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第三十二話 家庭教師?

 斎鹿の決意も虚しく、メインの牛肉スライスとじゃがいものピューレ添えも三口程しか食べられなかった。白身魚のムニエルをフォークで刺して食べようとしたが、サリルトにフォークを取り上げられて一口も食べないまま皿を下げられてしまった。

 斎鹿はサリルトをキッと睨みつける。サリルトはそんな斎鹿を素知らぬ顔で食べ続けていた。そして、すべての料理が出た後も斎鹿の空腹の腹は満たされることはなく、シアンの一言でマナー講座兼昼食会は静かに終わりを告げた。


 縄を外され、椅子から解放された斎鹿は立ち上がると、両手を組み合わせて頭より上にぐっと伸ばして大きく伸びをした。同時に首をぐるぐると回すと、骨がなる音が大きく聞こえた。ゆっくりと両手を下ろした斎鹿は右手を伸ばし人差し指をサリルトへと向けると眉を寄せて睨んだ。


「 ちょっと、何で私の魚盗ったの!」


「 …飢えたチモシーは可愛げがない」


「 誰がチモシーだ‼︎」


 斎鹿はサリルトの腹を目指し拳を撃ちこもうとするが、サリルトに頭を力強く掴まれて思い切り空振ってしまった。斎鹿は顔も上げられず必死に前へと体重をかけるが踵が高く上がるばかりでまったく進まない。

 サリルトはそんな斎鹿の様子を愉快そうな笑みを浮かべて見ている。


「 もぉ! サーちゃん‼︎ フォークを突き刺して食べるのもワイルドで素敵だけどぉ、お魚はフォークとナイフで一口ずつ頂くのがマナーなのよぉ」


 シアンは紙ナプキンの端をめくって内側部分を使い口元を拭うと、それを軽くたたみテーブルの上に置いた。


「 姉上のおっしゃる通りだ」


「 返してよ、さかなぁ‼︎」


 斎鹿は身体が前に傾けながら両腕を回すように何度も動かして攻撃を加えようとするが、サリルトは余裕の表情だ。


「 こらぁ、2人とも。 仲が良いのもいいけれど、時間もないことだしぃ…次のレッスンを始めるわよぉ」


 シアンはセバスチャンに椅子を引いてもらうと立ち上がり、右手を腰にあて左手の人差し指を立てて顔の横に上げ首を左手の方に傾けると不敵な笑みを浮かべた。

 その笑みに顔が引き攣ったサリルトは斎鹿の頭から手を離すと、全体重を前にかけていた斎鹿はそのままサリルトの胸へと不本意ながら飛び込んだ。最早サリルトの胸に飛び込んでもときめきはない。

 鼻を撃ちつけた斎鹿は顔を離すと手で鼻を押さえた。痛さに鼻血が出ていないか手を離して確認するが手には血はついていない。どうやら鼻血の心配はないようだ。

 

「 私もですか?」


「 あらぁ、 2人の問題でしょう? サリーちゃんが良くてもぉ、サーちゃんはダメダメなのよぉ? 2人で乗り越えなきゃね‼︎」


「…いや、ダメダメって」


 斎鹿はシアンの言葉に脱力すると乾いた笑みを浮かべた。

シアンは、出口である扉へと歩いて向かうと後ろを振り向いた。顔の少し下あたりで右手の指だけを合わせて動かし斎鹿とサリルトを呼び寄せる。


「 さぁ、早くいらっしゃい。すでに準備は整っていてよ‼︎」


 斎鹿とサリルトは互いに顔を見合わせる。何か通じ合ったのか頷き合い大きくため息を吐いた。それから2人はシアンに続くように扉の方へと向かう。

 サリルトは顔だけ後ろに向けマゼンタと視線が合うと小さく頷く。マゼンタは主の頷きに頬笑むと深く礼をした。それは、何かの合図のようだったが、傍で見ていた斎鹿は特に気に留めなかった。

扉を出た3人はシアンの先導の元、アルファイオス家で初めて通された応接室へと向かっていた。

 昼食をとった部屋から応接室まではそれほど距離はなく、すぐに扉の前に着くとシアンは扉に手を掛け手前に引いた。2人が部屋へと入ると、その部屋はすっかり様変わりしていることに気付いた。

 扉の正面の暖炉はあったが、家具は茶色を基調とした落ち着いた色ですべて整えられ、中央に机と机の両側に長椅子が置かれているはずの部屋にはすべてがない。まるで学生が座るような木材でできた2人掛けの長机と同じく木でできた背凭れと肘掛のある椅子が置かれていた。長机と椅子は飴色の木で釘等はなくすべて組み上げ式で造られているようだった。

 その前には扉と向き合うようにして置かれた移動式のキャスターのついた四方が茶色の板で囲われた大きな黒板、そのすぐ右側にはサイドテーブルが置かれていた。

 サイドテーブルの上には分厚い本が4冊程重ねられており、その横には正方形の掌ほどの白い箱があった。その箱の横には黒板消しもきちんと置かれている。


「 サーちゃん、サリーちゃん、座って待っていてねぇ」


 シアンは様変わりした部屋を見ていた斎鹿達に微笑みながらそう告げると扉をゆっくりと閉めた。閉められた扉の音が部屋に響く。先に動いたのはサリルトだった。

 サリルトは、姉に言われた通り左の椅子に座ると足を組んで目を閉じ黙っていた。斎鹿も渋々ながら、サリルトの隣の椅子へと腰掛けると上半身を前に倒して右頬を机につけて顔を横向けると自然とため息が出た。

 斎鹿は、視線を上げサリルトの顔をみると改めて整った顔立ちであることを認めた。

しばらく2人は動かず、そのままにしていると後ろの扉が突然開き、2人は姿勢を正し、座ったまま振り向くとそこには衣装替えしたシアンが立っていた。

 シアンはスタンドカラー風の襟と金色の釦がポイントの黒いツイードジャケットにふくらはぎまである落ち着いた黒のスカート、足には7㎝程あるヒールのY字のストラップシューズが履かれている。髪型は高く結い上げたポニーテールに今までかけられていなかった黒縁眼鏡をかけている。

 手には持ち手の部分は黒く、先に行くほど細くなった棒の先には赤いキャップがはめられた銀の指し棒が持たれていた。

 呆気にとられた2人は声もなく見詰めていると、シアンはゆっくりとした足取りで黒板の前へと歩いていく。

 その姿はまるで家庭教師のようだった。


「…嫌な予感」


斎鹿が身体を震わせ、静かに発した言葉はサリルトの思いと同じだった。




ありがとうございました。


2014/11/02 編集致しました。

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