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第二十話 親衛隊隊長の誤解?


「 ねぇ、名前何がいいと思う?」


 斎鹿はまるで子どもが産まれ母親のように嬉しそうにサリルトに尋ねた。


「 勝手につけろ」


 サリルトはため息を吐くと、青の苑に向かいその目でしっかりと前を見据えていた。

 斎鹿はチモシーを胸に抱きながらその顔を見詰め、サリルトの横をご機嫌で歩いていた。


「 じゃあ…チモ男とか」

 

「 チモオ?」


「 チモシーのチモに、男の子だから、お」


「…馬鹿の上にセンスもないのか、残念だな」


 サリルトは立ち止まると斎鹿に憐れみの視線を向け、大きくため息を吐いた。


「 なんでよ! チモ男、可愛いじゃない」


 斎鹿はサリルトの前に躍り出ると、抱えていたチモシーの脇を両手で持ってサリルトの顔の前に差し出す。サリルトとチモシーの距離はあと15㎝というところで止まり、チモシーは下半身を揺らしながら顔を傾けている。確かにチモシーはサリルトの目から見ても可愛かったが、名前が『チモオ』ではその巷で評判の可愛さ地に落ちるというものだ。


「 とにかくチモオはやめろ」


「 じゃあ、あんたなら何て名前にするのよ?」


 サリルトは目の前にあるチモシーの顔をじっと見詰めると、左手で右肘を持ち支えられた右手で顎を持つと黙り込んだ。どうやらふさわしい名前を考えているようだ。


「ローエングリンはどうだ? 昔話にチモシーに換えられた騎士が白鳥に換えられた姫を助け出したというのがある。 その騎士の名だ」


「 そんな名前呼びにくいじゃん」


 サリルトは斎鹿の頭を右手でグッと掴むとそのまま力を込めて下に押す。


「 痛い痛い‼︎何で押すのよー⁉︎」


「 おまえの『チモオ』よりはよっぽど良い名前であろう」


「 何でよ。 ロー…もう覚えてないわ!」


「 馬鹿が」


 前はツナギが止めに入ってくれたが、今回はまだツナギが斎鹿達に追い付いていないので斎鹿はサリルトに押され続けていた。斎鹿は両手をチモシーで塞がれて拳を放つことが出来ず歯痒い思いをしていたが、咄嗟にチモシーを背伸びをしてグッと上へと突き出す。


「 っ⁉︎」


 斎鹿の思った通りにサリルトの顔にチモシーの腹が当たったらしく少し呻いたのが聞こえた。それと共に頭を押さえつけていた力が緩まり、斎鹿は膝を曲げて身体をサリルトの手から逃れるように避けた。


「ばーか、ばーか。 私以下のチモシーにやられてやんの」


 斎鹿は鼻で笑うとチモシーをサリルトの顔から放した。


「 このっ、馬鹿娘が‼︎」


 サリルトは素早く背後へ移動し、背後から斎鹿の脇の下に通した両手を、首の後ろで組み合わせて動けないようにする。


「 ぐえっ」


「 馬鹿には力技しか通じんようだな」


 しばらくサリルトが締め続けていると、後ろからツナギが何か大声を出しながら走ってくるのがわかった。


「 サリルト様、無体はいけません」


 ツナギは斎鹿達に追い付くと、サリルトの手を斎鹿から引き離し斎鹿を自分の後ろに隠す。


「 誰がそんな馬鹿に無体を働くか。 私にも選ぶ権利がある!」


「 そうなんですか? 後ろから見たら、サリルト様が斎鹿様を襲ってるのかと思いましたよ」


 ツナギは首を傾け気まずそうに怒っているサリルトから視線を逸らした。斎鹿はツナギの後ろからサリルトに向かって舌を出して馬鹿にしている。それに気付いたサリルトは、隠れている斎鹿を引っ張り出そうと手を伸ばすが斎鹿は身体を引いて逃げるようにツナギの横へと移動した。


「 まぁまぁ、なんであんなことになってたんです?」


 まだ状況が掴めていないツナギは、まだ争っている2人に問いかける。


「 この子の名前を考えてたんだけど、あいつってば変な名前つけようとするんだもん」


「 それはこちらの言葉だ。おまえの方が変な名前だろう」


「 可愛いもん!」


「 私の方がまともな名前だ」


 ツナギは2人の話を聞いていると笑いが込み上げてきて、斎鹿の両手に抱かれているチモシーに視線を向けた。チモシーは上で言い争っている2人を首を傾けながら、斎鹿の腕を登ろうと上半身を伸ばしている。


「 初めて産まれた子どもの名前を付ける新婚夫婦みたいですね」


 ツナギは2人に向けて悪気のない笑顔で言い放った。その言葉を聞いた斎鹿とサリルトは言い争いをやめ、硬直した身体をゆっくりと首だけツナギに向ける。

 

「 絶対嫌だ…こんな性格最悪男と結婚なんて」


「 冗談でもやめろ! これが女主人ならアルファイオス家は没落だぞ」


 サリルトは領民からも騎士たちからも尊敬されていたが、感情を表に出さない無愛想な主人でこんなに激しく叫んでいるのは見たことがなかったし、斎鹿はマゼンタに聞いた話によると大人しく愛らしい少女ということだというので、すっかり打ち解けて仲が良くなったと思っているようだ。


「 わかってますから、大丈夫ですよ」


「 わかってないから。全然わかってないから」


 何かを察したように含み笑いをして2人を交互に見たツナギに斎鹿は誤解されてなるものかと必死に喰い付く。その必死さがツナギには照れているようにしか見えていなかった。


「 ツナギ、違う」


「 サリルト様、わかってますから」


 サリルトにはわかっていた。

 ツナギと長い付き合いをする中で一度自分が決めてしまったことを覆すことをツナギは絶対にしないということが。


「 だから、違うって!


「 わかってますから、ふふふ」


「 わかってないからっ‼︎」


 チモシーの名前はまだない。



ありがとうございました。


2014/10/26 編集致しました。

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