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第四十九話 馬車に乗ってランデブー

 馬車というものは見た目よりも優雅なものではない。

 慣れというものもあるだろうが、車や電車など乗り心地の良い座席で移動してきた斎鹿にとって馬車とは想像と違いかなり揺れる。道が整備されていなこともあるのだろうが、椅子から尻が弾むたびにいたくなる。

 アルファイオス家の馬車はさすがと斎鹿が目を丸くする程豪華な箱形の馬車で、天蓋つきの車両に両側には窓とドアがついていた。その馬車を2頭の馬がひき、御者がそれを巧みに操ってどこかへ向かっていた。馬車の側面には可憐な白い花と蔦が描かれ家紋も控えめに描かれ、窓には白いカーテンがかけられていた。

 斎鹿は弾む身体を何とか安定させてサリルトの顔を見詰めた。


「 こ、こりはなきゃな、か、にん、たいがいる」


 斎鹿の途切れ途切れの言葉に向き合うように座っていたサリルトは首をこてんと傾けた。


「 変わった言葉遣いだな」


「 す、きで、してるんじゃ、なぁいわよ」


「 もうじき舗装された道になる。それまでの辛抱だ」


「 もう、じきってぇ、あとー、なん、びょ、びょう?」


 斎鹿がサリルトを責めるように見詰めると、サリルトは片方の口角を上げてにやりと馬鹿にしたような笑みを浮かべる。


「 今からだ」


 サリルトの言葉と共にガタンと馬車が大きく揺れ、斎鹿の身体が前に座っているサリルトへと飛び込むように大きく飛んだ。サリルトは両手を広げ飛び込んできた斎鹿を受け止めた。咄嗟のこととはサリルトの胸に飛び込むなど斎鹿にとっては『空腹のライオンの元に飛び込むヤマアラシ』のようなものだ。必死にその厚い胸板を両手で押して離れようとするが、サリルトは斎鹿の脇に手を入れ抱き上げると自身の膝に座らせた。


「 こらぁ!何、なに、してん、のよ!」


「 痛い、顔を押すな」


「 こ、の、へん、たい、がー!」


 斎鹿は顔を赤くしながら片手でサリルトの頬を力一杯押した。サリルトは顔を無理矢理背ける形になった。それでも背中に回した手をどけようとはしない。

 サリルトは閉じられているカーテンの隙間から外を見るとまた不敵な笑みを浮かべた。


「 尻が痛かっただろう」


「…っ‼︎ べつ、に」


 サリルトの心が読めるのかとも思える発言に斎鹿は顔を押していた力を緩めた。

 恥ずかしがっている斎鹿と顔を合わせないようにくるりと向きを変えさせると、後ろから腹のあたりに手を回し抱き締める。


「 私の膝に乗っていれば辛くないだろう」


( 確かに、安定感がある)


「 これからさらに揺れるぞ。このまま乗っていた方がいいのではないか?」


 サリルトの顔は斎鹿からは窺い知ることは出来なかったがその声はからかっているように聞こえた。


「 何かしたら、叩くからね‼︎」


 斎鹿は尻がこのまま痛み続け尻の皮がずる剥けになるより、多少の屈辱に耐えようと決意した。しかし、腹が立つことには変わりなく、顔の見えないサリルトを睨みつけようと首を捻った。サリルトはその態度に目元を緩めて了解の返事をしながら腹に回した手に力を入れて斎鹿の身体をさらに引き上げ密着させた。サリルトの息がわずかに首にあたり背中がむずむずとしたが、斎鹿はそのぞわぞわが何か分からず、その密着に色気も感じずサリルトに対して『ただのでっかくてあったかい馬車の緩衝材椅子』と認識するだけだった。


「 …ねぇ、ルーの家族ってかなり変わってるって言われない?」


 斎鹿はわずかな無言の時間がなぜか気まずく感じ、サリルトに話しかけた。


「 お姉さんとお母さんは、とりあえず人の話を聞かないし、勝手に計画するし…。 お父さんは甘い物好き、というか言葉では済ませられないレベルだし…。 その割に言ってる言葉がまともなのか、まともじゃないのか掴めないし…。 ルーはルーで、好きじゃないっていったり、好意はあるっていったり…」


「 我が家は正常だ」


「 …自分じゃわからないのね」


 斎鹿は肩を落として息を吐いた。


「 ……はぁ、何で馬車に乗ってるんだっけ?」


「『あらぁん? もぅ、わたくし達ったら若い2人の大切な時間を邪魔したらいけないわねぇ。もぅ、言ってくれたらよかったのにぃ‼︎わかってるわよぉ、サリー。 早く2人っきりになって結婚する前にランデブーしたいんでしょぉ⁇ 母は、きちんと準備しておきましたぁ! なんとぉ、外に馬車が準備してありまぁす』、と馬車に無理矢理乗せられて行く場所もわからないまま走り続けている」


「 マリーナさんの口調でもルーが言うと可愛くないね…気持ち悪い」


サリルトは質問に答えただけなのに全く違うことを批判され、女は難しいと改めて思ったのだった。


ありがとうございました。


2014/11/03 編集致しました。

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