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第二十八話 女王じゃないです?

「 似てる名前だと何かと不便じゃないですか? そもそも、この子は私が育てるつもりでここまで連れてきたんですから、この子の名付け権は私にあると思うんですよ‼︎ サリィって名前を日常茶飯事に呼び捨ては無理ですし…。 まだ、ローエングリンの方が100倍はマシです。 それにチモ男はかなり日本的には由緒正しいですよ。 私の国では、長男は一郎、一男など『おとこ』という意味の名前をつけられることが多いんです! というか、絶対です!」


 ベットの上で立ち上がり右手を握りしめて何とかチモシーの名前を変更しようと熱弁を奮っているが、サリルトは右の太腿に右肘をついて掌で自分の顎を支えるようにして如何にも馬鹿らしいといった雰囲気で斎鹿の話を聞き流している。

 シアンは、にこにこと腕組みをして話を聞いているが、その笑みは確実に反対意見を受け付けない構えだ。


「 もぉん、しょうがないでしょう? サリィはぁ、その名前が良いって言ってるんですものぉ」


「 …チモ男はしゃべってません」


「 人の揚げ足を取らないの」


 シアンはゆっくりとさらにベットへと近付き、斎鹿へとその白く肌理細やかな右手をすっと伸ばし人差し指を立て可愛らしく首を傾けた。


「 斎鹿ちゃん、お姉さまの言うことはぁ?」


 なぜだろう、優しい声と柔らかな笑みを浮かべているのに斎鹿にはそれが悪魔にしか見えないのは。


「 お姉さまの言うことはぁん?」


「 ぜ、絶対?」


 悪魔には庶民は勝てないのだ。

 

「 良く出来ましたぁ!」


 シアンは嬉しそうに笑みを深め、斎鹿は泣きそうな声でがっくりと項垂れ、その時からチモシーは『サリィ』となったのだった。


 3人は笹百合の部屋を後にし執務室へと戻ると、執務室にある大型2人掛けソファに斎鹿は足を床につけて、上半身だけを左に倒して身体をくの字に曲げ頭を肘掛けに預け、サリルトはその横で長い脚を組み腕組みをして座っている。近くの1人掛けのソファにはシアンがその長い脚を組み、右の肘掛けに体重を掛け身体を傾けている。チモシーは、傾いた頭の上でも器用にバランスを保って斎鹿の頭にしがみ付いている。


「 ねぇ、サリーちゃん。 あの時、ロハス様に連絡を取っていたのねぇ」


 シアンはサリルトへと真っ直ぐな瞳を向け、それを受け止めたサリルトは微笑を浮かべた。


「…お会いになられましたか」


「 予想外だったわぁ。 てっきり、お父様かお母様にご連絡を差し上げたのかと思っていたものぉ」


「 姉上をお止出来る方でなければなりませんので、あの方にお願い申し上げました」


「 ち、ちょっと話がまったくわかんないんだけど」


 斎鹿は先程のことに不貞腐れたまま頭を預けていたが、話が自分の知らないまま勝手に進んでいくのが気に入らず割り込んだ。その声にはまるでやる気が感じられない。


「おまえと私は、互いに別室に入り着替えただろう。 その時にセバスチャンの目を掻い潜り、浴室でロハス様に連絡を取った」


「…そんなこと言ってた気がする」


「 …適当だな」


「 まぁ、流され体質ですから。 で、ロハス様って誰?」


 サリルトは斎鹿の隠れていない耳を左手で握るとそのまま起き上がらせるように引っ張ると、だらしなく身体を預けていた斎鹿は突然の痛みに身体を起こした。

 斎鹿は耳にかかった手を払い除けるとサリルトを口を尖らせて睨む。

 

「 何すんのよ」


「 きちんとした体勢で聞け」


「……はいはい、口うるさいですこと」


「 はいはい、ではなく、はい」


「 はいはい、はい」


 シアンは両手の掌を胸の前で音を立てて合わせると嬉しそうに笑った。

 斎鹿とサリルトはその音にシアンへと視線を向ける。


「 明日には夫婦になるだけあって息がピッタリ‼︎ これで何の問題もなく、結婚式に向けて準備が出来るわぁん」


「 ち、ちょっと。 お姉さんが話に入ってくるとややこしいんですから」


「 姉上、結婚はするつもりですが、」


「 結婚しないから‼︎」


「 サリーちゃんも結婚する気になったのねぇ‼︎ 社交界注目のお似合いカップル誕生だわぁ‼︎」


「…話、聞いてくれます?」


「 さぁ、式に着る衣装の採寸はあと30分で始めるわよぉ。大仕事はまだまだこれからだわぁ!」


 張り切るシアンの耳にはもう斎鹿の言葉は聞こえていなかった。

 斎鹿は肩を落として項垂れるが、そんな斎鹿を横目にシアンは結婚式の用意についてや招待客についてサリルトに話し掛けている。サリルトはシアンの話に頷きながらもあまり派手にはするなという釘をさしているが、もうすでにシアンが準備していることを考えるとそれは無理だろうと考えていた。


「 …とりあえずロハス様から教えて下さい」


 斎鹿は項垂れてサリルトの腕の服を掴んだ。


「 …現フルーレ国王ロハス・フルーレ陛下だ。昨日から何度か名前が出ていただろう」


「 王様と知り合いなの?」


「 我がアルファイオス家は、昔から補佐役とし長年お仕えし、王家とは縁戚関係だ」


「 ふーん…意外と偉い人なんだ。 でも、お姉さんとどういう関係が?」


 斎鹿は未だに覇気のない目でサリルトを見詰めている。


「 何なのよ。 女王様かなんか?」


「 違う」


「あ、やっぱり? 性格はそうでもさすがに違うか」


「 まぁ! 斎鹿ちゃんたらぁ、私のことどう思ってるのかしら?」


 シアンは笑ったまま鋭い視線を斎鹿へと向け、その視線を感じた斎鹿は身を震わせサリルトへと近付く。


「 女王ではなく、妃だ」


「え?」


「 女王ではなく、妃だ」


「…え?」


「 しつこいぞ」


 予想外の正体に戸惑った斎鹿だったが、性格からして女王でも妃でもあんまり大差ないなと内心思ったことは内緒だ。



ありがとうございました。


2014/10/28 編集致しました。

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