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第十八話 冷静沈着な弟?

 (そんなことはないと信じていたの…確かにサリーちゃんは、姉の私から見ても魅力的で、顔も整ってるし地位だって、お金だってたくさんもってる。それなのに、28歳になっても結婚どころかどこぞのお嬢さんとの噂も、使用人との噂も何にもないのはおかしいとは思っていたのよ。でも、私は、大事な弟が…男性が好きだなんて思ってもいなかったの。結婚しないのは、あの件でのことが原因でサリーちゃんが言うように「出来ない」のではなく「しない」んだって信じてたのよ。なのに今更女の子がダメだなんて。知らなかったとは言え、あの子には辛い思いをさせてしまったわ。今まで偶然を装って女の子を紹介したり、同じ部屋に閉じ込めたり酷いことしてしまった。姉としては早く結婚して甥か姪の姿を見たかったけど、サリーちゃんが幸せなら私はそれを応援しようと思うの。だって、私はあの子のたった1人の姉だもの。

 今はまだ戸惑っているけれど、明日にはきっとまた笑顔で祝福してあげられると思うの。だから、待っててね、サリーちゃん。)


 アルファイオス家から走り出した2頭の馬に引かれた馬車の中、シアンは隣に座ったセバスチャンの肩にその身を預けてライトグリーンの瞳から零れた涙を右手に持った白いハンカチで拭った。

 そんなシアンの左手を力強く握り、セバスチャンはいつもの穏やかな笑みを浮かべているその口元をへの字にしてシアンを心配そうに見詰めていた。


 

 シアンは知らない。

 今流している涙はまったくの無駄であることを。

 シアンが涙を浮かべて懸命に考えている弟の幸せが斎鹿の勘違いによって伝えられた嘘であることを。

 サリルトがシアンに隠れて実はかなりの女性と一夜だけの関係を持っていることを。


 姉シアンはその事実をまだ知らない。

 そして、その勘違いはアルファイオス家を出てから5時間後にサリルトからの手紙が届くまで続くのだった。



 シアンが去った後の斎鹿の発言によってサリルトの機嫌は悪かった。

 姉は勘違いをして涙を浮かべて去ってしまったし、その勘違いを引き起こした斎鹿はジアを頬張りながらまったく悪びれた様子もなくサリルトを憐れんだような眼差しで見詰めてくる。

 サリルトにとって、感情を露わにするというのは自分の感情を制御出来ない者が短絡的に答えを導き出して起こる無益極まりないものであって、物事に対して常に冷静沈着に感情を露わにしなければ人からは『無愛想』『冷血漢』と罵られるが物事の善し悪しを有益に判断することが出来る。

 だから、サリルトは決して今まで感情を必要以上に露わにしようとはしなかった。

 それが今、隣でジアに齧りついている斎鹿が来てから、予想外のことばかり言い出し調子が狂わされてばかりだった。


「 姉上には後で手紙を差し上げる。お前も一筆書いて、姉上にお詫び申し上げろ」


「 はいはい、書きます書きます」


 斎鹿は食べ終わったジアを包んであった紙ナプキンを丸めながらサリルトに相づちを打つ。

 その斎鹿の態度にサリルトが斎鹿の頭を軽く叩くと、斎鹿がすぐにサリルトの腹に右手の拳で一撃を入れる。


「 まぁまぁ、2人共落ち着いて」


 今にも殴り合いを始めそうなサリルトと斎鹿にツナギは宥めるように両手を開いて制すると、サリルトの顔を見て嬉しそうに笑った。

 

「 サリルト様がお怒りになるのを初めて見ましたよ。 いつもは澄ました顔をして手であしらうのに」


「 怒ってはいない」


「 いや、あんた昨日から結構短気に怒りっぱなしじゃん」


「 そうなんですか?」


「 そうそう、腹立つことばっか言ってくるし」


 サリルトは斎鹿の頭を掴むとその頭を握り潰しそうな勢いで力を込める。

 斎鹿は痛みに涙目になって自身の手でその手を退けようとするが、サリルトはまったく気にする様子もなく力を込め続ける。


「 痛い痛い痛い‼︎ 暴力反対!」


「 馬鹿のために頭に力を送ってやっているんだ。その軽い頭を活性化してもっと有益に使え」


 斎鹿の頭を放るように放すとそのまま青の苑の方がある方へと歩いていく。

 斎鹿はその後を追って行くとサリルトのすぐ後ろに立つとタイミングを合わせてそのまま自身の膝を曲げた。すると、サリルトも斎鹿と同じように勝手に膝が曲がってしまいバランスを崩してその場に膝をついてしまう。


「 ばーか。こんな古典的なやつに引っ掛かってやんの」


「 馬鹿娘がっ!」


 膝をついたサリルトの前に回り込んだ斎鹿は、右手の人差指でサリルトを指し左手を口にあてて馬鹿にしたように笑っている。

 サリルトは立ち上がると斎鹿の右手を掴もうとするが、斎鹿は笑ったままその手を後ろに引いて逃げる。そして、そのままサリルトを馬鹿にしたように笑うと背を向けて走り出した。

 その後を怒り心頭に発するサリルトが走って追うが、山で鍛えた斎鹿も負けじと逃げる。


「 これは…すごい。あのサリルト様がじゃれ合ってる」


 呆気にとられた様子で2人を見ていたツナギは遠ざかっていくサリルトと斎鹿を追う。

 普段から鍛えているツナギが必死で追うが2人はそんなツナギを他所に言い争いをしながらスピードを上げてその先を走っていく。

 それを見たツナギは内心、鍛え直さないと、と焦ったことはこの際黙っておく。

 

 サリルトが斎鹿の右手首を捕まえると、そこはもう森の入口だった。

 そこからは城が全体的に見渡せ、森の入口から城まではそれなりに距離があることがわかった。

 森の入口には白いレンガのアーチがあり、それを潜ると土の道が木漏れ日に照らされ、木々は青々とした葉をつけて風に揺らしている。


「 ごめんって」


「 本当に反省しているのか怪しいところだな」


「 反省してますって」


 怪訝そうな瞳で斎鹿を見詰めていたサリルトがふと視線を自身の真上にあった太い木の枝に移した。それを追うように斎鹿もそこに視線を向ける。するとそこには、体長50㎝程の艶のある黒い毛を生やしつぶらな黒い眼を斎鹿達に向け座っている動物の姿があった。


「 あれ何?」


「 チモシーだ」


「……えっ」


 


ありがとうございました。


2014/10/26 編集致しました。

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