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第二十七話 命名されたチモシー

 サリルトは斎鹿の上で馬乗りになったまま首だけを動かして扉に目をやると、そこには数時間前にセバスチャンに支えられながらアルファイオス家を後にしたシアンが優雅に立っていた。その顔を先程の悲しみに暮れた顔ではなく自信と希望に溢れた明るい顔だった。

 シアンは自分がサリルトに斎鹿への気持ちを気付かせなければという信念をどんなに斎鹿に文句を言われても貫き通す覚悟だったが目の前に広がる光景を見るとすでに問題は解決したようだった。

 男と女が1つのベットにいるのだ。何もないと誤解しない方がおかしい。


「 あらぁん。私すっかりお邪魔虫ね」


 屈託のない笑顔をベットに向けると、サリルトの下で斎鹿が抜けだそうと足掻いているが上にいるサリルトは気にも留めず元気になった姉に安堵のため息を吐いた。


「 姉上、」


「 サリーちゃん、お手紙ならこちらに来る途中で受け取ったわぁ。 斎鹿ちゃんに言われて勘違いしたんだけど、斎鹿ちゃんも勘違いしてたのねぇ」


「 斎鹿は私がしつけをしておきました」


「 まぁ! 仲がいいわねぇ」


「 勝手に和んでないで助けて下さいよ」


 斎鹿は暴れて髪も服も乱れてはいたが頭ははっきりと働いていたので呑気に姉と弟で話している場合ではないとベットに沈みながら大声を上げた。

 シアンはきょとんとした瞳をして左手で右肘を支えて右手の人差し指を立て悩んだように首を傾けた。


「 あら、合意ではなくて?」


「 全然合意じゃないんですけどっ」


「 私としては…既成事実は全然OKよ!」


「 いやいやいや、ダメですから」


 サリルトはシアンと斎鹿の言い合いを聞きながらため息を吐くと斎鹿の上から退くとベットの端まで行き、靴を履くとベットに腰かけた。

シアンはヒールの音を響かせながらベットへと近付いてくる。

 

「…ありがとうございます」


「 あらぁ、サリーちゃん。 何のお礼かしらぁ?」


 サリルトはシアンの言葉に何も答えずそのまま頭を項垂れると指を互い違いに組んで親指の第1関節を曲げて眉間を細かく何度も叩いた。シアンはそんなサリルトの様子に満足げに微笑むと、ベットの上で安堵したように肩を下ろしベットに身を沈ませている斎鹿へと視線を移した。


「 斎鹿ちゃん、お姉さまを騙すと酷いって言ったわよねぇ?」


 斎鹿はシアンの不気味なほどに優しい声に一気に身を起こすとシアンへと怯えた視線を向け、急いで先程まで逃げ惑っていたサリルトの大きな背中へと引っ付く。


「 あ、あれは、騙したんじゃなくて…わ、私も、そう思ってたんです‼︎」


 シアンは肩口からこちらを覗き見る斎鹿をまるで小動物のようだと微笑む。

 斎鹿はそれを何かよからぬことを考えているんだろうと一層サリルトへと身を寄せる。


「 ふふ、今回は許してあげるわぁん。 私も大切な弟を疑ってしまったんだものぉ」


 斎鹿はふぅっと小さなため息を漏らすと両手を後ろについて首を回したり左右に傾けて骨を鳴らしている。どうやら一気に気が抜けてしまったようだ。


「 でも、次はなくってよ?」

 

「…はい」


 シアンは満足げに微笑むと足元に何かが蠢いていることに気が付いた。それは先程まで丸くなって眠っていたチモシーで、どうやら突然騒がしくなり前足だけで身体を引きずって移動してきたようだ。


「 まぁ愛らしいわぁ!」


 足元のチモシーを両手で抱きあげたシアンは嬉しそうに頬擦りをしたが、チモシーは何が気にいらないのか短い手足を暴れさせ、身体を捻って何とか逃げ出そうともがいている。あまりに暴れるチモシーにシアンは身体を動かしたり、手で支えながら落ちないようにしているがそんなことはお構いなしにチモシーはさらに暴れる。


「 どうしたのかしら?」


 サリルトはため息を吐くと立ち上がりシアンの腕の中で暴れているチモシーの首筋を掴み持ち上げる。だらんと身体が垂れたチモシーはすっかり大人しくなった。

 サリルトは手に持ったチモシーをベットへと向き直り斎鹿の頭の上に乗せる。

 チモシーの顔は斎鹿の顔の丁度上にあり、ひくひくと鼻を動かすと、安心したようにそのまま大人しく引っ付いている。どうやらチモシーは斎鹿の頭を求めてここまで這ってきたようだ。


「 お名前はなんというのかしらぁ?」


 シアンが斎鹿の頭に乗って安心しきっているチモシーを見て微笑みながら尋ねた。


「 チモ男です!」


「 ローエングリンです」


 斎鹿とサリルトは同時に答えた。

 互いに言い終わると無言のまま睨み合いどちらも引く気配はない。


「 まぁ、斎鹿ちゃんもサリーちゃんも仲良しねぇ」


 シアンが2人の様子に右手を口に当てて笑っていると、頭を伏せていたチモシーが顔を上げてきょろきょろと辺りを見たがすぐにまた斎鹿の頭にその頭を伏せた。それに疑問を感じたシアンがじっと見ていると、閃いたように大声を出した。


「 この子、名前に反応してるんじゃないかしらぁ」


 それを聞いたサリルトと斎鹿は自分がつけたい名前を呼びだした。


「 チモ男」


「 馬鹿な名前で呼ぶな。ローエングリンだ」


「 誰が馬鹿よ!変な名前は嫌だよね、チモ男」


「 どこが変な名だ。センスのない名前よりはマシだな、ローエングリン」


 2人の名前付けは言い争いながらも続いて行くがチモシーは全く動く気配すらない。

 それどころか欠伸をしすでに楕円の瞳は閉じそうなくらいだった。


「 サリーちゃんたら楽しそうねぇ、うふ」


 その瞬間チモシーは閉じそうだった瞳をぱちっと開けてシアンをじっと見詰めている。

 まさか…と思いシアンはもう一度読んでみることにした。


「サリーちゃん? サリィ?」


 チモシーは首を傾けて「なに?」というようにすべての言葉に反応しシアンを見詰める。どうやら名付けようとしている2人を差し置いて、チモシー自身が名前を気に入ってしまったようだ。


「 やだやだやだ!」


「 ローエングリン!」


 事態に気付いた2人は必死に名前を呼ぶがチモシーはそのままシアンを見詰めている。

 名前を変える気はないらしい。

 シアンは右腕を前に出して親指と人差し指を立てて銃のような形をつくり左手は腰に添えると自信満々に言った。


「 命名、サリィよぉ」


「 い、嫌だぁっ‼︎」


 斎鹿は今日1番の大声を出して否定し、サリルトは今日1番の大きなため息を吐いた。



 

 

ありがとうございました。


2014/10/28 編集致しました。

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