表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/61

第二話 お嫁になります?

 サリルト・アルファイオス。

それが、斎鹿を保護した男の名前だ。


 森の中を男に手を引かれるまま歩いていると、サリルトが自分の名と公爵家のことなど色んなことを斎鹿に話した。サリルトとしては斎鹿の様子を伺うためだったのだか、斎鹿は自分を安心させるためだろうと止めどなく流れる涙を拭いながら聞いていた。

 サリルトは、フルーレ王国の公爵で国王を補佐する仕事についているということを話して聞かせた。斎鹿はサリルトの言っていることの半分も頭に入ってこなかったが、サリルトが高い地位にいる人物だということはわかった。

 しばらく歩くと、高い木々の間から斎鹿がテレビの『ヨーロッパの旅』観たような城が現れた。白い壁に傾斜のある青い屋根、壁の窓のいくつかからはカーテンがそよいでいる。あまりの事にびっくりしている斎鹿をよそにサリルトはどんどんと城へと近づいていく。手を引かれるままの斎鹿は、そのままついていくしかなかった。

斎鹿は口をあんぐりと開けて、周りをきょろきょろと見回しているうちに、大きな入口の前まで着いてしまった。

扉の左右にいた兵士がサリルトに気付くと持っている槍を扉の前で交差させると、大きな扉が勝手に開いていく。


「 おかえりなさいませ、サリルト様。……と、どちら様でございましょうか?」


出迎えた老紳士は燕尾服で丁寧なお辞儀をすると目を丸くした。

 城内は、豪華絢爛の一言しかでないような造りだった。天井には大きなシャンデリア、床には金の模様が彩られた赤い絨毯が全面に使われ、そこらかしこに置かれている陶器や彫刻、絵画は斎鹿が見ただけでも高級品とわかる。

 中に入り、しばらく呆けていた斎鹿は突然柔らかいものに顔を包まれた。


「 ……むがっ⁉︎」


「 ようこそ! アルファイオス公爵家へ。あなたみたいな可愛らしいお嬢さんが妹になると思うと嬉しいわ。 サリルトは、顔は良いけど無愛想で冷たいし、本当に殴りたくなるくらい正論ばっかりだから正直お嫁さんになりたいなんて奇特なお嬢さんはいないって思っていたのだけど、これで私も安心だわ」


 サリルトと同じ銀髪の巻き毛で、真っ赤な胸元が大胆に開いているAラインワンピースが妖艶さと可愛らしさを醸し出している。サリルトと同じ瞳を潤ませて、斎鹿をさらにきつく抱きしめた。

 158センチで幼児体型の斎鹿と170センチほどのセクシークイーン大胆美人、差がある2人だけに斎鹿にとっては肉体的にも精神的にも苦しい。


「 姉上、離して下さい」


 冷静な声と共にサリルトは姉に手を伸ばし、斎鹿を助け出した。

 頬をふくらました女性は、両手を腰に当て不機嫌そうだ。


「 まぁ、サリーちゃんたら。 ふふ、花嫁を盗られるのが悔しいのね」


「…違います」


「 もぉ、早速ダーリンにもサリーちゃんの結婚を知らせてあげなくっちゃ」


「 ……違います」


「 披露宴や結婚式は盛大にしなくちゃいけないわね。 セバスチャン、予約してあげて。 まぁ、これからが忙しいわね。 急がなくっちゃ」


 呆れてものも言えないというように大きなため息をサリルトは吐き、姉と姉の後ろに控えていた執事セバスチャンを送り出した後、玄関に控えていた老紳士に扉に鍵をかけるように伝えると再び斎鹿の手を引いて城の奥へと歩き出した。

 

 歩き出してすぐの左側の扉を開けると、応接室のようで扉の正面に暖炉があり、家具は茶色を基調とした落ち着いた色ですべて整えられていた。応接室の中央に机と机の両側に長椅子が置かれている。

 サリルトは、斎鹿を片側の椅子に座るように声を掛けた。斎鹿が座ると、一度部屋を出て先ほどの老紳士にお茶を用意するように声を掛けているのが聞こえた。

 サリルトが戻ってくると斎鹿はいつの間にか驚きすぎて涙が止まっていることに気がついた。


「 それでは…なぜあそこにいたのか答えてもらおうか」


 斎鹿とは反対の長椅子にゆっくりと座ったサリルトは、座ったまま斎鹿を見下ろした。

 斎鹿は今までの経緯を話した。

 

「……わからないんです。 道を歩いていたら変な黒いのが出て、追っかけてきて、神社の御神体の刀をかまえて、そしたらピカッて光って気が付いたら……」


「落ち着け。 言っていることの半分もわからん」


 涙を流しながら必死に話そうとする斎鹿に、ため息を吐いたサリルトはその場を立ち上がり、ゆっくりと斎鹿の隣へと腰かけた。斎鹿の肩に手を置き、斎鹿にハンカチを差し出した。

 その時、閉めたはずの扉がバタンという大きな音をたてて開き、先ほど嵐のように去って行ったはずの『姉上』と呼ばれていた人物が再び現れたのである。

 そして、2人を見つけると満面の笑みで、引きとめようとしていたであろう老紳士執事を押し退けて室内にヒールの音を響かせて入ってくる。サリルトが手をかざし、引きとめようとしている執事に下がるように合図すると執事はサリルトに一礼し部屋を退出した。


「 こんな昼間から女の子を手籠にしてるなんて、なかなか結婚しないと思ったらちゃぁんと相手がいたのね。日取りを決める前に両親に挨拶とか色々あるでしょ? だから、お父様とお母様にこの屋敷に来ていただけるように頼んだら、明後日にもこちらに来て頂けるそうよ。 私ってなんて弟思いなのかしらぁ」


 あまりの発展のはやさに、斎鹿とサリルトは何も言えずに固まってしまった。

 サリルトが姉に冷たい眼差しを向ける。


「 姉上、私と彼女はそのような関係ではないと先程も否定しました」


「 でも、サリーちゃんがこの家に女の子を連れてくるのは初めてでしょ?

 つまり……結婚するってことでしょ⁇」


「……違います」




ありがとうございました。


2014/10/23 編集致しました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ