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第十五話 背中の引っかき傷

斎鹿は椅子から突然立ち上がるとバランスの取り難いストラップシューズで、サリルトの執務室へと続く扉に向けてヨタヨタと走る。突貫忍冬の扉を開け、執務室を抜けて、サリルトの入っていった笹百合の扉をノックもせずに勢いよく開ける。


「 ごめん、バレた!」


 斎鹿が部屋に入ると、そこには上半身裸のサリルトとサリルトのシャツを持って着替えを手伝うセバスチャンが突然開いた扉を凝視していた。

 

「 ぎゃっ‼︎」


 サリルトが裸だということに気付いた斎鹿は奇声を上げ勢いよく扉を閉める。


「 やはり馬鹿だったか」


 扉が勢いよく閉まり、サリルトはセバスチャンが用意した新たなシャツに手を通しながら大きなため息を吐いた。



 笹百合の扉から出てきたサリルトは、マオカラーが特徴的なシングルの5つボタン、着丈は長く裾は丸型の黒の上下揃いのマオカラースーツとその上に昨日も羽織っていた黒いローブ姿で現れた。

 サリルトが斎鹿へと視線を向けると、斎鹿は執務室の北側にある大型2人掛けソファに足を床につけて、上半身だけを横に倒して身体をくの字に曲げていた。近くの1人掛けのソファにはシアンがその長い脚を組み、右の肘掛けに体重を掛け身体を傾けて斎鹿に笑顔を向けながら話しかけている。


「 私に嘘をつこうだなんて100年早くてよ、サーちゃん」


「 すいません」


「 綿密な作戦も立てずに私に挑もうなんてさらに500年は早くてよ」


「 …すいません」


 サリルトは斎鹿のソファの近くまで歩いて行くとそのままシアンに頭を下げる。


「 姉上」


「 サリルト、あなたにしては陳腐な作戦ねぇ。 こんな作戦、視なくとも幼児でも攻略出来てよ。それに、この作戦は元々私に作戦だということを気付かせるために仕組んだことでしょう?」


 斎鹿は起き上がりサリルトの座る場所をつくるように横にずれ、そこにサリルトが腰を掛ける。


「 申し訳ありません、姉上。おっしゃられるように、この作戦は姉上が作戦に乗って頂くために仕組んだものです」


「 …本当の目的は何なの?」


 シアンは鋭い視線をサリルトに向ける。 

 

「 姉上のことです。昨日、閉じ込めておいて今日何の確認もしないとは考えづらい。かといって、口頭では嘘か真は判断が付きにくい。 私が姉上なら姉上の力で記憶を視た方が確実だと考えます。けれど、弟である私にその力を使うのはリスクが高い」


「 今のところはその通りね」


「 それならば斎鹿の記憶を視た方が確実。案の定、姉上は斎鹿の記憶を視て嘘だということが明確なり、お気に入りに騙されお怒りにならないはずがない。そして、斎鹿を着替えと称して1人にすればそちらに必ず行くだろうと考えたのです。その間、私は姉上の監禁状態から解放され、自由に行動出来た。ということです」


「 セバスチャンはどうしたの?彼にはあなたを見張るように言ったはずよ」


「 確かに側にはいましたが、浴室にはさすがに入ってきませんでしたよ」


 シアンは深いため息を吐くと、椅子の背もたれに深く身を預けた。


「 ちょっと待って。それじゃあ、昨日私が聞いた作戦は嘘ってこと⁉︎」


 シアンとサリルトの話を聞いていた斎鹿はサリルトの言っていたことがまだ理解できていなかった。

 確かなのは昨日サリルトが言っていた言葉が今の話によるとすべてが嘘だったということだ。

 そう思うと斎鹿は心に炎が燃え上がり、サリルトを力の入った目で見詰める。


「 斎鹿には嘘は言ってはいない」


「…は?」


「 昨日何をしたらいいか問われ『姉上を惹きつけておいてほしい』と言っただろう。監禁状態を打破したいことも伝えた。父上に直接話すことも、明日になれば父上に話すつもりだった」


 サリルトのまったく悪怯れない様子に、ますます斎鹿の心に炎が大きくなり、右手の拳を胸元で握りしめ、感情の赴くがままサリルトの顔めがけてその拳を放つ。


「 あんたって本当に腹立つ」


「 すぐに手が出るな」

 

 呆れてように斎鹿の拳をとめたサリルトがため息を吐く。そして、斎鹿が左の拳をサリルトに向け、それをサリルトが簡単に止める。それをみていたシアンは堪らないといったように大声で笑い出した。


「 サリーちゃんの方が一枚上手だったようね」


 突然笑い出したシアンに斎鹿もサリルトも動きが止まる。

 そこへサリルトの着替えを手伝っていたセバスチャンが笹百合の扉を開けて現れると、一礼して主人であるシアンの席の後ろに立つと屈んでその耳元にそっと耳打ちした。

 最初は頬笑みながら聞いていたシアンだったが、一瞬大きく目を見開いた。


「 どうかなさいましたか?」


 シアンはサリルトと斎鹿の顔をまじまじと見詰め、先程とは一転天使のような笑みを浮かべている。しかし、その笑みは斎鹿にとっては天使というより玩具を見つけた悪魔のように見えた。


「 サリーちゃん、背中の傷はどうしたの?素敵な引っかき傷があるみたいね?」


 シアンが何のことを言っているのか理解出来なかったサリルトだったが、昨夜のことを思い出し今度はサリルトが目を見開いた。


「 斎鹿ちゃん、昨日は大変だったでしょう?」


「 はぁ?まぁ、大変といえば大変でしたけど」


「 一緒のベットで寝たのよねぇ?」


「 まぁ、離してくれなかったんで」


「 一晩中一緒に寝ていたのよねぇ?」


「 まぁ、そうですね」


「 寝たのよね?」


「…まぁ、はい」


 だんだんと斎鹿に顔を近づけながら迫ってくるシアンに戸惑い上半身をそらしてしまう。斎鹿の受け答えにサリルトは両手で口元を覆っている。


「 セバスチャン、今のしっかり聞いた?」


「 しっかりと聞かせて頂きました」


 満足そうに笑っているシアンとその隣で主人と同じように穏やかな笑みを浮かべているセバスチャンの2人は、なぜか斎鹿とサリルトに向かって拍手をし始めた。


「 何なんですか、お姉さん。恐いんですけど」


「 聞かない方がいい」


 サリルトは目を閉じ口元に両手をあて顔を下に向け、なぜか打ちひしがれている。

 その間も拍手は続く。


「 サーちゃん、おめでとう」


「 はい?


「 一夜を共にしたのね」


「はぁ?」


「 つまり、肉体関係があるってことね⁉︎」


「うぇっ⁉︎」


 まだ拍手は続く。


ありがとうございました。


2014/10/24 編集致しました。

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