要素が溶け込んでて、簡単に言えば、人間の身体には毒なんだよ。 1分もいれば肺が溶けて腐って…」


「 怖っ‼︎」


「 だから、1か2だって言ってっけど…俺様の客じゃねぇから多分2?」


「 多分?」


「 上位精霊の契約は俺様はノータッチだからわかんねぇよ。 お前、精霊と契約してんの?」


 斎鹿はヘンリー卿の言葉に眉間に皺を寄せて考えた始めた。頭はフル回転しているのだろうがなかなか答えは出てこない。


「 契約してねぇのかしてるかぐらいわかんねぇのかよ」


 考え込んだ斎鹿にヘンリー卿は馬鹿にするように言った。それを聞いた斎鹿が黙っているはずもなく、立ち上がった斎鹿の手に捕らわれたヘンリー卿は重力を関係なく振られ続ける。


「 おばばばばばぁ⁉︎」


「 あっ‼︎ ルーが言うには勝手に契約されたんじゃないかって言ってたけど…」


「 ぐおぉぉぉ‼︎」


「 あれって本当だったんだ…」


「 やーめーろー‼︎」


 ヘンリー卿は目を回しながらも必死に叫んだ。その訴えに手を止めた斎鹿は、ゆっくりと自分が腰かけていたクッションの上にそっと置いた。目を回したままのヘンリー卿はクッションに身を預けて空を仰いでいる。今回は吐かずに済みそうだ。


「 はぁはぁはぁ」


斎鹿はさすがに悪いと思ったのか側で正座して手で静かに風をおくっている。しばらくしてヘンリー卿が落ち着くと斎鹿は先程と同じ言葉を伝えた。


「 …怪しいな。 手っ取り早く媒介を見た方が答えがでるだろ。 出せ」


 ヘンリー卿はクッションの上に胡坐をかくと空いている方の手を斎鹿へと差し出した。


「 媒介?」


「 精霊を呼び出すための契約書みたいなもんだ。ペンダントとか盾とか剣とか、思い当たるもんねぇか?」


「 んー、あるけど…でも、今は持ってないよ?」


 斎鹿はヘンリー卿が横を向き小さく舌打ちしたことを見逃さなかった。


「 今、舌打ちしたよね」


「 ……してねぇよ。まぁ、こりゃ見た方が早ぇな」


 そういうとヘンリー卿は持っていたペンをその場に置き空いた両手を一度しっかりと組んだ。目を閉じて少しずつ組んだ手の中に光が集まり手をゆっくりと離していく。すると、その両手の間には小さな球体がふわふわと宙に浮いていた。その球体は外に発していた光を少しずつ球体内へと取り込んでいく。取り込まれた光はまるでモヤのように球体内で動き回り半透明な斎鹿の刀へと姿を変えていく。

 ヘンリー卿はゆっくりと目を開けて指先を少し動かすと球体の中の刀は色々な角度に動き回り出した。


「 上位精霊が関わってることは間違いなしだな」


「 わかるんだ…」


「 誰に聞いてんだ、誰に」


 ヘンリー卿はそう言うと両手を球体にそわせて大きく動かした。球体の中は再び形が変わりサリルトになっていた。それからも順番にシアン、マゼンタ、アーバイン、マリーナ、ロハス、総一郎、と変わった。


「 げぇ、こいつの知り合いかよ⁉︎」


「 あ、知ってるんだ」


「 まぁ、教皇はここと人間界を繋ぐ唯一の人間だからな」


 ヘンリー卿は大きくため息を吐くと苦笑いを浮かべた。そうしている間にも球体の中は斎鹿が出会った人や物が映し出される。その1つを目にした時、ヘンリー卿は興奮したように声を上げた。


「 おっ、こいつが上位精霊だなぁ。 上手く化けてやがる」


「 どれ?」


「 これ」


 斎鹿が球体を覗きこむとそこに映っていたのはサリィだった。


「 サリィ⁉︎」




ありがとうございました。


2014/11/03 編集致しました。

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