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第十三話 執事は知らない

 ロマンスグレーの紳士、アルファイオス家筆頭執事マゼンタ・リッジ。

 彼は政務に忙しい主人に代わりアルファイオス家のすべての家政・事務を執りしきる。

 そんな彼には心配事がある。

 敬愛する主人、現サリルト・アルファイオス公爵の縁談についてだ。

 公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵の5爵の第1位であり、逞しい身体、流れる銀糸のような美しい髪、唯一無二の宝石のようなライドグリーンの切れ長の瞳、男らしくも整った顔立ち、現フルーレ国王ロハス様にも覚えがめでたい。これで良家の子女が何のアプローチもしてこないはずはない。

 しかし、良家の子息子女は齢16を過ぎれば結婚しているのが現状の貴族社会において、主人は齢28にもなって噂もなく恋人もなく綺麗な女性も可愛い女性もまったく興味を示さない。

 当然アプローチしてくる子女は玉砕。

 それならばと何気なく身分のない平民の女性を近くに配置してみるも、外面の良い主人に女性の方は好意を抱くものの肝心の主人は興味なし。

 まさか女性は好みではない?と怪訝に思いながらも今度は良家の子息を主人の側においてみる。

 やはり主人は興味を示さなかったが、少年の方はすっかり主人を尊敬してそれ以来当家に居着いてしまったが、これで跡継ぎは何とかなりそうだとこれには安心した。

 これまで主人の姉と共に見合いを仕組んだこと数十回、女性と同じ部屋に閉じこめたこと数回、主人は姉単独の企てだと思っているようだが、この家を知り尽くした執事もまた共犯であった。

 それがここにきて主人に急接近する人物が現れた。

 異世界からやってきた13,4歳であろう少女、斎鹿だ。

 彼女は、何者かに追われアルファイオス家庭園内に突如として現れた少女で、主人と出会って1日だがどうやらこれまで主人が出会った女性の中で主人が唯一素をみせられる人物のようだ。少女は当家に来た当初、自分に起こったことを受け入れられずに悲しんでいた様子だったが、それも主人との関わりによって早くも順応したようだ。

 これならば、アルファイオス公爵夫人になったとしてもすぐにその若さと順応力で一人前の公爵夫人として当家を支えてくれるだろう。一人前になるまでは執事である自分が足りないところを補って支えていけばいい。

 わずかな間で知った少女は、健康で元気、素直で言いたいことは言う。

 年齢もまだ若そうだが、若いうちから教養を学べば18にもなれば立派な令嬢となるだろう。主人の望むことを一番に考え、それを実行するのが執事の役目。

 彼は少女が訪れた日のうちにお家存続のため力を奮うことを決意した。

 

   

 執事は知らない。

 主人は少女を妻に望んではいないことを。

 主人は執事にお家存続のために力を奮うより、その老いた身体を労わってほしいと思っていることを。

 そして、少女が少女と呼ばれるような年齢ではなく女性として扱われる年齢だということを。

 

 アルファイオス家筆頭執事マゼンタ・リッジはこの事実をまだ知らない。




 マゼンタが2人の言い争う声を聞きながら物思いにふけっていた頃、言い争っていた斎鹿はやっと後ろを振り向くとセバスチャンがいることに気付いた。

 その姿を確認した斎鹿は思わす身体がビクッと反応してしまい黙ってしまう。


「 セバスチャンでございます」


「 いや、見ればわかります」


 斎鹿が答えるとセバスチャンは穏やかな笑みを浮かべ、そのまま斎鹿とサリルトに近付いてくる。


「 シアン様よりサリルト様の御召し替えのお手伝いをするよう言い付かって参りました」


「 そのようなこと不要だ。 当家には使用人も数多くいる。」


「 シアン様のご命令あればそれを叶えるのが執事でございます」


「 当家には当家の執事がいる。 姉上であろうと当家のことは当主である私に任せて頂く」


「 シアン様のご命令あればそれを叶えるのが執事でございます」


 サリルトの冷たい視線を浴びながらも、セバスチャンは引く気もないように穏やかな笑みを変わらずに浮かべている。

 恐るべき「ご命令あればそれを叶えるのが執事でございます」の力。


「 羊は何がしたいのよ?」


「…」


「 斎鹿、羊ではなく執事だ」


 確かに『執事』と『羊』は似ている。

 

「 だから、羊でしょ?」


「 執事」


「 羊」


「……」


 セバスチャンは今まで執事として誇りを持って仕事をしてきた。

 主人を敬愛し、主人の言葉には忠実に行動をしてきた。

 それなのに『羊』と間違えられたとあっては、穏やかな笑みは浮かべてはいるが頭の中では『羊』の鳴き声が「めぇ~」と響いて言葉を失ってしまう。


「 し・つ・じ」


「 ひ・つ・じ」


 斎鹿とサリルトの『執事』と『羊』の言い合いの応酬に我に返った『執事』セバスチャンはゆっくりとはっきりした声で斎鹿の目線に合わせるように背を丸める。


「 斎鹿様、わたくしは『しつじ』でございます。 サリルト様のお着替えをお手伝いするために来たのですよ」


 セバスチャンは、子どもに言うように難しい言葉を避けて説明をする。

 どうやらセバスチャンも斎鹿をまだ年端もいかない少女と思っているらしい。

 年端もいかない少女の無垢な間違えにむきになるような『執事』ではないのだ。


「 あっそ。じゃあ、手伝ってもらえば? ここにいても始まんないし、早く着替えてご飯食べたいし」


 そう言うと斎鹿はそのまま廊下を歩き出した。

  

「 仕方がない」


 サリルトは今日もため息を吐くとその後を追う。


「 ありがとうございます」


 セバスチャンも後を追い、目指す部屋に向けて足を進める。



 執事は知らない。

 年端もいかない少女が実は女性といえる年齢だということを。

 無垢だと思っている少女が邪心によってわざと『羊』と呼んでいることを。

 そして、その邪心によって呼ばれて『羊』が定着してしまい、これから『羊セバスチャン』と呼ばれ続けることを。


 シアンの執事セバスチャンはこの事実をまだ知らない。



ありがとうございました。


2014/10/24 編集致しました。

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