第四十五話 新契約結婚の勧め・5カ条
侮蔑めいた斎鹿の視線がサリルトへと突き刺さる。
「 変態だ、痴漢だ、と思ってたけど…。 そりゃ、お姉さんも心配するわね。あぁ、やだやだやだ。 こんな変態色魔冷徹男とは無理‼︎」
両手を左右上下様々に動かして感情豊かに、まるで過剰に演技しているような素振りでサリルトへと言葉を降らせる。その言葉を微動だにせずに聞いていたサリルトは、斎鹿の結婚したくない発言には黙っていられなかった様子で斎鹿へと鋭い視線を向けた。残りの面々は面白くなってきたと顔を見合わせて笑っている。
「 な、何よ」
サリルトの鋭い視線に僅かに怯んだ斎鹿だったが、それよりも反抗心が勝ち自身を奮い立たせるように握り拳をつくっていた。
サリルトは斎鹿の態度に目を細めて立ち上がり、斎鹿を威圧的に見下ろした。
「 確かにその1の内容は気に入らない」
「 ひっ‼︎ やっぱりむっつり⁉︎」
「 最後まで話は聞け‼︎」
サリルトの言葉に静かになった斎鹿は口を尖らせ睨みつける様にサリルトを見上げた。
しかし、その行動はサリルトにとっては可愛らしいものでしかなかった。
「 性的な行為の禁止とあるが、私は妻以外抱く気はない」
サリルトの言葉に総一郎が茶々を入れるようにヒューと口笛を吹いたが、サリルトは気にする様子はなく斎鹿の肩に両手を置き、斎鹿を見詰めた。サリルトのその言葉に斎鹿は顔を赤くするどころか苦虫を潰したような、迷惑とも言わんばかりの顔だ。
「 …妻になるのはルーを愛してるからって訳じゃないし」
「 私は斎鹿に好意を持っている。 斎鹿にとって良い夫になるようにも努力する。結婚してくれ」
サリルトは真摯な眼差しで斎鹿を見詰め、甘くプロポーズの言葉を告げた。
シアン、ロハス、総一郎もサリルトのプロポーズにどよめいた。彼等はサリルトが女性を信用していない事、関係を持っても深入りしない事を守って今までの人生を歩んできたことを知っていたからだ。固唾を飲むように3人はサリルトと斎鹿をじっと見守っていた。斎鹿も簡単には真剣なサリルトの言葉に答えは出せないだろうと。
「 ごめんなさい」
斎鹿は肩を掴まれているので頭だけをぺこんと下げた。答えは意外にも簡単に斎鹿の中で出たようだ。
「 ちょ、そんな簡単に返事してええん⁉︎」
「 サリーちゃんのどこがいけないのかしらぁ? 性格?」
「 むっつりな所が嫌ってんなら、男はほとんどむっつりだぜ?」
外野で返事を聞いた3人はあっさりとした斎鹿の反応に前のめりになるように勢いよく話し出した。
サリルトは斎鹿の悩む様子すらない返事に肩に手を置いたまま固まっている。
斎鹿はうーんと悩むように首を傾けた。
「 だって、好きじゃないし。 性格はこんなんだってわかってますけど、むっつりとか、むっつりじゃないとかじゃなくて愛してないんです。 恩は感じてるけど愛はないんですもん。だから、契約結婚にしよって」
「 それは、これからも好きになる可能性はないということなのか?」
ゆっくりとサリルトが視線を合わせるように屈み、斎鹿に問い掛けた。
「 先のことはわかんないけど…今は確実にないね!」
斎鹿は笑顔と言葉という針を使いサリルトの心を残酷にも刺し続けていた
しかし、サリルトはその痛みに耐え、契約結婚の了承を斎鹿へと伝えた。
「 私も契約結婚を了承するにあたり、新契約結婚の勧め・5カ条を宣言する。 その1、もし夫を契約結婚中に愛した場合、その時点より契約結婚は破棄され、通常の結婚生活となるものとする。 その2、不貞行為は互いにしない。 その3、契約結婚中の斎鹿の元の世界への帰還方法は探す。その見返りとして、公爵夫人としての仕事をこなすこと。 その4、就寝、食事は必ず共に過ごすこと。 それ以外の城内行動は私に声をかけること。 その5、夫婦のスキンシップをはかること」
「 ちょ、3まではわかるけど、4と5は何なのよ⁉︎」
「 4、5は当然のことだろう。 契約結婚したとはいえ、何もかもが別行動、口づけすらもしないとあっては不仲説が出ても不思議ではない。 そのような社交界に噂を提供するような真似、公爵家として許されない。 斎鹿は私が斎鹿の就寝中に不道徳な行為をするとでも思っているのか」
「 思ってます‼︎」
斎鹿は間髪いれずにサリルトの問いに大声で答えた。その声には今日の路地裏での出来事を忘れたのか!という斎鹿の怒りも感じられた。
サリルトは斎鹿の反応に左手の掌を斎鹿へと向けて指をピンと伸ばした。
「 では、ここに誓う。 決して就寝中はそのような行為はしない。 この誓いの証人は姉上方がなって下さる」
「 …わかった」
サリルトは斎鹿のまだ納得しきっていない尖った唇に軽い口づけを落とした。
「 それはまだ許してないから!」
サリルトが斎鹿から腹に一発貰ったことは言うまでもない。
ありがとうございました。
2014/11/03 編集致しました。