第四十三話 長いものには巻かれろ
「 ねぇ、なんで⁉︎」
斎鹿の訴えに、ロハスは斎鹿を指差して大口を開けて笑っているし、総一郎はまたもや頭の軽そうな笑いを浮かべている。斎鹿は、総一郎は本当に頭が軽い、空っぽなのでは、とさえ思えた。
「 斎鹿ちゃんは、アルファイオス家に嫁ぐんやろ? そんな中途半端に『たぶん異世界から来ました~、テヘッ(笑)』ではすまへん。 そこで、斎鹿ちゃんには力のある後見人をつけて、その辺で悪い事考えてる貴族様やら王族様から守る、っちゅー賢い考えなわけや」
俺って偉くない?と言わんばかりの態度で鼻高々と告げた総一郎に、斎鹿は冷たい視線でおくった。そんな視線にもめげず、総一郎はサリルトへ視線を移した。
「 先程は教皇様の御前とは知らず、失礼の数々お許し下さい」
サリルトは座ったまま軽く頭を下げた。
本来なら不敬罪にも問われる態度だが、総一郎も片手を上げて許しているので形式的にはこれで公爵家と教皇とは何の確執も生まれずすんだのだが、斎鹿にはそれよりも後見人の方が気になり笑っているロハスをちらりと盗み見た。ロハスは未だにゲラゲラと笑っていたが、斎鹿が見ていることに気付くと咳払いをして何とか体裁を整えた。
「 よ、よろしくな、斎鹿」
ロハスはそう言うと口元を右手で押さえた。何事かと思った斎鹿だったが、押さえていた手から笑い声が漏れ聞こえるといよいよ斎鹿の怒りも頂点に達した。
斎鹿はロハスに右手の人指し指をピンと伸ばして、その指の名前の通りロハスを指差した。
「 笑われることしました?」
冷たい目で訴えた斎鹿の言葉もロハスの笑いを増長させるだけだった。
「 ぷはっ、わる、い、ハハっ」
ロハスはそれだけ言うと再び呼吸を整えた。まだ少しだけ発作のように口角がピクピクとしているが、先程よりだいぶマシになったといえる。
「 斎鹿のことを笑ってたんじゃねぇぞ。 お前、サリルトにとんでもない疑惑を抱いてたらしいじゃねぇか!」
思い当たる節がない斎鹿はその言葉に首を傾けた。
「 男色疑惑よぉ。 覚えてらしてぇ?」
「 あぁ!」
斎鹿はシアンの言葉に思い出したと声を上げた。そういえばそんなこともあったなぁと斎鹿は感慨深げに腕を組んで首を振っているがまだ今日の出来事である。
ロハスはシアンを自身の胸に飛び込ませるように力強く引き寄せて抱くと、斎鹿に威圧的な視線をぶつけた。
「 ま、面白い話ではあったが、俺の女を泣かせたのは重罪だな。 今回は結婚祝いに許してやるが、次はないぜ?」
「 ロハス様ぁ、 素敵ですわぁ!」
シアンはロハスの言葉に胸に凭れかかってその胸に手を置いた。そのシアンの手を握るようにロハスが上から手を重ねる。
斎鹿はそんな2人の様子に何も口にしていないのに何故か口の中が吐きそうなくらい甘ったるく顔が引き攣った。けれど、それを感じているのは斎鹿だけではないようで、隣を見るとサリルトも苦虫を潰したような顔をしている。
総一郎は2人の様子を見て、またか、とため息を吐いていた。そして、コホンっと咳払いをすると再び話し始めた。
「 まぁ、あっちの言葉に『長いものには巻かれろ』っていう言葉があるやろ? 斎鹿ちゃんは抵抗しとるみたいやけど…ここで公爵夫人になっとけば異世界の研究もしたい放題、飲み放題食べ放題、何でも放題や。 俺は教皇として、今でも戻る方法を探しとるし、ロハっさんはロハっさんで王立図書館に研究所作って何とかしようとしてくれとる。 同じ目的があるもん同志、連絡が取り合える地位にいた方が連携が取り易い。 一時の我慢が未来の自由に繋がるんやって考えて、ここは結婚しとかんか?」
「……」
斎鹿はサリルトの顔を見た。横顔はやはり整っている。
今日の城下町でのサリルトは優しかったり変だったり変態だったりと色々な一面を見ることが出来た。しかし、斎鹿にはこのまま流れに流されてしまっていいのかという不安もあった。サリルトは斎鹿が見ていることに気付くと椅子に無造作に置かれた斎鹿の左手を力強く握った。その手はとても大きくあたたかかった。
なぜだか、その手のあたたかさに斎鹿の不安はどこかに行ってしまったように心が和いでいった。
「 …わかった!」
斎鹿は思い立ったように声を上げた。総一郎が手を打って斎鹿に期待の眼差しを向け、サリルトも目を見開いて斎鹿を見詰めた。
「 契約結婚しよう?」
「 いや、なんで⁉︎」
ありがとうございました。
2014/11/03 編集致しました。