表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/61

第四話 姉萌えの弟?

 静かな沈黙が訪れた部屋に扉を叩く音が響いた。

 サリルトが入るように促すと、静かに扉が開き、先程玄関で会った老紳士が真っ白なティーポットと鮮やかな模様が彩られたソーサーとティーカップを乗せたカートの横に立っていた。老紳士は、扉の前で一礼するとカートを押しながら斎鹿達がいる部屋に入り、開いた扉がまた静かに閉められた。

 彼は、まさしく執事というような皺一つない黒の燕尾服に白無地のウィングカラーのシャツ、白のベストに白の蝶タイ、袖には白蝶貝のカフスが輝いていた。髪はロマンスグレーのオールバック、顔は切れ長の瞳に穏やかな顔に銀縁眼鏡、手には白の手袋をし、ゆっくりと机まで来ると再びカートの横に立つと長椅子の面々に一礼した。


「 お茶のご用意をさせて頂きにまいりました」


 本物の執事だと斎鹿が驚いている間にも執事は流れるような作業でお茶の用意を整えていく。


「 どうぞ」


 斎鹿の前にも執事の言葉と共に優雅にカップが置かた。


「 わたくし、アルファイオス家筆頭執事マゼンタ・リッジと申します。 お嬢様、よろしくお願い致します」


「あ、斎鹿です。よろしくお願いします」


 斎鹿は座ったまま軽く頭を下げた。

 サリルトと姉上は、ダージリンのような香りのお茶を挨拶を交わしている2人を他所に味わっていた。マゼンタは、お茶の用意をし終えると公爵家当主であるサリルトに問いかけた。


「 サリルト様、お嬢様のお部屋のご用意ですが、西側の白鹿の間でよろしかったでしょうか?」


 マゼンタがにこやかにサリルトに問いかけると、サリルトは飲んでいたお茶をグッと詰まらせ咳を数回し、姉上は「あら」と意味深の笑みを浮かべて斎鹿を見つめた。斎鹿には何のことかわからずキョトンとしていると姉上が嬉しそうに話し始めた。


「 マゼンタったらぁ、ふふ、西側は妻の住まう場所。白鹿の間はその中でも一番の寵愛を受ける者だけが住まうことが出来る部屋なのよ。 昔は西側は何人もの妻を住まわせることからそれぞれの部屋に名前をつけて区別してたんだけどぉ、今は妻は一人だけと決まっているから他の部屋は妻の図書室やお茶室、音楽室なんかになっているの。だから、心配しなくても大丈夫よぉ」


 斎鹿は、「心配してないです」と言いたかったが、せっかく飲んでいた美味しいお茶を吐き出しそうだったのでグッと我慢した。


「 マゼンタ、彼女の部屋は東の客間を用意してくれ」


「 いい‼︎ 私、ここを出てく。あんたも迷惑そうだし、疑ってんならいないほうがいいでしょ?」


 サリルトがマゼンタに指示していると、斎鹿はそれを遮るように強気に言った。


「 疑ってはいるが年端のいかない子を放り出すようなことはしない。 それに、疑っているからこそこの屋敷にいてもらった方がこちらも監視体制が整えられる」


 歯を食い縛り、サリルトの言葉を聞いていた斎鹿は、この端麗な顔を殴ってやろうと立ち上がった。


「 馬鹿だ馬鹿だと思っていたけれど、本物のお馬鹿さんねぇ、サリルト」


 姉上が鋭い眼光でサリルトを見つめる。


「 斎鹿ちゃん、ごめんなさいね。 このお馬鹿な弟が失礼なことばかり言って。 殴りたかったら殴っちゃって。 だから結婚出来ないのよねぇ……私、さっきの斎鹿ちゃんの言葉でサリーちゃんにはバシッと言ってくれる人じゃないとダメだと思ったの。 それに、さっき玄関先であなたに抱きついた時には、斎鹿ちゃんの記憶からは今までに言ってること以外嘘はなかったものぉ。 斎鹿ちゃんは良い子!」


「 姉上、私は結婚出来ないのではなくしないのです」


「 お黙り‼︎」


 姉上が斎鹿に穏やかに語りかける傍ら、実の弟サリルトには冷たく言い放つ。

 そのまま暫し姉上とサリルトが見つめ合い、サリルトは今日何度目かになる深いため息をはいた。


「 姉上がおっしゃっている以上、嘘偽りはないと言えるだろう」


「 ちょ、ちょっと待ってよ。 なんで急に…」


 突然打って変ったように発言を変えるサリルトに、斎鹿は戸惑った。

 先程まで自分を疑っていたような発言をしていたにもかかわらず、今は姉上の言葉とやらを完全に信じているのだ。


「 ちょ、あんた、私の言葉は信じないで姉ちゃんの言葉は信じるって…まさかシスコン?」


 身体をサリルトから少し離し、非難したような目で見る。サリルトは嫌な予感がしながらも、すかさず斎鹿に尋ねた。


「しすこん、とは?」


「シスターコンプレックス、姉ちゃん大好きってこと」


「違う‼︎」


 サリルトは今日ほど声を張り上げた日はないほど怒声を上げていた。


「 シアン様には記憶を視るお力があるのですよ」


 姉上のティーカップに新しくお茶を注ぎながらマゼンタが穏やかに言った。


「 シアン様?」


「私のことよぉ。 見ないようにすればちゃんと記憶は視ないように出来るしぃ、プライバシーはきちーんと守るわぁ」


斎鹿の問いかけに新しく注がれた紅茶の香りを味わっていた姉上が答えた。

 どうやら姉上の名はシアンというらしい。


「 姉上のお力は本物だ。 本当のことを言っているのなら、保護する必要がある」


「 では、西側のお部屋を」


「 東側の客間を用意してくれ。 それと、青の苑に剣が落ちていないか捜索するよう親衛隊のツナギに伝えろ」


 サリルトの言葉にマゼンタが穏やかに部屋を勧めたが、それを強く否定し、剣の捜索を頼むと右手を軽く振りマゼンタに退出するよう促した。マゼンタは笑顔のまま一礼し、静かに部屋を退出した。



ありがとうございました。


2014/10/24 編集致しました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ