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第四十八話 父親は色々考える?

 サリルトの父・アーバインはアッシュブラウンの髪をサイド、バックは刈り上げたふんわりとした七三分けに黒縁の四角い眼鏡をかけた眉間の皺と歳から現れた若干の皺が似あうスマート強面紳士だ。

 身長はサリルトと並んでいるところを見るとあまり変わらないように見えるが若干サリルトの方が低いだろうか。上質の黒い上着に光沢のあるグレーのベスト、ウィングカラーには白いアスコット・タイを着用し、胸元には同じ色のハンカチーフ。黒とグレーの縞柄ズボンを穿き、光沢のある黒い靴が光っている。その姿はまさしくモーニングコートを着た正しき貴族様だ。

 そして、その妻・マリーナに対してまず思うことはシアンとそっくりだということだ。いや、母であるマリーナに似ているのだろうが並んでいれば姉妹と思われてもおかしくないだろう。その若々しい風貌からは2人も子どもがいるとは思えない。

 マリーナの髪は大きめの丸みと艶を出して自然で柔らかなカールのボブでシアンよりも幼く見える童顔からか、まるで小動物のように大きな瞳をきょろきょろと動かし頬をピンクに染めている。

 スカートのふんわりタックと裾のチュールが可愛いネイビーワンピースの上に白い薄手のボレロ、白く細い首には真珠のネックレスがつけられ、足元はきらきらと光る宝石が散りばめられたT字ストラップサンダル。まるでパーティにでも行くような格好だ。


「 お待たせしました」


 寝起きから突然襲われた斎鹿は、身なりを整えて執務室への扉を開くと、優雅に朝からティータイムが催されているようだ。扉を閉めソファのある方へと向かうと、父母と向きあうようにサリルトが2人掛けソファに座っていた。


「 あらぁん、これはまた変わったお洋服ねぇ」


 斎鹿が着ていた服は昨日と同じパーカーに濃紺のジーンズ、スニーカーが履かれていた。ちなみに、どうやらこちらの世界の下着も斎鹿の世界の下着もあまり変わらないようでその点は斎鹿も安心したものだ。今日もまたメイドにヒラヒラでフリフリのワンピースが用意されていたがもちろん斎鹿が着るはずもなく、いつもの格好で押し通したのだ。着替えを手伝いに来ていたメイドの不満げな顔は居心地が悪かったが、見ないふりをしておいたのはサリルトには伝えまいとサリルトの隣へと座った。


「 動きやすいですから、これがいいんです。わざわざ服を用意して下さってありがとうございます、マリーナさん」


「 ママって呼んでぇ?」


「 無理です」


 幼子のように斎鹿の返事が気にいらないと頬を膨らませる。その様子はサリルトの年齢から考えて中年と言ってもいいというのに愛らしさが失われていない。


「 マリーナ」


 斎鹿がマリーナの愛らしさに見惚れていると、アーバインが空になったカップをマリーナの顔の近くへと差し出した。マリーナは『はいはい』といった感じでカップを受け取りポットから紅茶を注ぎ、近くに置かれていた砂糖瓶の蓋を開けてスプーンに1杯、2杯、3杯と溢れんばかりに入れていく。その行動にサリルトの袖をくいっと引っ張って小声で尋ねた。


「…マリーナさん、怒ってる?」


「 いや、父上はあれが普通だ」


 サリルトは斎鹿に顔を寄せ小声で答えた。その間にもマリーナは砂糖を入れ続けている。


「 もう砂糖だよ…紅茶じゃないよ」


「 もはや飲み物ではないだろうな」


 マリーナはティースプーンで回すとじゃりじゃりと音を立てていた。アーバインはそれを受け取ると、そのままスプーンでひたひたになった砂糖をすくって口に入れた。その姿は強面の顔からは想像できないほどの甘い物好きなようだ。


「…うっわぁ」


 斎鹿の小さな叫びが聞こえたのか、ティーカップに夢中だったアーバインは顔を上げ斎鹿を見詰めた。好物を食べているはずなのに何故か眉間の皺はいつまでたってもとれていない。


「 斎鹿、と言ったか…」


「 あ、はい」


「 私は今までサリルトには息子としてではなく、アルファイオス家の正しき当主となるように接してきた。 …そして、私が願ったようにサリルトは立派な当主となり領民を護り、陛下を支えている。 しかし…歳をとったせいか最近ではそれが正しかったのかと疑問に思うのだ」


 アーバインはカップをテーブルの上に置き、立ち上がると窓の方へと手を後ろに組んで歩き出した。サリルトは突然の父親の話に目を見開いたが、静かに語りかけるその声に黙って話を聞いた。


「 父親として、この子にしてやれることを精一杯してやっただろうか……マリーナは母親としても公爵夫人としても立派に務めを果たした。が、私は公爵として領民を守ること、陛下をお支えすることだけしか出来なかった。 父親として2人と共に野を駆けたことも、食事も碌に一緒にとれなかった男だ。今となっては後悔しかない。もしやサリルトが結婚をしないのは父親である私がふがいないせいだったからかも知れんと思うと」


「 父上、そのようなことは」


 窓の外を眺めたままアーバインの言葉はだんだんと小さくなっていった。その言葉にサリルトが思わず立ち上がり訂正しようとするが、どうやら父親にははっきりと言いたいことがまとめられないようだ。


「 あの、ァ、アーバインさん?」


 斎鹿は思い切って口を開いた。


「 アーバインさんが思ってるほどこの人は何も考えてないですよ。今、この人が変な犯罪とかしないで正しい公爵をしてるのはあなたを見てたからなんじゃないですか? 子は親の背中を見て育つって言うし、なんというか……この人結婚しなかったとかは全然お父さん関係ないと思いますだ!」


 語尾が変になってしまったと項垂れた斎鹿にサリルトは立ち上がり、大きな掌を斎鹿の頭に置き優しく撫でた。そして、そのままアーバインの隣まで歩いていく。


「 父上、私は父上のように立派な公爵になれたでしょうか?…私はそれだけを目指してきました。嘆かれるのは間違いです」


 サリルトは父親の肩に手を置いた。

 そして、いつの間にやら父が小さくなったように感じていた。


「 あーばぁびぃん、よがっだばねぇ…」


 その2人を見てハンカチを握りしめて涙を流すマリーナに斎鹿はこの空気は何なんだと戸惑っていた。テレビで見た親子モノのドラマのような展開に、正直どうしたらいいのかわからない斎鹿はとりあえず紅茶を飲むことにした。 


「 斎鹿」


「 ふ、へぇい」


 紅茶に口をつけようとした時に低い美声で話しかけられ思わず変な返事をしてしまった斎鹿は、紅茶を置いて頬を掻いた。アーバインは振り返り斎鹿の一挙一動も見逃さないような鋭い視線を向けていた。


「 これは父としての願いだ。 どうか、サリルトを幸せにしてやってくれ」


「……(はい、もちろんです!とドラマなら言わないといけないんだろうけどなぁ。ルーのお母さんの瞳からきらきらした光線がびしびし当たってくるし)」


「 よろしく頼む」


 アーバインが頭を下げた。

 やけになった斎鹿は思わず叫んだ。


「 へい、合点承知‼︎」


 花嫁らしからぬ返事で。



ありがとうございました。


2014/11/03 編集致しました。

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