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第五十一話 妖精シェーク

両手をぐっと上へと伸ばし、大あくびをしながら斎鹿は気だるそうに眼を瞬かせた。顔には暖かな日差しがあたり風は緩やかに花の香りを運んでいる。何とも昼寝には相応しい場所だ。

 空から降り注ぐ日差しに再び瞼を閉じ、頭を横に向け僅かばかり眼を開けた。そこには、先程と変わらない色とりどりの花が咲き乱れ、花弁を風に飛ばしている。

 どうやら自分は余程疲れているらしい、と斎鹿は右手で眉間をぐりぐりと強く押した。確かにこの3日で起こったことは今までにいた世界で友人に話したならば信じてもらえない事だろう。異世界旅行しただけでなく、その世界の公爵と何故か結婚することになってしまったり、灰汁の強い姉や周囲の人々との出会いを語ったら即刻『大丈夫?』と言われること受け合いだ。

 斎鹿はまだ気だるい身体を起こし、首をゆっくりと回した。1周、2周と回すとゴリゴリという音が辺りの景色とは不釣り合いにも斎鹿の耳に聞こえた。


「…これって夢、でいいのよね?」


 斎鹿は両手をパチンと音をさせ胡坐をかいている両膝に置いた。どうやらこの世界では衣装も変わるらしく先程までのパーカー、ジーンズではなく、今の服装は白のキュロットパンツに丸首ロングカットソーに裸足と真っ白けだ。この状況に頭がついていかず思わず耳の後ろを掻いた斎鹿は、突然耳元に聞こえた羽音に逃げようと頭を動かしたが、蠅はしつこく耳元を五月蠅く騒がしている。


「 うるさい! 」


 斎鹿が自分の頬を蠅ごと叩き落そうとしたパチンと叩いた。感触からしてどうやら仕損じたようだ。

 斎鹿は怒りのままに立ち上がり、手当たり次第両手を振って蠅を退治しようとするが、耳元にはブーンという羽音が絶えることはない。


「 ぅぉ!」


 微かに斎鹿の耳に人の声が聞こえ、思わず振り回していた手を止めて辺りを見回すが人の居そうな気配はない。しかし、声は微かにだが変わらずに聞こえてくる。


「 ぅぉぃ!」


「 痛い‼︎」


 斎鹿がキョロキョロと見廻していると自分の額にチクリとした痛みが走った。手で額を押さえ、僅かに目線を上にやると体長3㎝程の背中に透き通るような空色の羽を持った妖精らしきものが浮いていた。いや、妖精にしては愛らしさの欠片もない。斎鹿がそう思うのも無理はなかった。

 妖精というのは、可愛らしい顔立ちで勝気な瞳、桜色の唇、金糸のような髪、出るとこ出て引っ込むところは引っ込んでいる細い肢体、飛ぶ姿は煌めいてまさしく伝説といえる姿。

 それが、どうだろう。目の前にいるのは青と白のチェックのベストに濃茶のズボンにウエスタンブーツ、手には柄の長いフォーク、背中には赤いマント、眼は青く鋭い。何よりその姿は白くて美しい毛艶のシルバーウルフ。


「 ようやく気付いたか! 俺様はかの有名な」


「 私ってセンスない…」


「 聞けよ‼︎」


 斎鹿が狼の妖精に背を向けてその場から立ち去ろうとすると、見かけが厳つい割には可愛い声で大声を上げ、その小さい身体を素早く移動させ斎鹿の前に躍り出して再び斎鹿の額をフォークでつついた。


「 夢のくせにご主人様に楯突くとは、いい度胸じゃない」


「 誰がご主人様だっ‼︎」


「 私の夢なんだから私がご主人様でしょ⁉︎」


「 ばっかじゃないんですかぁ? 頭、軽いんじゃないですかぁ?」


 狼の妖精は両手を肩の位置まで上げて掌を空へと向けると、ハンっと鼻で笑い斎鹿を馬鹿にした。斎鹿はその態度に狼のベストの首後ろを持って上、下、右、左、と乱暴に振り回した。


「 ごごごごごごごらぁ、あたたたたたたあたまがぁぁぁぁ」


「 ご主人様に向かって、その態度なに?」


「 すすすすすすすいままませせせせんん‼︎」


「 よし!」


 斎鹿は狼から手を離すと、仕返しとばかりにフンっと鼻で笑ってやった。狼はふらふらと不思議な動きを空中でしながら毛深い顔からは分からないが顔が青ざめ両手で口を覆っている。どうやら大層気分が悪いらしい。


「 て、てめぇ、ウエッ、俺様が誰か、ウプッ、わかってんのかぁ⁉︎」


「 知らない」


「 ウッ、ちょ、ちょっと待っとけっ」


 そういうと狼は頬を膨らませたままフラフラと離れたところに飛んでいくと、ゆっくりと降下し花の中に埋もれてしまった。どうやら我慢が出来なかったらしい。

 斎鹿は埋もれたところまで見終わると、そのまままた首を左右に振りながら歩き出した。狼の言葉は受け入れられなかったようだ。辺りを改めて見廻してもやはり花しかない。遠くの方には木が何本かあるのはみれたが他には何もない。


「 てめぇ、待っとけっていっただろうが‼︎」


「……何でついてくるのよ」


 耳元に五月蠅く羽音が響くと共に狼が現れ、斎鹿は思わずげんなりとした表情を浮かべた。

 狼はその顔を見てフフンっと笑うと腰に手をあてて偉そうに踏ん反り返った。


「 聞いて驚け!俺様はかの有名な」


「 誰?」


「 今、言おうと思ってたんだよっ‼︎」


「 それは、すいませんでした」


「 これだから、近頃のやつはだめだっていってんだ‼︎ 頭が軽い奴ばっか‼︎」


「…生意気だから、もぅ一発いっとこうか?」


「 すいませんすいませんすいません‼︎」


 目の前にいる狼の後ろをむんずっと掴むと斎鹿はニッと口を緩めて思いっきりシェークした。



ありがとうございました。


お気に入り小説登録数1000件突破、ありがとうございます。

これからも稚拙な文章ですが読んで頂ければ幸いです。


2014/11/03 編集致しました。

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