第四十話 さぁ、呼び名はどれがいい?
そこは8畳ほどのレトロな店だった。
サリィへの土産物を捜し石畳の道をしばらく歩いた斎鹿とサリルトだったが、斎鹿が店の前に出されたハンドルのついたシンプルなバックに興味を示しその店に入ることになったのだ。
その店はナチュラルで可愛らしいバック類や雑貨などを扱っているようだった。
「 ねぇ、このバックどう思う?」
斎鹿が手にとってサリルトへと見せたのは、肩掛け出来る濃茶のベルトのついた角の丸い四角い白いバックだった。バックはキャンバス地で外側には大きなポケットが1つ、底部分には型崩れがし難いように平らになっている。
斎鹿はそれを右掛けにかけると左の腰骨辺りにきたバックの止めてあったマグネットを外し中をごそごそと探索している。
「 これ、結構いいかも。 内側も小さなポケットついてるし、底は真っ直ぐになってるし、大きいし」
サリルトにはわかっていた。
彼女は「どう思う?」とは聞いてはいるが自分の意見など求めていないことを。
ここで「それでいいんじゃないか」や「どうだろう」の言葉を言えばそれこそ斎鹿が反発することは間違いない。
女性遍歴を重なるだけ重ねてきたサリルトだけに、今は斎鹿の斜め後ろでバックを探っている斎鹿を黙って見ていることしか出来ないのだ。
「…これにしようかな」
斎鹿は後ろにいるサリルトへ上目使いでそっと見上げる。
サリルトは黙って自身の胸元へと手を入れると金貨を1枚取り出した。
「 これで足りるだろう」
「 絶対ぜったーいお金は返すから!」
両手を合わせ皿のようにして金貨を受け取った斎鹿は、眉間に皺を寄せて唇を尖らせて不満そうな顔だ。斎鹿の顔を見たサリルトは片方の口角を上げると斎鹿の額を軽く押した。
「 あぁ。 わかったから払ってこい」
サリルトの言葉を素直に聞いた斎鹿は店内に入りカウンターにいる老婆へとバックと金貨を1枚渡した。老婆は笑顔で代金を受け取り、お釣りの銀貨5枚と銅貨を7枚を斎鹿に手渡した。老婆が斎鹿に何かを言っていたようだが、斎鹿はバックに手を掛けそのまま右掛けにかけると軽く頭を下げてお礼をいった。斎鹿は店外へと出るとサリルトに頭を下げた。
「 どうも、ありがとう」
サリルトは目を丸くする。
「…随分としおらしい」
「 色々世話になってるし、お金も借りてるからお礼しないとね」
サリルトは斎鹿の頭に片手を置き2度軽く弾ませると髪をぐしゃぐしゃに撫でまわした。なぜだかそうせずにはいられなかった。2人の間に甘い雰囲気が流れる。
「 礼というなら…名前で呼んでくれ」
「 いや、それは無理」
「 なぜだ」
「 だって、サリィと名前かぶってるし。サリルトって言い難いもん」
「 ならば…私の呼び名を斎鹿が決めればいい。 礼がしたいというならばそれがいい」
斎鹿はサリルトの言葉に肩掛けのベルトを両手で擦りながら口を尖らせ考える。別に害もないかと結論に至ったところでサリルトへと頷いた。
「 じゃ、変態のヘータ」
斎鹿は邪気のない満面の笑顔だ。
「 却下」
「 変態はあんたの代名詞じゃない。 じゃ、ち」
「 痴漢のチータもなしだ」
「……よくチータがわかったわね」
サリルトは斎鹿の頭に乗せていた手を下ろし、頭が痛む自身の額を押さえた。
斎鹿はそんな様子を不貞腐れた顔で見上げている。
「 頼むから…もう少し考えてくれ」
斎鹿はその言葉に空を見上げて考えた。
小声で何か呟いている。
「 …サリィはいるから、残りはルト?」
斎鹿は突然手を打って思い付いたと顔を輝かせた。しかし、サリルトは不安を隠せない。
「 ルト、ルー、トォル、ルゥト。 どれかなぁ?」
「 驚いた…まともだ」
意外にもまともな案にサリルトは目を丸くした。
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い致します。
ありがとうございました。
2014/11/02 編集致しました。